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1、、、、、、前世の記憶

上手くいかなかった時は朱音がいつも誘ってくれる。今回もそうだった。

「乾杯。」

二人して始まりの合図をすると、私はビールを口に流し込んだ。

「やっぱり、ダメだったね。」

「…あかねしゃん。」

頬が熱い。お酒は嫌いだ。ビールは苦いし、その苦さが体に沁みて、一人ぼっちな気分にさせる。

「一杯で酔うとは、また何だい、さゆりしゃん。」

クスクスと私の真似をする朱音。

「何でバグ消えないんれすか。」

「何で、何でだろうね。他にも問題があるかもね。」

「問題って何?」

私が聞き返すと、朱音は少し焦った様な顔をした。いや、焦った顔に見えただけ。あまりにも短すぎる一瞬で、すぐに思い違いだと片付けた。

「…うーん、問題って言うか、エンディングって何パターンかあるじゃん。」

「5パターン。」

「そうそう、その全部のパターン、ハッピーエンドもバットエンドも共通する事って何だ。」

一呼吸置いて、私は呟く。

「あるキャラが必ず死ぬ事。」

「曰く、悪役令嬢役の子だね、やっぱり救われないってのもね。」

「でも、エラが死ななかったら、物語が成り立たない…」

「うん、私もそう思うよ。」

少しの沈黙の後、朱音は私の頭を撫でた。

「よしよし。」

「子供扱いし過ぎ。」

笑い声が生まれ、少し楽になった。

「マスター、御勘定。」

“今日は私が奢る”と朱音に一言だけつげて、お金を払う。

「いつもご苦労さん。最近物騒だから、気を付けなさいよ。」

「マスターも、子供扱いし過ぎです。」

憎まれ口を叩きながらも、その店を後にした。

人間、誰もが自分には危険が起こらないなんて思っている節がある。二人で談笑して帰っている時、急に鈍い痛みが背中に走った。少し経ってから“刺された”のだと、気付いた。

朱音は怯えた顔で此方を見ている。

「逃げて!早く!」

酔いもすっかり醒めて、私は叫んだ。私を刺した人物は朱音を追いかけようとした。とっさに足を掴む。大きな舌打ちの音と同時に、また彼は刺す。街灯の灯りに照らされて、彼の顔が露になった。力が弛み、彼はまた走り出す。

“最近物騒だから、”

“本日未明、またも通り魔は女性を刺し現在逃走中、9人目”

マスターの声と今朝方見たニュースのアナウンサーの声。が耳元に大きく鳴り響いた。

“このままじゃダメだな。”

“よしよし。”

上司の声と、朱音の声も聞こえる。朱音は無事に逃げれたのだろうか。

“………”

心臓の音が大きく聞こえた。それに、紛れて誰かの声が聞こえる。段々と大きくなる音。

「煩い、煩い。」

口を動かす。ほんのりと血の味がした。

世界の煩さから逃げる様に私は目を瞑った。


「エラお嬢様、お起き下さい。」

私の名を呼ぶ声が聞こえた。辺りは静かで、従者の声とシルクの寝巻きが擦れる音が聞こえた。私は、黒い豊かな髪を何度か触った。感触がそれが現実だと告げていた。前世の私は、短い髪だった。この世界に生を受け、何度も見る夢。前世は私を逃してくれなかった。

「伯爵様がお呼びです。」

「そう、それなら、お父様にお告げなさい。呼びたいなら貴方の足で此方に迎いなさいと。」

「お嬢様!」

「文句がおありで?」

従者は御辞儀をして、そそくさと出ていった。

この世界は静かだった。

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