№015 主人公描写 【むしろ、剣術と剣の説明】
俯瞰視点
卜部 鼎は幼馴染の少女に恋愛感情を抱いている。
その点に当の幼馴染の少女、金城 巧は気づいていない。
気づいていないというか、正直男子として見たことが無いっぽい、かなり無体で無粋で手酷い事実が暗に仄めかされていたり。
色々とシビアな雲行きが伺えているのだが、今は彼らの過去の話に触れてみようと思う。
出会いは小学4年頃。
今ではうなじが見える程度にまで切り揃えられている女子にしては飾り気のない彼女の髪が、背中ほどまで伸ばされていた時代の話だ。
ドイツのクォーターだと教えられた輝かんばかりの金髪は、その幼い容姿と相俟って天使かと見紛わんばかりの雰囲気を醸し出していた。
――……誰の話だ……ッ!?
語り出して既に拒否感が半端ないのだが、当時のキンジョーはそれはもう可憐であった。
人形のような容姿に、触れれば折れてしまいそうな儚さ、透明感、無垢さ。
カナエ君の内心曰く、キンジョーちゃん完全体。
別に今が駄目と言われているわけでもない。
中身はさておき、学内でもそれなりに男子からの評判だってあることはあるのだ。
それを悉くインターセプトしているがために、カナエ君に男子の友人は極端に少ない。
傍から見ればハーレムメンバーを囲う空気詠み人知らずだったが、まあそれはさておき。
そんな彼女は当時既に、ジュニアアイドルとして何作かDVDを出していたほどだ。
そう、それが彼女自身が『経験則』とかつて語った理由でもある。
芸名は『金城 そら』だったか。
……何処かで聞いた? 気の所為です。
単に名前が似通っていたので、初対面時の烏丸に多少の親近感を覚えた、その程度の伏線回収である。
名の由来は『空のような透明感』というキャッチコピー。
草が、生えざるを、得ない。
ネットスラングで片腹が痛いのはさておいて。
出会って一瞬で恋に落ちていた盲目系男子のカナエ君であったが、同時に『そういう世界』の危険さを前もって聞くという耳年増系の男子でもあった。
というよりも、周囲の女子のやっかみが、そんな幼い時代からもあったという人間性の発露の収束である。
異端は常識より食み出すが故に異端なのだ。そう、府中上の方の某学園にて『最強の闇』と恐れ称えられている袋使いの少女のように……!
実際のところはキンジョーのご両親が「なんだこの天使、娘か!」という短絡的な思考で行動し、その時期の彼女を映像作品に残しておきたい一心で自腹も費やして制作し、それが重版出来になって4・5作ほど続編も流通したという裏があるので如何わしい話は特に無いのだが。
しかして、カナエ君にそんな裏話は届くわけもなく、彼は幼く力も無かった、時折女子にも間違われていた優男系予備軍美少年であった自分を奮起させた。
守りたいものを守るために、その力を得るために近所の剣術道場にも通ったことが次第である。
お蔭で中学卒業の頃には精悍さもそれなりに備わって、靴箱にラブレターと時折呪詛文が毎日送られるような漫画のような高校時代を迎えていた。
そんな彼のお守りは完全体時代キンジョーちゃんのDVDだったりするが、だからこそその張本人から所持がバレているので碌な目を向けられないのかもしれない。
ところで、彼が通っていた、今も通っている道場だが、ぶっちゃけてしまえばより実践向きな道場だ。
剣道ではなく、剣術。
例えるならエアガンと実銃くらいの差があるのだが、どちらも人を傷つけられるのでその差事態に意味は無い。
あるとするならばそれを扱おうとする者たちの心構えだ。
自分はこういうモノを備えているのだから、使いどころは見極めなくてはならない。
そういう制御心をそういったところでは教わることが通例となる。
そんな【雷松堂剣術道場】の基本方針は、「まず無拍子から修めろ」であった。
きがくるってるわ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
人間には、というよりも前提として、生物には『反射』という性質が備わっている。
それは外殻から齎せられる刺激への危機管理に対応する受動的な対処であり、生命が発生する原始の時代以前から万物に備わっている性質でもある。
炉端の石ころでさえも叩けば削れるだけではなく、削れた際に延滞されていた微弱な電磁波を放出する。
傍道の生木も伐採の際には同じような反応を示しているので、そのフィードバッグ現象に命の有無は関係が無かったと言えよう。
人間に備わっている反射の『性質』はより顕著だ。
されるがままの石木ではなく、意識のある人間は危険にはより敏感に反応する。
むしろその方向性へと進化してきた結果であり、遺伝子に刷り込まれた神経系の『反射』は三半規管による平衡感や体幹の調整という無意識の領域を伴って、人体をより良く動かすことに傾注してきていた。
ところで、それらは総括して反射ではなく反応と呼ぶのでは、と細かいツッコミが入りそうではある。
そこはそれ、『反射神経』という言葉に准えての言葉の選別なので、気になるのなら脳内補填で調整すればいい。
実際のところ自然界においては人間個人の反射という対応性は、その他のモノと比較しても然程の差も無いのだから、どのように人間が言葉を選んでもそれこそ『人の勝手』である。
難しい話は広辞苑を造る人たちに任せればいいのだよ。所詮此処はネットの片隅さ!
話を戻すが。
雷松堂剣術道場の基本方針は先に語った通り、先ずは無拍子から修めろ、である。
無拍子とは日本に実在する古流武術の多くが伝える、共通の『奥義』とされるものだ。
有名どころは剣術だが、柔道や空手にもそれなりに、ある。
その真髄は、動作の最適化と予兆の最小化。
重力や慣性などの力学を応用することによって、『武を修めた者』には必然的に身に着けられる身体の予備動作を極限まで削り落とし、対峙する者に察せられることのない動きへと転ずる『即時対応』の究極系。
しかしそれは判断して動く、というレスポンスの速度に差異が出る程度の話であり、野生動物ならば小型になればなるほど依り良く動くものだ。
特に『自己』という実のところは曖昧だが主張だけはする『意識』の絡む人間だと自縄自縛が柵となって阻害されている、というだけなのだが。
その実態は、人体から反射を限りなく削る作用とも言える。
先にも語った通り、人体には『反射』という『神経』が備わる。
それは反復練習によって指導されるものであり、そうして積み重ねないと『基本』は基本として備えられないから、という師範の経験則から伝達される『技術』に通じるモノとなる。
例えば柔道では、脱力し切った状態から、構えることなく相応の打ち投げ絞めに転じて相手を下す。
そういう技術であり、其処まで辿り着けばそれは無意識に刷り込まれた神髄だ。
だからこそ易々と出来る者が出てこないから、それは『奥義』として認識されている。
しかし、無拍子の実現に必要なモノは、動作以上に状況把握能力と判断力が存在する。
現在の柔道のように、スポーツとして認知されているモノだけが武術ではない。
武術とは危機に対応するために編み出した技術であり、元来は荒事専用の対処術だ。
互いの優劣を決めるために技術性のみに洗練化されているが、人間個人を精悍に形作ることこそが武術の神髄。
故に頼るべきモノは技術そのものではなく心構え、という話に行き着く。
そして、『それ』を先立って修得したカナエの状況に対する心構えついでに視野は、一方向からとはいえ一斉に放たれた数十発分の秒速100から300メートルに達するボウガンの初速に対応し切れたことからも明らかだ。
卜部カナエは、充分以上に強い。
が、そんな事実に気づくことなく、兵士ら並びに王は彼の抜き払った剣の方に着目していた。
「……っ!(なんだ、あの『剣』は……ッ!?)」
嶽本サヨ並びにどこぞの色黒白髪が以前に喩えた通り、この世界……というよりもこの国は、中世ヨーロッパの産業革命以前と同列に見てほぼ間違いが無い。
資源エネルギーを効率的に採取利用することのない、人権というものがあるのかも妖しい無法の暗黒時代――と、見遣る者も多く居そうだ。
とりあえずふぁんたじぃな異世界といえば中世ヨーロッパ、という風潮が何故か蔓延っているが、よくよくまともな感性なら現代に比べてかなり生活に不便な時代なので、正直『……そこに転生もしくは転位したいのか?』と真顔で問いかけてしまいそうになる。
大雑把に言えば、その戦火もどこそこで溢れていそうな時代背景に現代的なゲーム要素を付け加えて、『剣と魔法の冒険が許される世界』という纏め方をする言葉として、そのくらいの時代の方が何かと都合がいいと言われているのかもしれない。
細やかに重箱の隅というよりは製作者側の趣味嗜好、ついでに性癖なんかをウス=異本みたいに乱暴に引ん剝く配慮は一端置いといて。
この国も前提が色々と問題ありそうだが、読み手側の知る中世ヨーロッパ的な異世界、と判断して構わない。
そしてそんな時代背景だからこそ、魔法という『文化の違い』こそあれど、日本を除いた国々での武器の進歩は、武術の進歩に追従したりはしなかった。
要するに、『よく切れる剣』というモノが本当に貴重で希少なのである。
「(見た目は普通の剣だ、だが、一手で放たれた鉄矢を切り落とすなど、そのように軽やかで流麗な太刀筋は存在するはずがない……!)」
其処を見れるのなら、彼自身の技量にも目を向けてほしいのだが……仕方がない。
剣は要するに、鉄の塊だ。
刃物であっても、戦いの場では相手が鎧を着こむことで切れ味は重視されず、膂力に任せて叩くことが戦法の要。
そもそもが重いために、軽やかに扱うことが常人には不可能のままに終わる。
それが重視される場といえば、暗殺くらいなものだ。
そしてその場合、刀身が80センチを超えるカナエの【はがねのつるぎ】はむしろ邪魔になる。
ぶっちゃけ、護身にも使えない。
比較して、兵士たちが扱った矢は普通に殺傷能力の高い鉄製だ。
此処は山奥でなければ、彼らは税金を扱うことのできない民草でもない。
国の金という充分な財力から、戦える武器を国防に備えることは普通のことで、そのために用意される武装は農民が自ら野山でかき集められる貧者の武器、つまり木製の弓矢とは一線を画す。
それら国防の要は、カナエの一太刀で全て真っ二つに切り払われていた。
そのことに、誰もが驚愕し、羨望もまた集めたわけである。
一応はお互いに鉄製という、同等に同率の強度と想定されているからこそのその連想。
だが先に喩えた通り、鉄を高炉で鋳溶かして繰り返し叩くことで鍛造された【『はがね』のつるぎ】と、溶けた鉄を鋳型へ流すだけで大量生産された【『銑鉄』の矢】では強度に違いが出ることは当然だ。
残念なことに、その違いの詳細を知れるのは職人くらいのものだということは何処の国でも同じ事で。
その事実に気づくものは、この場所には『造り手』と『使い手』以外居合わせることは無かった。
「それがガチャの景品か……! 欲しい、欲しいぞ、それを……!」
王は欲に駆られた眼差しを既に隠そうともしない。
ぎらぎらと、何処か既視感も思わせる猛禽のような笑みを浮かべて、再度彼らを捕らえるべく命じようと片手を挙げた。
その時だった。
耳に馴染む、乾いた嘲笑が広間に響いたのは。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ク、……ハ、ハ、ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!!」
酷く悪魔的な、酷く凶悪な、そして醜悪な。
実に愉しそうな声と同時に、『それ』は立ち上がった。
黒く焼け焦げた骸骨が組み直り、
血が巡り、肉が隙間を埋めて、肌が張る。
白い老人のような髪が、少年のような若々しさとボリュームで生え揃うと、哄笑は止まる。
――そして、
歯を剥き出しにして、大きく口を開けて嗤う色黒の彼が、
前を見据えて、言い切った。
「――やればできるじゃあないか」
「――ぃ、いやあああああああああああああああああ!?」
王様が悲鳴を上げた。
そりゃあ、そうなるわ。
~キンジョーちゃん&カナエくんの昔話
主役とは言い切れないけど主人公組なのでやらなくちゃな、と説明回
なんだか内容と過去が酷いけど、まあ普通の幼馴染です(普通とは
~金城そら
いったいぜんたいなんのはなしをしているのかおれにはまったくわからないな!
~府中上の方の某学園
ネタです。実在の人物・建物・事件とは一切関係御座いません
~雷松堂剣術道場
同音異義語の『雷上動』は鵺退治に使用された弓の名前
だからなんだという咄
~カナエくんの強さの証明
実はほんとに凄い子なのよ?
~中世ヨーロッパに対する風評被害
みんなだいすきいせかいてんせい!
~はがねのけん
ハズレガチャピックアップ(キンジョーの認識
重くて振るい難い刃引きもされてない危険物(カナエの認識
日本の刀鍛冶技術を参考にとりあえず趣味で造ってみた『怪物退治』にも通用できるレベルの剣で、刃こぼれや血糊なんかが着いてもストレージに仕舞えば元通りに直るアイテム(烏丸の仕業
~色黒白髪復活
小者みたいな嗤い方から魔王のような復活を見せました
なお、王様の反応は誰かに似た模様
また明日(愉悦