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№007 手っ取り早く人間性を図るために必要なこと 【愉しい学級裁判】

※この物語は皆様の知る現実と僅かに乖離した『現実』から成り立っておりますので、ネタに混じって『間違っていない事実』も挟まっております。混同しないためには作者へのツッコミとドクシャの情報収集ならびに判断力が試されますので、是非とも感想へ足をお運びください。先々のネタバレにならない程度には答えられます。



「それでは裁判を始めます」



 本来ならば学級裁判と銘打つ程度の軽い詰問が設けられているところなのだが、頭文字をナチュラルに省く程度の尋問が始められようとしていた。

 何処か厳かな空気を醸しつつ口火を切ったカイチョーに、正面の烏丸くんは「はい」と応じる。素直だな。


 席の並びは正面ベッドの上にカイチョー、対面の傍聴席にパッションピンク、カイチョー右手側の検察席にカナちゃんで、弁護側がボク。

 ボクらはそれぞれ用意した簡易な椅子に腰かけているが、間に挟まれた烏丸くんは床に正座である。至極当然(当ったり前)だろ。


 烏丸くんとシャーロット姫の情事を目撃して3時間後。

 とりあえず隣の部屋で待つよ、とだけ告げて来たので現在地はボクの部屋だ。

 まさか3時間も待たされるとは……、スタミナすっごーい(白目。



「さて、被告人も来たわけやし話を進めよか。先ほどよぉ見えんかったんやが、烏丸くんはシャーロット様喘がせてなにしとったんかなぁ?」



 ねっとりとした口調でカイチョーが尋問を開始した。

 まずは状況を細分化して詳細を把握することが肝要ということだろう。

 やや目が笑っていないので怖いけど。


 ていうか表現がもう核心得てるじゃないですか。



「えーと、ほら、俺ってこの世界の言葉に詳しくないので、少々言語の勉強を。発音中心に」


「ヘレンケラーに祟られろ!」



 言い訳をした烏丸くんにカナちゃんが全力でツッコミを入れた。

 豆知識:三重苦を背負ったヘレンさんは家庭教師のサリバン先生に口の中に指を突っ込まれ、歯に触れることで言語の練習をしたそうです。


 確かに口に指入れてたけれど、その言い訳は偉人への暴挙以外の何物でもない。

 件のサリバン先生に助走掛けて殴られても文句を言えないレベルだった。



「幼女に手を出した罪で検察側は死刑を求刑しとる、弁護側なんぞあるかな?」


「あっ、ないです」


「弁護せーや言い出しっぺ」



 閉廷! 解散!

 と行きたいが、むしろ逝かせたいが、なあなあのうちにこの席へと就かせられた手前そう易々とは往かせてくれないらしい。


 ていうかねー、前回ツッコんだカナちゃんの言うほど信頼というモノを預けていたわけでも無いのだけれども、ボクの取り成した舌の根乾かぬウチにああした様を見てしまうと、常識的にも中々弁護がし難い。

 いや、烏丸くんを味方として配置したいことには此処から反対とするわけもないよ? それも言い出しっぺはボクなわけだし、自分が口にしたことを即撤回するのもアレだしね。スジが通らないというか。芯の無い人間になるのも嫌だから、言葉の責程度は抱えたいという心情。合理とも言う。


 でもそれとこれとは別でしょ。

 やるべきことはやるべきだ、という理屈もわかるけど、少しばかり怠けさせてほしい。

 ていうか、ちょっとやる気が無いわー。



「あー……、まあタっくんの胸中も理解はできるけどな。しゃーない、こちらで話を続けて()こか」



 元より有能なカイチョーのお陰で多少怠けても許されます。

 そもそもボクが異議あり! って逆転裁判ぽく声を張り上げることがキャラ違いなんだよ。

 ボクはもっと物語を俯瞰して、ドクシャなどの観測者側へモノローグを綴るようなキャラになりたい。

 学園戦記なら村田ハ●メ、足洗屋敷なら田村●太郎みたいな。


 そんな胡乱な思考のボクとは裏腹に、カイチョーは烏丸くんと向き直る。



「さて学級裁判モドキは置いといて、キミには少々問い質したいこともある。隅から隅までプライバシーを赤裸々に語れとまでは言わんから、ある程度は応えてもらえたらええなぁ、『烏丸イソラくん』?」



 とカイチョー、いや、嶽本小夜さんはキメ顔でそう言った。




  ◇    ◆    ◇    ◆




 ちょうど良いので幕を挟ませていただいた。

 アニメで言うなら開始時間に前哨が映され、OPが挟まって此処から本編開始、みたいな感覚だと理解していただけたら重畳である。


 どっやぁ、とキメ顔なんだかドヤ顔なんだか判別が難しいが、カイチョーの言いたかったことはなんとなくわかる。問題は顔ではないのだ。



 今更だが、事此処に至るまでボクらは、烏丸くんの下の名前を『ソラ』としか意識していなかった。

 ほんの些細な違和感で、文字数にしてみてもたったの1だけど、要するに彼は最初に謁見の間にて自己紹介した時に偽名を名乗った、という事実に繋がる。

 改めて考えると、それはボクらの常識に照らし合わせると非常に奇妙な真似に映ってしまうのである。



 だいたいボクの生まれるひとむかし前、ボクらの国では『親の不勉強に端を発した子供の名づけ』が社会問題に発展し懸けていた。

 例を挙げれば、【蒼空】と書いて何故か【マリン】と読んだり、【金星】と書いて【まあず】と呼ばせたり、ポケ●ンが好きだからと子供の名前に【光虫(ぴかちゅう)】と付けたりと、傍から見ても『これはひどい』という感想しか浮かばない問題だ。


 子供は親の所有物、という暴論が罷り通っていたらしい当時の倫理感は、まるで坂を転がり落ちるように低迷する一方で、そのまま育っても間違いなく健やかに成長できなかっただろうとしか言いようのない、イジメやネグレクトなんかを初めとした社会生活への足枷になることは火を見るよりも明らかであった。

 それを解消するためなのか、はたまたもっと別の理由もあったのか、政府は以降の姓名登録を個別()任せにはせず、【姓名類定機構】という『システム』を導入することで【個人】の尊重と保全に勤しみ始めたのだという。


 以来『システム』によるランダム制定の結果、多少目を見張りそうな文字も踊れど奇抜と呼ぶほど珍妙でもなく、また『同じ名前』が重複しない為かそもそも『奇抜な名づけ』を助長していた【個人の特別感】が程好く彼ら彼女らの優越度を撫ぜたのだろう。

 最初は戸惑いが伺えたシステムの導入が『常識になる』のにも、然程の時間もかからなかったらしい。



 ただ問題と言うほどの問題でもないが、システム導入以降の政府は【個人】に相応の財産所有権を備えさせていた。

 端的に言うと、それぞれがシステムに名付けられた『自分の名前』を使い続けているのなら、国内の何処へ行っても普通に生活していける程度の支援を受けることが許されて、使わないと普通以下も危うくなる、という程度の当時国民曰く【奇妙な法】だ。


 よくよく考えるとこれは奇妙でも何でもなく、国が個人の詳細をある程度把握する、という国民保障に基づいた法律なのだが。

 どうにも当時以前は協調性と協力作業の重要性を、きちんと義務教育で教えていなかったらしい。


 今でこそ小学校で【議論】が義務化されているけど、そういう教科が造られた経緯だって千葉県は袖ケ浦の『教育政令指定都市』というテストケースが挟まれてからのこと。

 それ以前を纏めると、『集団生存のために働かせるべき天秤』を備えるための思考を幼い頃に学べなかった国民がそれぞれの自由意志で好き勝手這い回っていたような世界、だ。


 そりゃあ立法に伴うリスクとリターンの計算も出来ずに、政府のやることを信用もせずにただ反対もし続けるだろうさ。

 まあ信頼って奴は積み重ねだから、それまでに信用を得てこなかったのだから反対されることだって仕方ない。


 だのに、民主主義国家を謳ってる政府は結局、独断専行で立法を可決。

 当時はほんと紆余曲折あったのだと、現代史の授業でも習った。



 理屈を優先することを合理と言い、感情を優先することを道理と言う。

 どちらが絶対というわけではなく、両立させてそれぞれの納得を得るからこそ、漸く人々は動く。

 でもそのバランスを取るための【前提】を、周知させるための教育はどうしたって必要なこと。

 だから、件の功績は今のところ悪いモノを引いては来ていないのだし、結局『良い手』として済んでいるのだろう。


 話が色々とズレたが、要するに自分の名前を平然と偽って見せる烏丸くんはおかしい、と言いたいだけだ。

 一応、サブカルチャーを通して不特定多数に自分を晒すような仕事をしている人たち筆頭に、芸名やペンネームを公用にすることもできるということを経験則として知っているけれど、彼がそういう人物だというイメージがまず無いし。


 遠回りな説明でほんとスマンね。でもこれ小説だから!

 さて、此処まで遠回りに注釈と個人的見解と社会通念との回顧を照らし合わせ終えたところで、今更ながら烏丸くんの様子を眺めてみる。

 ……なんか、気まずげな顔をして嶽本会長と目を合わせようとしない……?



「気付いたかな? キミの本名を言い当てとるってことは、私はキミについての『ちょっとした情報』を既に把握している、っていうことや」



 あー……。

 カイチョーの補足にビクン、と彼が身を竦めさせたように錯覚した。


 要するに、それなりに隠し通したい事情が烏丸くんにもあるということで、それを明け透けに晒されることを回避したいということ。

 ……しかし、そこまで怯えるってなんぞ?



「でわ改めて。烏丸イソラくん、キミのことをそもそも私が捉えたんは、一年生でハーレム造ってるとかいう噂からや」



 カイチョーの説明に、モノ言いたげに目を向けた桃園さん。

 しかしまだ説明序盤、とカイチョーはパッションピンクに視線を向けるだけで口を挟まなくとも宜しいですわよ、と視線がモノを言う。お嬢様か、お嬢様だったわ。



「実際にキミがその気で造ったかどうか、という事実確認は今は問題やない。気になったのはそのメンバーや。そこで、私は確認ついでにキミの『出身校』も把握させてもらった」


「出身校……?」



 思わず疑問符を浮かべたのはカナちゃんだ。

 幼馴染の呟きに、カイチョーは何処か物憂げな微笑みで応えて見せる。あら美人。



「キミの出身校は【多宝天壌】、キミのハーレムメンバーも同じ学校や。入学してすぐに有名になるくらい、キミらがいっしょにおるんも納得の道理やったな」


「………………」


「………………は?」


「………………いや、ちょっとまって」



 話を聞いていた全員が、一瞬思考停止した。

 たほうてんじょう、って確か……女子校じゃなかったかな。




  ◇    ◆    ◇    ◆




「え、なに、烏丸くんってオンナノコだったの? 確かに、CVに女性声優当ててるんじゃないの?ってくらい少年声なのは事実だけども」


「……いや、男子ですよ。見たでしょ、皆さん俺の身体……」



 正直な感想を言えば、全員から目を向けられた彼は弱弱しく応え項垂れていた。

 どう見たって、これがバラシてほしくなかった事実にしか見えない。



 多宝天壌女学園、正確に言うと其処は千葉とは違う『もう一つの教育政令指定都市』に当たる。


 埼玉は所沢から東京は東大和の一部に掛けて、狭山湖&多摩湖の人造貯水湖のある辺りを大々的に改修し、多摩モノレールをより真っ直ぐに通して通勤通学の便を良くする計画……が頓挫した。


 県境を跨いだ計画なので、東京の『持ち物』に当たる多摩モノレール線の維持費と工事責任を神奈川・東京・埼玉の三県で分割する予定にもなっていたのだから、そんな面倒くさい計画が実現しないでくれてそれぞれの都県知事的にはむしろ良かったと言える。

 実際に多摩モノレールを使用している方々からすれば、残念極まりない頓挫なのであろうけど。


 もちろん、頓挫した理由は県の役員からの反対とかいう私的なモノではない。

 先に挙げた大々的な土地を、『教育政令指定都市』として開発された為だ。


 開発された新都市は政令指定を受けているのだから当然政府主体で造成されたわけだが、そこは何故か幼稚園から大学まで一貫の女学園として完成した上に、一般人立ち入り禁止という決定まで下される始末。

 しかも入学資格の一切が不明で、教育政令指定都市という実はテストケースであるために教育費の一部を国が負担し、尚且つ最先端の学習効果が望まれるために入学者が殺到するその多宝天壌はというと、例えいくら金を積まれても入学資格に相応しくなければ王族でも追い返されたという――。



 ――どこぞのラノベを彷彿とさせる大々的な女学園だ。

 いや、ラノベのスピンオフ、か。

 超能力開発とかしていても可笑しくないレベル。



「一応言っときますけど、そんなもんしてませんからね。普通の学園都市ですよ」


「学園都市、って言っちゃうとどうしてもあっちを思い浮かべちゃうんだよなぁ」


「それは俺の所為じゃないでしょう……」



 サブカルチャーが発展するのも考え物だね。

 ちなみにボクが件の女学園を知っていたのもそれが主な理由。


 現実にラノベの設定みたいな学校が実在してりゃ、そりゃあ入学に関して調べたくもなるって。

 もう少ぉし南に降りていたら見事にリアル『とある魔』だったのになぁ。

 今のままでは精々が、となり●トトロの舞台程度だよ。



「それと、言っておきますけど俺だって好きで通っていたわけじゃないですからね。里親に引き取られたときに相応しいのは其処だ、って放り込まれたんですから」


「……女子校に?」


「女子校に。そして学園の敷地からは出ることが基本許されてませんでしたから、今回の高校進学は外国へ来た感覚ですよほとんど」



 まあ学園の敷地とは言っても軽く地方都市程度の面積に商業施設もあったので住み辛かったわけではないですが、と締め括られる。

 むう、そうなるとどうやって出てこられたのかが不明なままだよね。

 やっぱり魔術モドキの謎技術の賜物なのかな?


 彼の持つ超神秘に若干の羨ましさを抱きつつ、『ちょっとだけでも使ってみたい』という微かな少年心を擽られていると間を読んだのか、カイチョーが再び口を開く。

 ていうか、微かに烏丸くんが闇なのかしこりなのか窺い知れない何かを呟いた気がするのだが、其処は敢えて触れない方向で。



「ま、以上からキミの出身校をこちらが捉えているということは、わかってもらえたと思うわ。そのうえで、私らからキミに言うとくべきこともある」


「……なんすか?」



 そう、此処までがカイチョーの指定した前提。

 そして、此処からが彼女の真骨頂にして、本題と呼ぶべき提案だった。



「キミのハーレムメンバーにシャーロットさんのことバラシてほしくなかったら、なんか協力せんかな?」


「承りました」



 騎士のように跪いて、烏丸くんはカイチョーに忠誠を誓っていた。


 ――速い! 早すぎるよ懐柔が!?

 ていうか、連絡とる手段とかカイチョー持ってないでしょ!? なんで速攻で屈服してるのさ烏丸くぅーん!?


 いやそもそもこれ脅迫だ!?




~補足~

・学園戦記&足洗屋敷

 どちらもメタ的に読者視聴者へ語りかけてくる系主人公

 俯瞰者が何処かに居る、という前提を思考に備えている辺り『一種の信仰を抱えた輩』よりもより厄介な人種かもしれない


・姓名類定機構

 大仰な名称だけど要するに政府直轄で名前つけますよ、みたいな話と法律

 根本的に名付け親の常識と知識と受理職員の判断という狭い理屈で子供の精神安定すら測れなくなるのだから、個人をもっと大事に、と国が宣うならば此処までやれば?と『ぼくのかんがえたカッコイイシステム』

 名前を大事にしているはずなのにその責任を狭いところに落とし込んでしまっているのだから、自分たちを矮小だと自負しているようにしか思えないのは俺が穿ち過ぎなのだろうか


・教育政令指定都市

 政令指定都市は政令に指定された人口50万以上の都市を指し、自治権限が大きく区が設置される

 つまり袖ケ浦や所沢がそんなんに指定されることがまずおかしいのだが、そこを無理に捻じ曲げてでも何某かの前提を備えたかった政府側の意向という伏線

 っかー! つれーわー! 物語を膨らませるためとはいえ展開遅らせてでも説明挟まなくちゃならない書き方するのがめんっどくっせーわー!


・となりのト●ロ

 昭和三十年代前半の時代背景と所沢から多摩センターにかけてを舞台に昭和最後に上映されたジブ●映画。狸合戦も耳すまも多摩センが舞台だったし、所沢だけってわけじゃないでしょう

 そう思っておかあさんのびょういん、までの距離を改めて見直してみるとすげえ距離でビビる。一説によれば西武ドームの辺りにある『八国山病院』が元ネタとか聞いたけどそれだと近すぎるし、作者は『しちこくやま』という区名を多摩セン付近で発見したし。えっ、これ自転車で行ったの?



ところどころ伏線ぽいモノを散らばせてなんとか出来上がったのに実は話が進んでいないという罠

あと大事な部分を明かしていないけど其処も今後ってことで


ツッコミ、随意受付中です

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