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僕の可愛い娘たち  作者: 881374
第一章、告白(ログイン)。
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第一章、プロローグ&本文(丸ごと全部)

『第六回ネット小説大賞』応募記念、新作長編三シリーズ日替わり連続投稿企画第二弾、これぞタイムトラベル物の革命作にしてアンチSF小説の急先鋒、『僕の可愛い娘たち』の世界にようこそ!

 この作品は、タイムトラベルやタイムスリップ等の時間SFを、ギャルゲのフォーマットに当てはめてライトノベル化した、新感覚学園ハーレムラブコメです。

 時間SFと言うと、過去や未来に自在に行けて歴史に影響を与えることができるので非常に万能感があるけれど、その一方でご存じのようにタイムパラドックスとかループとかの何とも頭の痛い問題もあって、非常に複雑でわかりにくく思われがちですが、タイムパラドックスの原因ともなり得る過去へタイムトラベルしての歴史の改変──つまりは『新たなる未来セカイ』の再選択は、まさしくギャルゲの選択肢において新たにヒロインを選び直して別のシナリオルートを進めるようなものだし、何度も一定の同じ日時を繰り返すループについても、ギャルゲで言えば単にゲーム慣れしていないプレイヤーが意中のヒロインをどうしても攻略できずに、同じシナリオルートを何度もやり直しているようなものに過ぎないしで、ギャルゲになぞらえてみれば非常に単純明快で別に大したことではないようにも思えてくるものです。

 ──ただし、時間SFとギャルゲとの最大の違いは、ハーレムエンドがけしてハッピーエンドになるとは限らず、場合によってはこの上ないバッドエンドともなり得ることなのです。

 果たして本作の結末は、どうなりますことやら。是非とも皆様ご自身の目でお確かめください♡

 未来というものはけして、一つに確定しているわけではない。


 そう。それはあたかもギャルゲにおける選択肢でもあるかのように、我々(ゲーマー)次第では無限の可能性を秘めているのである。




  一、告白ログイン



「──赤坂あかさか君。実は私、あなたの未来の『娘』なの」

 その上級生の少女は放課後の二人っきりの生徒会室で、ためらいがちにそう言った。


 一見華奢でほっそりとしているものの女性ならではのおうとつも豊かな白磁の肢体に、黒絹の長い髪の毛に縁取られた日本人形のごとき端整な小顔。

 そして理知的な雰囲気の中でどこかいたずらっぽさをも感じさせる、黒曜石の瞳。

 しかもそれらを包み込んでいる極平凡な学校指定のブレザーの制服さえもこうして彼女が身に着けているだけで、あたかも清廉なる修道服にすら見えてくる。

 山王さんのうユカリ。この地方都市において栄えある伝統と最上の格式を誇る名門私立高校三年生にして現生徒会長であり、古式ゆかしき名家の末裔でもあるまさしく生粋のお嬢様。

 二年生にして同じく生徒会書記である僕、赤坂ヒロキにとっては本来なら言葉を交わすことすらできないはずの、文字通りの高嶺の花の存在なのであった。

 たしかにここ最近の彼女の自分に対する挙動が何となくおかしいことには気づいていたものの、まさかこんな展開になるだなんて。

 あの我が校きっての旧家の御令嬢で品行方正なる生徒会長殿が、何かと僕のことを気にしているようでもあったし。同じ生徒会役員とはいえこれまではほとんど接点がなかったというのに、今日に限って突然二人だけで一緒に残業してくれなんて言い出すし。

 もしかしたらそのままドキドキの告白シーンへと展開していくのではないかと密かに期待していたら言うに事欠いて、僕の『未来の娘』だと⁉

 ……同じ衝撃の告白をするのならそんなちゅうびょう的なのではなくて、もっと色っぽいのをお願いいたします。

「あ、あの、すみません。何と申したらいいのか。僕って前世とか来世とかそういうのは、昔からどうにも苦手でして……」

「──もうっ、()()()()たら。来世じゃなくて未来だよ!」

 お、お父さんって⁉

 思わぬ言葉に唖然となる僕を尻目に、麗しの御尊顔を上気させふぐのように膨らませている会長殿。

 ……そういえば、いつもはこれぞ名家のお嬢様ならではの上品かつ生まじめ極まる御様子であられるのに、何だか口調や動作や雰囲気が全然違っているような気もしたりして。


 そう。まさにこの瞬間ときこそが僕にとって文字通りの、運命の分岐点ターニングポイントだったのである。


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


 あまりの事態の展開に茫然自失となった僕を尻目に、彼女はただひたすら長々と語り続けていったのであるが、一言で要約すれば何と実は自分は未来人で僕と会長との娘であり、開発されたばかりの『精神体型タイムマシン』を使ってこの時代にやって来たと言うのだ。

 真空でもない限りはいかなる場所にも少なくとも空気の『分子』が存在しているのであり、元来一つの場所に二つの物質は存在できないという物理的大原則がある限り、空間的であろうが時間的であろうが瞬間的に人間や物質を他の場所に転移することになるテレポートやタイムトラベルなどといったものは絶対に実現不可能であるというのが定説であったのだが、それを根本的に解決したのがこの精神体型タイムマシンであった。

 精神体だけの転移だからこそ物理法則に触れることもなく、未来人たちがこれまで何度も過去に来ていたというのにけして気づかれることもなかったわけであり、実は過去の偉大な発明などの業績の裏にはそのほとんどに未来人の力添えがあったとも言うのであった。

 ただしこのシステムだと当然未来から転移してきた精神体がその時代において憑依すべき肉体が必要になってくるわけなのだが、過去の自分自身や肉親等の近しい間柄の人物のほうが成功率が高いらしく、現在会長の身に宿っている自称未来人も彼女の実の娘でありまた同時に僕の子供でもあるところの、その名も『赤坂あかさかヒカリ』だと言うのだ。

 ……アホか。

 何が精神体型タイムマシンだ。僕の未来の娘だ。

 これは間違いなくアレだ。思春期の少年少女ならではの不治の病、『ちゅうびょう』もしくは『じゃがん』とか呼ばれているやつであろう。……とはいえまさか、あの我が校随一の優等生で真性のお嬢様である生徒会長殿まで罹患してしまうとは。

 中二病もしくは邪気眼とは、古くはトンデモ科学雑誌『MWムウ』の前世ネタを中心にした名物読者コーナーに端を発し昨今ではネットの怪しげな掲示板界隈をにぎわしている、ライトノベル等における異能の力を有するファンタジー的登場人物(キャラクター)と己自身を痛々しいまでに同一視し、身も心も完全に非現実的世界へと旅立たれている御方たちの生き様を言うのであった。

 未来の娘などと自称し始めるのもまさしくその類いであり、いわゆる『前世』とか『転生』とか『過去の霊魂による憑依現象』とかを少々ひねったものとも言えるであろう。

 ……これって要するに、「二人は前世では恋人同士だったのだから互いの意思や現在における立場にはかかわらず、必ず結ばれる運命にあるのだ」とかいうやつの亜流だよな。

 そう。僕は生徒会長ともあろう御方が突然邪気眼なぞを患われてしまったのは、実は彼女の乙女心のなせる業ではないのかとにらんでいた。

 僕自身の口から言うのもなんだが、つまりこのお嬢様はさえない平凡なるいち下級生に過ぎない僕なんかに懸想なされてしまって、その不可解なる感情を持て余すあまりに混乱をきたし更にはお高いプライドや立場ゆえにどうしても素直になれず、とうとう邪気眼妄想ワールドへと逃避してしまわれたといったところではなかろうか。

 たとえ彼女自身の脳内世界だけであろうが未来の娘とやらが存在していることにすれば、名家のお嬢様が一般庶民の小せがれである僕とつき合うことに必然性が生じてくるわけだ。

 しかし精神体型タイムマシンなどという都合のいいものを、よくぞ思いついたものだ。

 つまり未来人とかタイムトラベルとか言ったところで物的証拠が何も存在しないわけなのであり、赤坂ヒカリなる人物が本当に未来から転移してきた精神体なのかあくまでも会長の邪気眼妄想上の産物に過ぎないのかは、他人にはまったく判別不可能なのである。

 そしてそれは何と本人にとっても同様なのであり、何せ心身共に完全に架空の人外ファンタジー的キャラになりきることこそが邪気眼の邪気眼たるゆえんなのであって、この衝撃の告白の日以降彼女はまさしく僕の娘そのものとなって主に昼食時等の休み時間や放課後の生徒会活動時を中心に、周囲の目をはばかることなく僕にまとわりつくようになってしまったのだ。

 品行方正な生徒会長殿の突然の豹変に当然校内は騒然となったのだが、中でも混迷を極めたのが僕のクラスであり、全校生徒のあこがれの上級生から休み時間ごとに何かと親しげにベタベタとじゃれつかれるその姿はまさに針のむしろそのままの有り様であって、クラスメイトたちからはいつしかやっかみ半分尊敬半分に『ハーレム王』とか『リアルギャルゲ王』などといったわけのわからない渾名ニックネームで呼ばれるようになる始末であった。

 だからといってあえて僕は会長のことを拒絶したり、未来の娘とやらであることを否定したりはしなかった。

 何せ邪気眼状態にある者はただひたすらに自分の内面宇宙空間の中で生き続けているのであって、他人が何を言っても聞く耳なぞ持たないのである。周囲の者ができるのはせいぜいのところ、時が解決してくれるのを待ち続けるだけなのであった。

 ……それに実を言うと元々僕自身のほうも、会長には密かにあこがれていたことでもあり、たとえ未来の娘とかいう邪気眼設定のためであろうが、こうして親しげにつきまとわれるのもそれほど悪い気はしないわけなのだしね。


 しかしそれが非常に甘い考えであったことを、僕は時を置かずして痛切なる後悔の念とともに思い知ることになるのであった。


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


「……お弁当、ですか?」

「ええ。おとう──いえ、赤坂あかさか君のために腕によりをかけて作ってきたの♡」

 満面に笑みをたたえながらこちらに向かって風呂敷包みを差し出す、上級生のお嬢様。


 昼休みになるやいなやうちのクラスへと我が物顔で乗り込んできて、三十数名の同級生たちが呆気にとられて見ている前で堂々と。


「ちっ、リアルギャルゲ王が」

「わざとらしく見せつけやがって」

「またいつもの『ハーレム・ランチ(略してハレンチ)』でも始めるつもりかよ?」

 主に男子生徒の皆様の中から聞こえてくる、舌打ちまじりの呪詛の声。

 ち、違うんです。これはある意味、邪気眼女にストーカー被害にあっているようなものなんです!

「こちらのお机をお借りしても、よろしいかしら?」

「──え? あ、はいっ! どうぞ御自由に!」

 いきなり全校生徒のあこがれの生徒会長殿に声をかけられて、慌てふためくようにして弁当片手に席を立つ、隣の席の男子生徒。──ああ。唯一の防波堤が。

 ……ということは、まさか。

「ちょ、ちょっと。何を当たり前の顔をして隣に座っているんですか⁉ うわっ! そしてなぜに机をくっつける?」

 何の断わりもなく密着するかのように身を寄せてくる、上級生のお嬢様。

 理知的な中にもどこかいたずらっぽさを秘めながら煌めいている、黒曜石の瞳。

「だってこれは元々二人分ですので、当然私もここでお相伴させていただきますわ」

 そう言いながら彼女の手によってほどかれていく風呂敷の中からは、確かにとても一人では食べきれないと思われる、三段重ねの黒塗りの重箱が現れた。

 ていうか、どうせ最初からここで僕と一緒に食べることを前提に作ってきたんだろうが⁉

「──ちょっと、お嬢様。何度も言うようだけど、勝手にヒロの隣に座らないで欲しいんですけど」

 唐突に背後から聞こえてくる、聞き慣れた少女の声。

 振り向けばそこに仁王立ちしていたのは、極端に短いスカートを始めとして改造をしまくりもはやギャル服にすら見える制服で健康的な小麦色のスレンダーな肢体を包み込み、ショートカットの茶髪の下で黒目がちな瞳を子猫のように勝ち気に煌めかせている、端整な小顔の女生徒であった。

「……アズサ」

ばし君。悪いけど、席を譲ってくれない?」

「は、はいっ! お姫様の仰せの通りに!」

 有無を言わせぬ命令口調のクラスメイトの少女に、あたかも嵐の到来を敏感に感じ取った小リスのようにそそくさと立ち去っていく、会長とは反対側の隣の席に座っていた男子生徒。

「さすがは我がクラスのアイドル。しかも腕力系! ということで、私もついでに御一緒してもいいかしらあ?」

 僕の幼なじみにして腕力系アイドル姫岡ひめおかアズサがこちらに机をくっつけて座るのとほぼ同時に、同じく会長の正面に机と椅子を持ってきて着席するほっそりとした肢体。

 からすいろの三つ編みに縁取られた端整で怜悧な小顔の縁無し眼鏡の奥でにんまりと微笑んでいる、茶褐色の瞳。

 彼女こそアズサの親友にして二年生女子随一の才媛、クラス委員のななメグミ嬢であった。

 つうか。いったい何だよ、腕力系アイドルってのは?

「──あら。あなた」

「うふふふふ。クラス委員総会ではお世話になっております」

 親しげに会長と言葉を交わす委員長。どうやら彼女は学園内に男女を問わず多数存在しているという、会長信奉者の一人らしい。

 ちなみに未来からきたばかりの『ヒカリ』がなぜ会長の知り合いの下級生の顔を認識していたかというと、精神体のみの存在である彼女は当然憑坐(よりまし)である会長の脳みそを使って思考活動を行っているわけであり、自動的にそこにストックされている会長自身の記憶や知識をも活用することができるという次第なのであった。

 さすがは邪気眼設定、現在進行形の黒歴史ノート。見事なまでの御都合主義である。

「……いや。何でもいいから、さっさと食べてしまおうよ。ぼやぼやしてたら昼休みが」

「「──ちょっと、待ったあー!」」

 僕の控えめな提言にかぶさるように鳴り響いてくる、新たなる女性たちの声。

「へ。サユリ? それに泉水せんすい先生まで。どうしてそんなに息を切らして汗だくになっているんですか?」

「お兄様と昼食を御一緒しようと高等部校舎へと来たところ、この女が鬼のような形相で追いかけてきたのです」

 汗まみれながらもやけにダウナーで落ち着き払った声音で申し立てる、ツインテールの黒髪と色白で小柄な肢体を中等部のブラウスとボックススカートに包み込んだ、あたかもビスクドールそのままの秀麗な小顔に黒水晶の瞳の十三、四歳ほどの少女。

「それは、あなたが、廊下を走っていたから、注意しようと、したのでしょうが!」

 こちらは息も絶え絶えに食ってかかる、ゆるやかなウエーブのかかった淡い色合いの髪を背中の中ほどまで流し落とし、モスグリーンのタイトミニのスーツで女性らしいメリハリのきいた肢体を包み込んだ、彫りの深い小顔の中で薄茶色の瞳を煌めかせている二十代前半の女性。

「ふん。しらじらしい。その右手にお持ちの弁当箱は何ですか? 大方抜け駆けしてお兄様と二人っきりで昼食を御一緒しようとでも思われたのでしょうが、行き遅れの年増女が図々しい。教師は職員室で独り侘びしく冷えたコンビニ弁当でもあさっていればいいのです」

「何ですってえ⁉ 誰が行き遅れの年増女よ! そっちこそ中等部生のくせに、わざわざお昼ご飯を食べに高等部校舎なんかに来るんじゃないわよ!」

 ……いやいや。むしろどっちもどっちでしょう。できるなら二人とも来ないでください。

「──ああっ。そんなことを言っている場合ではありません。すでにお兄様の両隣が埋まっているではないですか」

「ちょ、ちょっと。そう言いながらちゃっかりと、赤坂君の真正面に机と椅子を持ってくるんじゃないわよ⁉ 中等部生のくせに、少しは遠慮しなさい!」

「そっちこそ無理やり割り込もうとなさらないでください。教師は教師らしく教壇にでも座られればよろしいでしょうが」

「何よっ!」

「何ですの?」

 そんなこんなの大騒ぎの末に、結局僕の両隣に会長とアズサが、それぞれの正面にサユリと委員長と泉水先生が並んで座るという、一見極普通の六人組のグループ編成ができ上がったわけであるが、実にその半数が教師や中等部生を含む部外者であるのはどういうことなのだろうか。

「……しかしそれにしても、おとうさ──もとい。赤坂君がまさかこれほどまでにおもてになるなんて、思ってもみませんでしたわ」

 頬に片手を当ててさも感服したかのようにため息をつかれる、生徒会長殿。

 あんたが言うな、あんたが! いったい誰のせいだと思っているんだ⁉

 元々僕らのランチタイムは、それはそれは平和そのものだったというのに。

 毎度一緒に弁当を囲むメンバーは僕とアズサとその親友の委員長の三人だけで、一見クラスで一、二を争う美少女を両方とも独り占めしているみたいにも見えるけど、幼なじみと二人っきりというある意味他人のやっかみ度ナンバー1なシチュエーションよりもよほど健全で、クラスのみんなからは単なる仲良し男女三人組だと認識されていただけだったのだ。

 それにハレー彗星並みの破壊的な一石を投じたのが自称未来の僕の娘こと山王さんのう生徒会長であり、品行方正だった優等生の彼女が昼休みを含むすべての休み時間にガチでじゃれついてきたものだがら学園中に僕の名前が轟き渡ることになり、これまで同席していたアズサや委員長だけでなく、噂を聞きつけた従妹で中等部生の青山あおやまサユリ嬢や教育実習のとき僕と一悶着あった新任教師の泉水サトミ女史までもが、なぜだかあい争うかのように一緒に昼食を摂るようになり何かと角突き合わせていき、あたかも僕が教師や中等部生を含む学園のトップクラスの美女や美少女を独り占めしているような状態となってしまったのだ。

「……もてているかどうかはともかく、僕なんかの何がいいのかこっちのほうが聞きたいよ。この古都三都の中でも指折りの名門私立大学の付属校であるいまがわ学園に通う、あまたの資産家の御子息や御令嬢とは比べるべくもない極普通の一般庶民の小せがれでしかなく、さりとて体育会系の部活のエースというわけでもなく単なる文芸部の一部員だし。もしかしたら突然会長さんが僕なんかに興味を持ちだしたからみんな何か勘違いをして焦りだして、一応以前からそれぞれ僕と親しい間柄だったということで意地になってしまい、今さら引っ込みがつかなくなったってところじゃないのかな?」

 謙遜などではなくあくまでも客観的事実としてそう申し出れば、むしろ目を丸くしてこちらをまじまじと見つめてくる女性陣。──あれ? 何か失言でもあったかな。

「……つかぬことをお訊きするけど赤坂君、あなたって入学以来ずっと首席だよね」

 なぜだか唐突におずおずと、場違いのことを聞いてくる委員長。

「ああ。とてもうちの経済状態じゃここの学費を全額払い続けることなんてできないけど、学年首席だと特別優待生ということで学費はおろかその他諸経費も全額免除してもらえるからね」

「いや。だからどうして毎回主席になれるのかを訊きたいんだけど。私だってほとんど全教科満点なのに、ずっと次席のままだし」

「簡単なことじゃないか。()()()()なんかじゃなくて、本当に()()()()()()()満点を取ればいいのさ。僕もずっとそうしてきたし。君だってそうすれば僕と同点主席になれるよ」

「あ、あは、あはははは。全教科満点ね。そう、そうよね。だったら主席になれるよね」

 やけに乾いた笑い声をあげ始める、学年次席の才媛。……それにしても、何を当たり前のことを訊いているのだろう?

「お兄様。お兄様はかつて社交界で名を馳せた我が一族の誉れであられる青山あおやまロミ様、つまりは現在のお兄様の御母上に生き写しのお顔をなされていることを、御自分ではどうお思いなのでしょうか?」

 またしても不可思議なことを訊いてくるのは、ややヤンデレの気のあるツインテールの従妹殿。

「……ああ。それは言ってくれるなよ。鏡を見るたびに嫌になるんだから。何であんな万年美少女と似てしまったのか、神を呪いたくなるほどなのに。幾分映画俳優である父親の野性味が混ざっていることが、せめてもの救いだけどな」

 ………………あら? なぜか僕のセリフの途中から、自他共に認める我が校のトップクラスの美女や美少女でありつつも、それでもどうしても何よりも美容こそが気になるお年頃の皆様の目つきが、何だかいかにも憎々しげに睨みつけるようになられたんですけど。

「くっ。我ながら馬鹿なことを訊いたものだわ。何せ相手は真性のリアルギャルゲ王。最初から庶民の悩みなどわかるはずがないのよ。今だってすでにクラスのアイドルの幼なじみに知的でクールなメガネ委員長にヤンデレ超絶美少女の従妹に大人の魅力の新任女教師に加えて、何と生粋のお嬢様上級生の生徒会長まで侍らせているという、ゲームですらも実現困難な理想的なハーレムエンドをなし遂げている状況なのだし。仮にギャルゲやラノベの主人公なら、あとはすべて消化試合のようなものじゃない。あれだけ余裕綽々なのも無理はないわけよね」

 おいっ。誰が真性のリアルギャルゲ王だよ⁉ それに自分で自分を知的でクールなメガネ委員長とか言うんじゃない!

「まあ、いいわ。それよりも皆様、さっさと食事を済ませてしまいましょう」

「「「「賛成!」」」」

 こちらの困惑をよそに声を揃えて唱和するや、それぞれ手持ちの弁当箱を開けていく女性陣。

 ……いったい何だっていうんだよ、その変わり身の早さは⁉

「まあまあ。細かいことは気にしない。そんなことよりも早く御賞味あれ。腕によりをかけておと……いえ。赤坂君の大好物ばかりを作ってきたんだから」

 そう言いながら机二つ分のスペースの上に三段重ねの重箱に詰められていた料理を次々に並べていく、生粋の名家のお嬢様。

 ふむ。確かに僕の好物ばかりだが、少々形が歪であるような気が。あれ? それに僕の分の箸がないんですけど。……な~んか、嫌な予感。

「はい、あ~ん♡」

 目の前に突き付けられたのは、丸というよりは四角っぽい肉団子を挟んだ朱塗りの箸。

 ……やっぱり、そのパターンか。

「ちょ、ちょっと。何やっているのよ、いったい⁉ 生徒会長のくせに、学校の昼食時にそんな破廉恥なことをして許されるとでも思っているの?」

 身を乗り出してまくし立ててくるのは、腕力系アイドルのクラスメイト。

「別にこんなの、親愛なる男女の間では当然のことじゃない?」

「誰と誰が親愛なる男女よ⁉」

「あっ、こらっ。やめなさい!」

 僕を間に挟んで肉団子を巡ってつかみ合いの争奪戦を開始する、生徒会長と幼なじみ。

 ひええええ。さっきから何度もこっちに箸が刺さりそうになっているんですけど⁉

「もらった! さあ、ヒロ。あ~ん♡」

「──お兄様、危ない!」

 箸を奪い取るやこちらの口元に肉団子を運ぼうとしたアズサであったが、僕の正面に座っていたサユリがすかさず身を乗り出し横取りして自分の口へと放り込む。

「あーっ。ずる──」


「うぐっ⁉」


 なぜか突然口元を押さえて、机へとうつ伏せに倒れ込む従妹の少女。

「さ、サユリ? どうした、しっかりしろ!」

 思わず手を伸ばし抱き起こそうとするものの、蒼白に染まりきった顔はすでに苦悶の表情に歪んでいた。

「……殿との……くれぐれも……御用心を……」

 そう言うや事切れたかのように、机に顔をうずめる少女。

 毒味役がこんなにも早く身罷るなどとは。おのれ、即効性の毒か⁉…………じゃなくて。

 しばしの間沈黙したまま、重箱の中の不揃いの肉団子の山を見つめ続ける一同。

 意を決して僕が一個だけ素手でつかみ取れば、それに続いて一斉に箸を伸ばしていく女性陣。

「「「「「ぶほっ⁉」」」」」

 同時に一口かじるや、全員口元を押さえつつ悶絶し始める。

 ……何なんだ、これは⁉ 産業廃棄物? ──いや。もはや化学兵器の域に達しているぞ。

 すでに甘いとか辛いとか苦いとかのレベルではない。一瞬にして脳天を突き上げてきた、鈍痛を伴うこの衝撃は何なのだ? ──いかん。舌先どころか全身が麻痺し始めたぞ⁉

「み、皆様。お茶も御用意いたしております。これは市販品なので大丈夫です。今すぐお飲みください!」

 会長が差し出した魔法瓶の蓋に注がれた緑茶を、奪い合うようにして回し飲みする一同。

 どうにか一息ついたころには、サユリのほうも意識を取り戻していた。……よかった、死傷者が出なくて。

「……いったい何なんですか、これは。もはや砂糖と塩とを間違えたなどという、お約束のうっかりミスどころじゃありませんよ。まさか我々はどこぞの製薬会社の極秘の新薬実験のモルモットにされたのではないでしょうね⁉」

 至極もっともな意見を述べられるのは、我らがメガネ委員長殿。

「だ、だってお弁当づくりなんて、生まれて初めてだったのですもの!」

 ……え。

 周囲の非難の視線に堪りかねたようにして、両手で顔を覆い隠すお嬢様。

 そういえばさっきから何かと緊張の連続だったので全然気がつかなかったんだけど、こうしてじっくりと見てみれば、彼女の両手って絆創膏だらけじゃないか?

 全校生徒のあこがれの的である生徒会長のあまりにも予想外の有り様に、言葉をなくしてただ見守るばかりの三十余名のクラスメイトたち。

 ……やれやれ。未来人だか邪気眼だか本当のところはわからないけど、『娘』が父親のために初めて作ってくれた料理なんだ。無下にしてしまっては男がすたるというものだ。

 そして僕は彼女がこぼし落とした朱塗りの箸を拾い上げ、心を無にして重箱へと伸ばしていった。

「うん、おいしいよ。初めてにしては上出来じゃないかな」

 今や微笑みすら浮かべながらゆうに二、三人分はある料理を次々に平らげていく、にわか父親。

 ……だ、大丈夫だ。もはやほとんどすべての感覚が麻痺し始めていることだし。心臓さえ動き続けていれば、どうにか完食できるはず!

 気がつけばいつしか両手を顔から離し涙に潤む瞳でこちらを見つめていた、上級生の少女。

「あ、赤坂君……いえ、」


「──『お父さん』、うれしい!」


「うわっ⁉」

 感極まったかのように、横っ飛びに抱きついてくるお嬢様。

「うれしい! うれしい! うれしい! うれしい! やはりお父さんの良さは外見や成績なんかじゃないわ。困った人を見たら赤の他人であっても手を差し伸べずにはいられない、その優しさこそがすべてなのよ! ()()()あなたと全然変わっていないんだから。さすがは私の最愛の人よね! どんなに時代が違ったとしても大好きよ!」

「こ、こら! こんなところで抱きつくんじゃない! みんな見ているじゃないか⁉」

 今や我を忘れてしがみつき続ける少女を力まかせに引きはがして周囲を見回せば、目の前の女性陣を始め教室にいる生徒全員が怪訝な表情をして僕らのほうを見つめていた。

「こ、これは、その。会長さんがちょっとばかし、興奮なされただけであって……」

「──ヒロ」

 僕のしどろもどろの弁解の言葉を、やけに冷たい声音で遮る幼なじみ。

「何で会長がヒロのことを、『お父さん』なんて呼ぶのよ?」

「──っ。そ、それは……」

 思わず言葉に詰まる僕を庇うかのようにして、すっくと立ち上がる上級生。


「当然でしょ? 私は──今この『山王さんのうユカリ』の身体に宿っているのは、未来から来たお父さんの娘である、『赤坂あかさかヒカリ』の魂なのだから」


 一瞬にして静寂に包み込まれる、お昼時の教室内。

 ……終わった。これでもう、すべてはおしまいだ。

 いくら邪気眼だか妄想癖だか知らないけれど、こうもあっさりと自分からトンデモ設定を明かしてしまうとは。

 僕が絶望にうなだれ他のみんなも呆気にとられている中、ひとり胸を張り微笑みすら浮かべながら周囲を睥睨していく、自称僕の『未来の娘』。

 まさにすべてを超越した、時の女神であるかのように。

 しかし僕はまだまだ甘かったのである。すべてが終わったなどとは、甚だしい思い違いだったのだ。


 そう。悪夢のように不可思議でありながらこの上もなく甘く切なき夏の日々が始まるのは、まさしくこれからだったのである。

 お久しぶりあるいは初めまして、881374と申します。

 ちなみに881374は、『ハハ、イミナシ』と読みます。

 もちろんこれは本名ではなくペンネームですが、実は私はかつてニュースにしろドラマにしろテレビに名前が出てくる回数が最も多い、日本で一番有名な某お役所に勤めていた経験があったりするのですが、この881374といういかにも意味不明イミナシな数字の羅列は、その当時の激務の日々の思い出にまつわるものであります。(※あまり詮索すると、怖いおじさんたちにしょっぴかれるかも知れませんので、ご注意を!)

 何はさておきこのたびは、『第六回ネット小説大賞』応募記念新作長編三シリーズ日替わり連続投稿企画第二弾、『時間SF=ギャルゲ⁉』をキャッチフレーズとするこれぞタイムトラベル物の革命作にしてアンチSF小説の急先鋒、『僕の可愛い娘たち』をお読みいただき、誠にありがとうございます。

 この作品は謳い文句通りにこれまでの時間SFの概念セオリーを完全に覆したアンチSF小説であるのみならず、容姿端麗成績優秀な名門学園の生徒会長であるヒロインが単なるその他大勢のいち下級生である主人公に対して突然、「実は私はあなたの娘であり、未来から精神体だけでやって来て、この『お母さん』の身体に憑依しているの」「私の最大の使命は、あなたとお母さんを結びつけて、この夏の間に()()()()()()()なの!」などと言い出して迫ってくるといった、いつも通りに881374ならではの狂った内容でありながら、珍しくもきちんとライトノベルの範疇にとどめることに成功しているという、非常にバランスのとれた作品となっていることを自負しておりますのですが、いかがだったでしょうか。

 ……まあ、先日完結したばかりの私の『小説家になろう』初投稿長編シリーズ、アンチミステリィの最高傑作にして平成最大の奇書『人魚の声が聞こえない』や、本作と同じく『第六回ネット小説大賞』応募記念新作長編三シリーズ日替わり連続投稿企画作品の一つである、愛と狂気の学園ラブコメ『ツンデレお嬢様とヤンデレ巫女様と犬の僕』が、あまりにもぶっ飛びすぎた内容であるからして、比較的無難な内容になっているかのように見えるだけの話だったりしてね。

 もちろん本作についても読者の皆様のご期待通りに(?)、これから先数々の衝撃的展開が待ち受けておりますので、どうぞご心配なく♡

 ちなみに次回第二章第一話の投稿については、『毎日投稿の鬼』の呼び声高い881374らしくもなく、三日後を予定しております。

 それと申しますのも冒頭でも述べました通り、本作は『ネット小説大賞』への初参加を記念して立ち上げた、『新作長編三シリーズ日替わり連続投稿企画』の第二弾に当たるのだからして、次話投稿の前に他の二シリーズ──第三弾の『最も不幸な少女キミの、最も幸福な物語』の第一話と第一弾の『ツンデレお嬢様とヤンデレ巫女様と犬の僕』の第二話の投稿が間に挟まれることになるわけです。

 つまり作者にとっては実質的に『毎日投稿』でありながら、しかもまったく別々の話を並行して創っていかなければならず、ちゃんと最後までやり遂げることができるのか、我ながら今から心配になってくるほどです。

 是非皆様の温かい励ましのお言葉や忌憚なきご意見やご感想を糧に、乗り越えていきたいかと思いますので、どしどしお寄せください!

 というわけで明日夜20時には、量子論と集合的無意識論とで『後期クイーン問題』を解き明かす、まったく新しいSF的ミステリィ小説『最も不幸な少女キミの、最も幸福な物語』の第一話を投稿する予定でおりますが、実はこれは私の栄えある『小説家になろう』初投稿短編作品である『異能棋戦(バトル)血風録』を長編シリーズ化したものでして、その内容は『不幸な未来の予知能力』を持つ少女がその忌まわしき力ゆえに差別を受けて、自分自身や世界そのものに完全に絶望していたところ、実は『不幸な未来の予知能力』こそ人を真に幸福にできることを知り、再び希望を抱き始めるといった、881374のこれまでの作品に比較して非常に健全かつ感動的な作品となっております。(※あくまでも当社比)

 しかもまさにその『不幸な未来の予知能力』を使うことによってこそ、何とミステリィ小説における永遠の未解決定理とされていた『後期クイーン問題』をあっさりと解決してしまうといった、私のような素人作家にとっては信じられないような快挙を達成し、プロのミステリィ作家の皆様方の顔を完全に潰す結果ともなってしまったという、むしろこちらのほうが前作『人魚の声が聞こえない』なんかよりも真の『アンチミステリィ最高傑作』とも言える作品になっていると自負しておりますので、本作のほうもどうぞよろしくお願いいたします。

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