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僕の可愛い娘たち  作者: 881374
第五章、虚構(ギャルゲ)。
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第五章、その四

 目が覚めたらなぜか僕は、学園の保健室のベッドの上に横たわっていたのであった。


 ……何で僕は、こんなところで寝ているんだ?

 確かあれから部室を出て、図書館に寄っていくという部長と別れて。

 グランドに差しかかったとき誰かの叫び声が聞こえて、そして何かが飛んできて。

 ──いてててて。な、何だこの頭痛は?

 わからない。それからあとの記憶がすっかり消えている。

「あら。気がついたの? 赤坂あかさか君」

 そのときベッドの周囲を取り囲むカーテンをめくって現れたのは、白衣姿の保健医さん………ではなくて、

「せ、泉水せんすい先生? 何であなたが白衣を着て、保健室なんかにいるんですか⁉」

 そう。僕の目の前に突然現れた、メリハリのきいた肢体を孔雀色ブルーグリーンのタイトミニのスーツに包み込み、ゆるやかなウエーブがかかった淡い色合いの髪の毛に縁取られた彫りの深く端整な小顔をした二十代前半の女性は、間違いなく最近その暴走っぷりに拍車がかかったことで要注意な、新任教師の泉水サトミ女史(白衣ヴァージョン)であった。

 大人びた雰囲気の中でどこか妖艶さをも感じさせる、薄茶色の瞳。

「そりゃあもちろん、赤坂君を看病するために決まっているでしょ♡」

 そう言うやしなだれかかってきて僕の胸元に指先をはわせる、コスプレセクハラ女教師殿。

「──いやいや、その前に。そもそもどうして僕は、こんなところで寝ているわけですか⁉」

「覚えていないの? 聞いたところによるとあなたグランドの近くを歩いていたときに、練習中のサッカー部の蹴り損ないのボールが運悪く頭部に命中して昏倒したそうよ。結構大騒ぎになって大変だったんだから」

 ……そ、そういえば。

 確かにあのとき誰かが『──危ない!』とか叫んだので咄嗟に振り向いたら、いきなり何かがおでこの辺りに当たってきて、そのあとの記憶が途切れてしまったんだっけ。

 つまりあれって、サッカーボールだったわけなのか……。

 至極つじつまの合っている説明を受け、思わず納得しかけた、その刹那。

『──けして彼女たち「虚構フィクション」の存在に取り込まれてしまうんじゃないぞ。今こそ主人公としての君にとっての踏ん張りどころだからな』

 脳裏に蘇る、耳馴染みの上級生の少女の声音

 ──そうだ。こんなことが現実に起こるわけがあるものか。

 学園のグランドのそばをただ歩いていただけなのに、たまたま飛んできたサッカーボールが顔面にヒットして気を失って、目覚めれば昼下がりの二人っきりの保健室の中で、保健医でも何でもない新任の美人女教師とベッドの上で寄り添うことになるだなんて。


 それこそ、ギャルゲやラノベでもあるまいし。


「……んぐ、むぐぐぐぐ……」

 そのとき突然同じくカーテンに仕切られている隣のベッドから聞こえてきたのは、やけにくぐもった女性のうめき声であった。

 な、何だ⁉

 思わずカーテンを開け放てば、ロープで上半身をがんじがらめに縛りつけられ口元には猿ぐつわをかまされた無惨な姿でベッドの上に転がされていた二十代後半の女性は、何と紛う方なくこの部屋の本来のあるじであった。

「なっ。保健医さん⁉ ちょっと、泉水先生。これっていったい?」

「うふふふふ。決まっているじゃない。私のこれからのシナリオ進行の邪魔にならないように、そこで大人しくしてもらっているわけよ」

 振り返ればすでに人のよさそうな仮面をはぎ取り、邪悪にほくそ笑んでいる『女』の顔が見つめていた。

「シナリオって。それじゃまさか、この状況は……」

「そうよ。すべてはこの私がお膳立てしたことだったの。サッカー部の童貞ぼうやをちょっとした色仕掛けを使って言うことをきかせて、あなたにわざとボールを当てて保健室に運ばせて、そしてそこにはあらかじめ保健医さんの不意をつき縛り上げて彼女の代わりに白衣を着込んだ私が待ち構えていたってわけなのよ」

 まるで小説の一節でも読み上げるかのように少しも悪びれもせず告白していく女教師の姿に、今や頭痛のせいだけでなくいろいろな意味でめまいすら感じ始めた。

「……どうして、そんなことを」

「もちろんそれは告白同盟の誰よりも早く、あなたのことを自分のものにするためよ」

 そう言って更に豊満なる肉体を押しつけてきて、僕をベッドへと押し倒す何ちゃって女医。

「うわっ。ちょ、ちょっと、先生⁉」

「いくら選択権があなたにあるからといって、コンピュータでプログラミングされたギャルゲのヒロインでもあるまいし、選ばれるのを黙って待っている必要なんかないでしょ? 何せあなたをゲットした時点でゲームクリアなんだから、要は早い者勝ちってことじゃない。──ふん。何が告白同盟よ。そんなぬるい盟約でお互いを縛りつけようとするなんて、むしろ滑稽の極みだわ!」

 そして今度は四つん這いになって、薄い毛布越しに僕へと覆いかぶさってくる新任教師。

「ぼ、僕をゲットするって⁉」

「うふふふふ。言葉通りの意味よ。ごめんね、シナリオのためとはいえ痛い目に遭わせたりして。でも大丈夫。今からすぐにこの上もなく気持ちのいい思いをさせて、頭痛なんか忘れさせてあげるから♡」

 そう言って白衣とスーツの上着を同時に脱ぎ去って、薄手のブラウスに包み込まれたボリューミーな肢体を僕の目の前にさらす暴漢女教師。

「心配しないで。鍵をかけているから誰にも邪魔されないから。──ああ、そうそう。もしも抵抗なんかしようものなら遠慮なく大声をあげて、あなたに襲われたって訴えるつもりですので」

 ちょっ。何だよその、物理的にも精神的にも八方塞がりの状況は⁉

 もはやなすすべもなく横たわり続ける僕へとみるみる迫り来る桃花の唇に、万事休すかと思われた、まさにそのとき。


「「「──ちょっと、待ったあ!」」」


 鍵のかかった扉を文字通り蹴破って突入してきたのは、僕の幼なじみとクラス委員に従妹の中等部生という、御存じ暴走三人娘の皆様であった。

 ……って。またこのパターンかよ。

「な、何であなたたちが、ここに⁉」

 用意周到に準備したはずの保健室ステージシナリオがあっけなく看破されたことに、さすがに驚きを隠せないギャルゲヒロイン先生であった。

「あなたのことは要注意人物として、告白同盟の他のメンバー全員の総意のもと、常に監視させていただいたのです」

「何ですってえ⁉ ひどいわ、私一人をハブるようなまねをするなんて!」

「現にこのような抜け駆け行為を行っていながら、どの口が言いますか」

「そうでなくても元々あなたは、()()()()()()()だったというのに」

「……どういう意味よ、それって」

 唐突に飛び出した不穏な言葉に、とたんに表情を消し去る新任教師。

「いくらお父さんに選ばれようと私たちのような高校生や中学生の未成熟な身体では、健康な子供を授かって無事に出産できるとは限らず、一回のステージだけではクリア条件を満たせない可能性がありますが、成熟した肉体を有するあなたに限っては、その心配はほとんどありません」

「つまり我々の中で唯一あなただけが、たった一度のチャンスのみでゲームクリアすることのできるヒロインキャラとも言えるのです」

「よって我々はもしもあなたが一度でも何らかの抜け駆け行為をした場合は、同盟への裏切りと見なし物理的に排除することを決定したのです」

「はあ⁉ どうして私だけが、そんな目に遭わなければならないのよ⁉ 高校生だろうが中学生だろうが、妊娠するときは妊娠するじゃない! あなたたちのやっていることは単なる言いがかりよ!」

「だからといって、一番クリア条件が甘いはずのあなたが何度も抜け駆け行為をしようとするのを、黙って見ているわけにはいかないのですよ」

「抜け駆けの何が悪いというの? 結局は早い者勝ちなんじゃない! 自分たちが一回の選択肢イベントでは妊娠する可能性が低いからといって、私だけ排除しようとするなんて、やり口が汚過ぎるわ!」

「泣き言はどうぞ来世でおっしゃってください。我々だって自分の世界の命運を背負っているのです。異端者に対して手加減するわけには参らないのですよ」

 そう吐き捨てるように言い終えると同時に何と、ポケットや手持ちのポーチからそれぞれ大振りのナイフを取り出していく三人娘。

「……ふん。しょせんは分岐世界の不完全体イレギュラーか。予想通りの短絡的な行動ね」

 そう言うや、こちらもタイトミニのスカートのポケットから折り畳み式のナイフを取り出す新任教師。

 おいおい。まさか未来の女性同士の恋のバトルでは、ナイフ常備がお約束なのかよ⁉

「ちょ、ちょっと待ってくれ。おまえらまずは落ち着いて、話し合いでも──」

「お父さんは黙っていて! これは私たち『娘』の生死ミライを賭けた勝負なんだから!」

「「「そうよ。勝ち残るのが一人だけのサバイバルゲームに、話し合いなんて無用よ!」」」

 そんなおとこらしいことを叫びながら激しく斬り結んでいく、可憐なる乙女たち。

 もはやなすすべもなく呆然と見守り続けるばかりの僕を尻目に、たちまちのうちに全身傷だらけとなり、薄手の夏服や制服も無惨に切り裂かれ鮮血に染め上げられていく。

 それでも両陣営とも攻撃の手をゆるめることなくほとんど一進一退の激闘が続いていたのだが、結局は多勢に無勢というところか、不意に足を滑らせた女教師が踏ん張りきれずに空いていたベッドへと倒れ込んでしまった。

「「「もらった!」」」

「……くっ!」

「──やめろおおおおおっ!」

 まさにその瞬間とき。好機とみた少女たちが一斉にナイフを振り降ろすのと、必死に反撃を試みようと教師がやみくもにナイフを突き出すのと、何とかして止めようと僕が双方の間に割って入るのが、ほぼ同時に行われたのであった。

「「「「きゃあああああああっ! お父さん⁉」」」」

 激痛とともに意識を失っていく中で最後に耳に届いたのは、『娘』たちの悲鳴であった。

 このたびは『時間SF=ギャルゲ⁉』をキャッチフレーズとする、これぞタイムトラベル物の革命作にしてアンチSF小説の急先鋒、『僕の可愛い娘たち』第五章第四話をお読みいただき、誠にありがとうございます。

 この作品は『第六回ネット小説大賞』応募記念新作長編三シリーズ日替わり連続投稿企画の第二弾作品でありますゆえに、次話投稿の前に他の二シリーズ──第一弾の『ツンデレお嬢様とヤンデレ巫女様と犬の僕』と第三弾の『最も不幸な少女キミの、最も幸福な物語』のそれぞれの最新話の投稿が間に挟まれることになるので、次回第六章第一話の投稿は三日後の3月9日20時ということになります。

 少々間は空きますが、お待ちになられてけしてご損はさせませんので、どうぞご期待ください。

 なお、ご閲覧をお忘れにならないように、ブックマーク等の設定をお勧めいたします。

 もしくは皆様のご要望が多ければ、この作品単独での『毎日投稿』も考慮いたしますので、そのようなご意見やご感想等がおありでしたら、ふるってお寄せください。

 次話の内容のほうにちらっと触れておきますと、「『未来の娘』を自称するヒロインたちのガチの殺し合いに巻き込まれながらも、九死に一生を得た他称『お父さん』の主人公であったが、彼女たちの談合の結果みんなで彼を『共有』することが決定し、オールナイトで子作り──いや、『自分づくり』をすることを迫ってきて⁉」──てな感じで、前回同様もはや時間SFでもギャルゲでもなくなってきております。

 ちなみに明日3月7日20時にはもはやおなじみの、量子論と集合的無意識論とで『後期クイーン問題』を解き明かす、まったく新しいSF的ミステリィ小説『最も不幸な少女キミの、最も幸福な物語』の第三章第四話を投稿する予定でおりますが、これまた具体的な内容に少々触れておきますと、「他者を夢の世界そのものである集合的無意識に強制的にアクセスさせる力さえあれば、自作のミステリィ小説そのままの夢を見せて読者に創作物フィクションそのものの事件を起こさせることも──すなわち、()()()()()()()()ことも十分に可能となって⁉」──といったふうに前回に引き続いて、SF小説どころか量子物理学やユング心理学的にも、これまでにない驚きの新事実が判明いたします!

 もちろん何よりも肝心な『面白さ』に関しても、本作『僕の可愛い娘たち』に勝るとも劣らないと自負しておりますので、こちらのほうもどうぞよろしくお願いいたします!

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