1、、、、、前世の記憶
前世の記憶がある、と言ったら、バカにされるであろう。
また、夢を見た。昔の私が死んだあの時の夢。
「紗由理、紗由理ったら。」
私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「なんで…これOK出ないんだろう、こんなに面白いのに。」
ぶつぶつと独り言を言う私に、朱音は新聞紙でポンっと優しく頭を叩いた。
「それは、言っちゃだめなお約束。」
「なんでよ、あっちゃん。」
不服そうな顔で言う私に、朱音はストレートの黒髪を揺らした。“小林”と書かれた社員プレートが蛍光灯の灯りで反射した。
「1つの作品に肩入れするのは、ダメだよ。他の作品の可能性を潰してしまうから…。」
涼しげな顔で言う朱音を見ると、何だか悔しくなった。
「けちー。」
「けちじゃありません!」
顔を合わせ、二人で笑いあった。
「水野に小林、会議始まるぞ。」
「はい。」
小さな会社ながら遣り甲斐のある仕事で、スマホのアプリ特にゲームの配信を行っている。私が企画を通したいゲームは所謂、乙女ゲームで“月下美人”と言う物。何処か人を惹き付けられる魅力があった。美しい挿し絵に、軽快な音楽、キャラクターの息遣いが聞こえるほどの細かさ。全てにおいて完璧だった。いや、完璧だと思われた。
「ですから、このゲームは魅力溢れる…。」
ホワイトボードの前で説明する私に上司は容赦なく厳しい言葉をかけた。
「で、結論。」
「はい?」
「バグは消えたんか?」
「それが、まだ…。」
「なら、話にはならん。プロなら完璧を目指せ。」
「はい…。」
毎回、同じ所で企画が止まる。
「どんまい。」
朱音は耳元で囁いた。