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僕の可愛い娘たち  作者: 881374
第四章、父と娘(タブー・ラブ)。
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第四章、その二

「……何で、こんなことになってしまったのだろう」

 夏本番のいまだ暑さ厳しき夕暮れ時。僕は落陽に真っ赤に染め上げられた自室のベッドの上に寝そべりながら、ため息まじりにつぶやいた。


 ひょんなことからたつ部長と初遭遇した会長殿であるが、なぜだか妙な対抗意識を燃やしてしまい、先日の宣言通りにこれまで以上に過激な行動に出るようになったのであった。

 もはや生徒会の仕事など放り出し僕にも文芸部に行くことを一方的に禁止して、日中はずっとこの部屋に入り浸るようになるわ、頼みもしないのに持参してくる二人分のお弁当はなぜだかスタミナ料理ばかりだわ、自作自演セルフポートレートの無修正ヌード写真集を作ってくるわ、ちょっと目を離した隙に部屋中を自分のポスターだらけにするわ、深夜や明け方には病的な愛のメッセージばかりを記したメールを大量に送り付けてくるわ、少しでも油断を見せればベッドへと引きずり込み過剰なスキンシップを行ってくるわと、まさしくヤンデレストーカーそのものの有り様となってしまっていた。

 そうなるともう一人のストーキング要員の隣のアズサさんも黙ってはおられなくなり、せっかく勝ち取ったクラブのレギュラーの座すら捨て去り本気ガチで四六時中こちらのことを監視するようになり、会長が暴走し始めるやすかさず現れて激しく角突き合わせていくといった始末であった。

 その結果僕のプライベートの時間なぞまったくなくなってしまい、まだ夏休み半ばだというのにすでに二学期の始業を心待ちにするようにまでなっていたのであるが、何と今日は奇跡的にもアズサは家族旅行に出かけてしまい会長のほうも女友達である副会長の御自宅に泊まり込んで勉強会をやるということで、実に久方ぶりの自由を満喫していたのである。

「……ということでちょっと早いけど、今日はこのまま就寝することにいたしますかあ」

 そうつぶやくや入浴どころか夜着パジャマに着替えもせずに、ベッドの上に身を横たえようとした、まさにそのとき。


「──うん。私、汗臭いお父さんも嫌いじゃないよ♡」


 唐突に目と鼻の先からささやきかけてくる、もはやすっかり聞き飽きた少女の声。

 思わず身を起こせばいつしか僕に覆いかぶさるようにベッドの上で四つん這いになっていたのは、涼やかな純白のワンピースに包まれた華奢なる肢体であった。

 黒絹の前髪の下で清冽でありながらもどこか淫靡な煌めきを宿している、黒曜石の瞳。

「……会長、いったいいつの間に。いや、だいいち今日はおまえ、泊まり込みで勉強会をするんじゃなかったのかよ⁉」

「うふふ。そういう名目でもないと、うちは外泊なんかできないからね。副会長にはいろいろと見返り(エサ)を与えることによって今や下僕化しているから、私の命令にはけして逆らえないし」

 いつの間にうちの生徒会内に、そんなブラックな人間関係が⁉

「だったらこの家にはどうやって入り込んだんだよ? 呼び鈴一つ聞こえなかったぞ」

「お庭でお掃除していたおばあちゃんにお父さんのことを驚かしたいからこっそりと入れてくれって頼んだら、快く引き受けてくれたわ」

 あの能天気母親には、常識や危機管理意識というものが備わっていないのか⁉

「さあ、これもすでに未来において確立している既定事項に過ぎないの。だったら余計なことなんて何も考えずに、朝まで二人でじっくりと愉しみましょう♡」

 そんな意味深なことを言いながらいきなり僕の右手をつかみあげ、何と自分の豊満なる左胸へと押しつける、あこがれのお嬢様にして年上の『娘』。

「ちょ、ちょっと、おまえ⁉」

「どう、見た目より大きいし柔らかいでしょう? 私の鼓動、ちゃんと感じてくれてる?」

 何この、ぷにぷにふわふわの天国の感触は。もしやあなたはノーブラさんだったのですか⁉

 思わぬ展開に呆気にとられている間にも少女は布団越しに僕の下半身へとまたがり、更にこちらへ身を寄せてくる。

 ワンピースの胸元から覗いている、たわわに熟れた谷間。

 すぐ目の前で舌なめずりをくり返す、鮮血のごとき深紅の唇。

 そしてあたかも天空の月が落下するかのようにゆっくりと近づいてくる、漆黒の瞳。

 まさに唇を塞がれようとしたそのとき、僕はわずかに残っていた理性を振り絞った。

「きゃっ!」

 少女の華奢な肢体を突き飛ばすやベッドにうつ伏せに押さえ込み、仕上げに右腕を背中へとひねり上げ完全に自由を奪う。

「……お父さんたら。まさかこんなプレイがお好みだったなんて」

 うるさい、黙れ。

「いや、そもそもおかしいだろうが。おまえの中身はあくまでも、未来から来た僕の娘の精神体なんだろう? それが父親とこんなことをしてもいいのかよ。それともやはりこれまでのことのすべてが、会長自身のお芝居か妄想だったというわけなのか?」

「違うわ! 正真正銘娘であるためにこそ、私はお父さんと結ばれなくてはならないのよ!」

 はあ? 何だよそれ。まさか未来の倫理観って、禁断路線上等にでもなってしまったんじゃないだろうな?

 しかしそれにしてもこいつ、何だか悲壮なまでの使命感すらも感じられるんだよなあ。

「そっちこそ何を遠慮なんかする必要があるの? この身体は──『お母さん』は、何から何まですべてお父さんのものなのよ? せっかくのチャンスを棒に振ることはないじゃない。だいいち私自身がいいって言っているんだから、何もためらうことなんてないのよ。しかも私はもちろんお母さんだって初めてなのだし、男としては最高の状況シチュエーションでしょうが?」

「お、おまえ、初めてのくせに母親の身体を使って父親と結ばれようとするなんて、いったい何を考えているんだよ⁉」

「──だって初体験はじめてが自分を作るための儀式だなんて、むしろロマンチックじゃない」

 こ、こいつ。ここまで狂っていたのか? もはや邪気眼などというレベルじゃないぜ。

「待ってくれよ、どう考えてもおかしいよ! こんな形で結ばれたところで会長もおまえ自身も、本当に幸せになれるわけがないだろうが? それに何よりも、この僕の気持ちのほうはどうなるんだよ⁉」

「……え。お父さんの気持ち、って?」

 僕自身無意識に口に出してしまった思わぬ言葉に、怪訝な表情となる少女。

「あ、いや。うまく言えないんだけど、僕はとにかくこの短い間で築いてきた、おまえとの関係を壊したくはないんだ。確かに会長のことは尊敬しているし、正直言って異性としてあこがれてもいる。でもそれよりもここ数週間おまえとずっとつき合っていくことによって、最初はあんなにうんざりしていたというのに、今や少なからず心地よくすら感じ始めていることに気づいたんだ。それは会長に対する敬愛やあこがれとも一般的な男女の好き嫌いの感情とも違っていて、いわゆる父親が娘に対するような親しみやすさや可愛らしさといったたわいのないものなのだけど、しかしそれこそが今の僕にとっては何よりも大切なものになってしまっていたんだよ。──だからこんな形で男と女の関係になることによって、せっかくのおまえとの絆を壊してしまいたくはないんだ!」

 自分自身すら完全には把握していなかった秘めたる想いを言葉にすることによって、僕はそのとき初めて認識する。

 目の前の少女がいつの間にか自分自身にとって、かけがえのない存在になっていたことを。


 そう。まさしく、己の娘に対するように。


 しかしそんな僕の長ゼリフを聞き終えるや、会長殿はなぜか麗しの御尊顔を真っ赤に染め上げてしまっていた。

「そ、それって、まさか……」

 ん? どうしたんだ、いったい。急に恥ずかしそうにもじもじし始めたりして。

「……お父さん、念のために聞くけど。それってつまりは今ここでお母さんと結ばれてしまうよりも、私のことのほうが大切だって言っているわけ?」

「えっ? まあ、あえて言ってみれば、そういうことになるけど……」

「だ、駄目よ、そんなこと!」

「へ? ──うわっ、ちょっと⁉」

 なぜだか僕の身体の下で、いきなり激しくあらがい始める少女。

「私なんかを好きになっちゃ駄目! お父さんはお母さんのことを幸せにしなくてはいけないんだから!」

「はあ? 何で急に話がそんなことになってしまうんだよ。僕はあくまでも自分の娘として、おまえのことを──」


「だって、そうとしか思えないじゃない。女の子が目の前で自分のことを好きにしていいって言っているのに、別の女の子を引き合いに出して拒んでしまったようなものなのよ! つまりは、その子のほうが好きだと言っているも同然でしょう⁉」


「──っ!」

 ……まさか……そんな……いや……でも……。

「お願い、私のことを好きにならないで! 私はあくまでも、お父さんの『本当の娘』になりたいのだから!」

「ちょ、ちょっと、落ち着けって。僕は別にそんなことなんかを思っては……」

「──ヒロちゃん。お茶菓子を持って来……あらっ」

 そのとき唐突に開けっ放しの入口から聞こえてくる、この場にそぐわぬ能天気な声。

 振り向けばそこにはお盆を両手で抱え持った純白のエプロンドレスも可憐な母上様が、目を丸くして立ちつくしていた。

「……あ、その、ごめんなさい。お邪魔だったかしら。お母さんこれからちょっと買い物にでも出かけるから、()()()()()()()スマホにメールでも入れてちょうだいね」

 おいおい。何だよその、余計なお世話的な気配り上手は⁉

 そんなわずかな隙を逃さず、僕の腕を振り払いベッドを飛び降りるや母さんの脇をすり抜けるようにして部屋から駆け出していく、上級生のお嬢様。

「か、会長⁉」

 思わず呼びかけるものの少女の足が止まることはなく、あっと言う間に玄関へと走り去ってしまった。

「……ヒロちゃん、本当にごめんね。でもきっと、またチャンスは巡ってくるわよ!」

 何だか頓珍漢極まる母親の言葉を右から左へと聞き流しながら、僕はベッドの上でただ呆然と思いを巡らせ続けていた。


 僕が逃げていくあいつを追いかけることができなかったのは、本当は心の底では彼女の言葉が図星であることに気づいていたからなのであろうか。

 このたびは『時間SF=ギャルゲ⁉』をキャッチフレーズとする、これぞタイムトラベル物の革命作にしてアンチSF小説の急先鋒、『僕の可愛い娘たち』第四章第二話をお読みいただき、誠にありがとうございます。

 この作品は『第六回ネット小説大賞』応募記念新作長編三シリーズ日替わり連続投稿企画の第二弾作品でありますゆえに、次話投稿の前に他の二シリーズ──第一弾の『ツンデレお嬢様とヤンデレ巫女様と犬の僕』と第三弾の『最も不幸な少女キミの、最も幸福な物語』のそれぞれの最新話の投稿が間に挟まれることになるので、次回第五章第一話の投稿は三日後の2月25日20時ということになります。

 少々間は空きますが、お待ちになられてけしてご損はさせませんので、どうぞご期待ください。

 なお、ご閲覧をお忘れにならないように、ブックマーク等の設定をお勧めいたします。

 もしくは皆様のご要望が多ければ、この作品単独での『毎日投稿』も考慮いたしますので、そのようなご意見やご感想等がおありでしたら、ふるってお寄せください。

 次話の内容のほうにちらっと触れておきますと、「何と生徒会長以外の幼なじみや美人教師等のすべてのヒロインたちともラブコメイベントが発生してしまい、あたかもギャルゲそのものの様相を呈し始めて、もはや胸を張って『これぞタイムトラベル物の革命作にしてアンチSF小説の急先鋒』などとは言いづらくなりつつあるが、実はこれこそが時間SFの秘められし本質だったりして⁉」──といったふうに、錯綜しているのか核心に迫りつつあるのか、非常に判断に苦しむ展開となっております。

 ちなみに明日2月23日20時にはもはやおなじみの、量子論と集合的無意識論とで『後期クイーン問題』を解き明かす、まったく新しいSF的ミステリィ小説『最も不幸な少女キミの、最も幸福な物語』の第二章第七話を投稿する予定でおりますが、これまた具体的な内容に少々触れておきますと、「作中作のラストを飾るのはもちろん、幸福な予言の巫女の一族の要たる当代の巫女姫にして実の姉でもある夢見鳥乃明との、東京ドーム地下の賭け将棋大会『オフ会』における雪辱戦だ‼」──ということで、お待たせしました! 勝手に『りゅうおうのおしごと!』のちゃんをヒロインにしての、なんちゃって美少女JS将棋ラノベ風味第三弾です!

 もちろんあくまでもお遊びはお遊びとして、何よりも肝心な『独自性オリジナリティ』と『面白さ』に関しても、本作『僕の可愛い娘たち』に勝るとも劣らないと自負しておりますので、こちらのほうもどうぞよろしくお願いいたします!

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