№014 主人公 【卜部 鼎】
「今更驚くようなことでもあるまい。お前こそ思っていなかった事実なのだ、儂とてそこまで暗愚でもない」
王様の口にしていることは、カサンドラさんだって理解していた事実だ。
しかし、建前とはいえそのためにボクらを呼び出した以上、決して肯定するわけがないと思っていた事実でもある。
「お父様……、自分が何を言っているのか、わかっているの……!?」
「わかっているとも。そしてその上で、彼には退場してもらう外なかったのだ」
魔族の脅威なんて初めから無い。
そのことはおそらく誰もが理解しているのだが、それを表立って肯定する以上、勇者召喚に踏み切った大義名分は失われてしまう。
どうする気だ?
この王様は、この場でどんな言い訳を紡ぐつもりなんだ?
「確か、ガチャ、といったな」
「は……?」
妙にダンディなボイスで、恐らくはボクらに切り出されていた。
カサンドラさんは聞きなれない単語で疑問符を浮かべたのだろうが、ボクらからしてみれば口にするとも思えなかった単語で「は……?」な心境だ。
「彼女から教えてもらったのだよ。宝石を食わせるだけで、異世界の道具を呼び寄せられる魔法がある、と」
その言葉と同時に、玉座の後ろから姿を現すのは――、
「っ、ユラちん……っ」
「桃園……っ?」
「パッションピンクぅ……っ!」
「ひとり可笑しくない!?」
ボクですね、わかります。
いや、ていうか、其処から現れるってことは間違いなく……、
……こっちの情報を売って、取り入りやがったなこの女郎……っ!?
と、すぐに理解が及んだわけです。
そりゃあ不敵な微笑で悠然と登場して来られたのだし、殺意が湧くのも仕方がない。
「っ、なんでだ桃園っ、そりゃあ烏丸は色々とアレだが、殺すほどじゃないだろ!?」
と、問い質すのはカナちゃんだ。
割と被害を被っていた方だと思っていたけど、この幼馴染。
いつかどこかで耳にしたような「死ぬほど嫌いだったけど、死んで欲しかったわけじゃない」みたいな心情なのだろうか。
推測しか今は語れない。ボクにはなんにもわっかんね☆
とりあえず説得頑張れ、キミのハーレム要員だろう。
そんな思惑のまま、二人の遣り取りを気持ち遠巻きに眺める姿勢。
実際、近づくわけにはいかない。
王様が信用ならないし、こっそりと伺える居並ぶ兵士たちの武装がちらちらと目に映るのだ。
近づいて取り押さえられれば『話し合い』の余地も消えるし、周囲に今度はどんな『魔法』が仕込まれているかわかったモノでもない。
「まあ、落ち着いてよカナエくん。というか、そっちのは私が仕組んだわけでもないわよ?」
「それだけ余裕ある時点で共犯確定じゃないですかヤダー」
「余裕云々であんたに言われたくはないわ」
思わず漏れた本音に反応された。
やだ、桃園サン眼力強い……!
ギ、っと睨まれたけど無かったかのように視線は向き直り、空気を切り替えるように彼女はひと呼吸。
無視するような扱いだが、それでいいのさ、置いて行けよ、俺は此処で見届けてやるから、みたいな気持ちで心の距離を取る。
そんなボクとは裏腹に、カナちゃんとパッションピンクの会話が再開されていた。
「タクも言ったけど、その態度で隠す意味もないじゃないか。引き金を引いたのは、間違いなく桃園だ」
「ん、まぁね~」
というか、カナちゃんもカナちゃんで意外と桃園さんに対して中々言葉がキツイ。
断定の口調で言い切り、対して桃園さんは何処か軽々しかった。
「桃園……っ!」
「というかさ、カナエくんには許せたわけ? いくら世界が違うとはいえ、好き放題してた奴だよ? 命を奪うのはやりすぎだってわかるけど、誰かが止められなくちゃいけないことでしょう?」
軽く犯行を認められて流石のカナちゃんも言葉に詰まったが、その反応を眺めつつ口火を切ったのは桃園さんの方だった。
理由は確かにいくらでもある。
正直、烏丸くんはやらかしたことが多すぎて、居られると中々に迷惑な子だった。
生きていて欲しかった理由は正直ないけど、死んで欲しい理由がいくらでも出てくるのだ。
……悲しい話だー。
「それは……っ、正論、だが……、それを桃園がやる理由には、いや、それは誰であってもやっちゃいけないことだ。人が人を殺すことは、許しちゃいけない」
「青いな」
口を挟むのは王様だ。
同じく断定の口調で、絞り出すような言葉を吐き出したカナちゃんに嘲笑を向けている。
「そんな『如何にも正しい』言葉を吐くことは誰でもできる。しかしそれを実行できる者など然程も居らず、事実、国を治める者にとってはそのような綺麗事では立ち往かぬ」
「あんたは黙っていてくれ、今はそんな話をしているわけじゃない」
ドヤ顔で政治の話を持ち出す王様にも厳しいカナちゃん。
実際、口を開かれても泥沼なので、ほんと黙っていてください。
微妙に国=世界で意訳が働いた気配が伺えたが、今はそんな細かい描写もスルーが推奨だ。
「綺麗事で押し通すのだって、無理があることくらいわかってる。けど、正しくあろうとしないと、人間は悪くなる一方なんだ。 第一、邪魔だからって理由でいちいち殺すなんて、それこそどの世界でも押し通しちゃいけない理屈じゃないか」
……意外と、この幼馴染は真っ当に育っているようだ。
小学校からの付き合いだが、優男なカナエちゃんは幼い頃は女の子と見紛うくらいの雰囲気だった。
呼び名のちゃん付けだって、その印象をずっと引き摺って今に至っている。
高学年くらいから近所の道場に通い始めて多少は男らしくなっていたが、それで得たモノなど某パッションピンクを筆頭にした盛りの付いた雌犬共くらいだ。
それが好感触に転じたことなど、一切無いが。
正直男子の友人が妙に少ない点などを顧みても、それではイジメなどに遭って捻くれてしまうのでは、と危惧もしていた。
しかし、そんなボクの杞憂とは裏腹に、カナちゃんは人と付き合うことの大事な部分を理解して、相応に弁えた生き方を積み重ねて此処まで成長している。
……なんか、何処かのAT●AS作品主人公のコミュを制覇したかのような達成感を感じるぜ。
それでわかりづらかったのなら、キャラ育成が必須になるRPGで主要なメンツを中盤ならクエスト攻略も楽になる程度まで届かせられたかのような満足感。
経験値は充分だ、あとは武器だね。丸太は持ったか!?
「……カナエくんの意見はわかったわ。けど、こっちだってそうですか、と納得もできないのよ」
「桃園……っ」
「だってそうでしょう? そこの姫様を手籠めにした男よ? いつ襲われるかもわかったものでもないじゃない!」
………………………………ひ、否定できねぇ!?
その点はカナちゃんも同意見だったらしく、目を伏せて視線を逸らす水色頭。
数日前の、弁護役に座らせられたボクと同じ気持ちだろう。
その気持ち、わかるわ。
「それに、そもそも帰れないらしいじゃない。だったらこの世界でもっとマシな立ち位置についておきたいのは、当然の理屈よね?」
「そうしてユラから教えてもらったのだ。宝石を消費するだけで、諸君らの世界の道具を用意できる魔法を持っている、とな」
と、理屈は教えてもらったわけだが、話が結局進んでいない感がひしひしと。
王様の引き継いだ科白も、先ほどの焼き直しだ。
ただちょい待って。
話は終わりだ感を以て前へ出てこられましても、こっちとしては何も納得できていないよ?
「さぁ勇者たちよ、その魔法を我らへ。今後の生活の保障も、厚遇も約束しよう」
「――行くわけが無いわな」
応えたのはカイチョー、嶽本サヨさんだった。
ですよねぇ。
「……会長、話、聞いてたの?」
「おう、聞いとったよ。ゆらちんが烏丸くんとつるみたくなかった理由はな。けど、それと私らが納得するか、ということとは別やろ?」
此処で断られるとは思ってなかったのか、何処か茫然としたように桃園さんは問う。
いや、当たり前だろ。
というか、説得らしい説得もせずに、何をどう納得しろと。
「何をどう取り繕ったところでな、結局烏丸くんを罠に嵌めたんは今更覆せん事実や。そんな相手を信用しろと、無条件で突き付けられとるんと同じやで、これは」
「……っ」
あ、このパッションピンクようやく自分がやっていたことを理解したのかな。
言葉に詰まったご様子で、次の何かを口にすることもできそうに無い。
そんな彼女を見兼ねたのか、王様は再度口を開く。
「で、あるから、儂がこうして、」
「言葉で信用できへんから、こうなっとるってわかっとるか?」
食い気味に王様の言葉に被せてきた。
実際、何度も言った話だが、後ろから刺される懸念がある以上、誰もその相手の手を取れない。
信用と信頼は失くすときは一瞬だ。
行動するだけで、判断はそれだけで済んでしまう。
さて、此処からどう出る?
手段は行動しかないぜ?
「…………仕方がない。取り押さえろ」
いくら待っても歩み寄ろうとしない、と見えていたのであろう。
王様は溜息を吐くように、兵士たちにそう命じた。
勇者として呼び出されたものの、実のところボクたちは普通の高校生だ。
相応に鍛えられている城の兵士たちと比べると豪く弱弱しく見られているので、彼らだって然程も殺気立たせることもせず、緩慢と囲いを狭めてくる。
時代劇のような拝命から、酷く地味な行きずり。
しかしそれは、
「悪手やな」
サヨ会長の一言で、劇的に変わる。
「――ほい」
「がぁ!?」
「ぼぁ!」
「ふんがぁ!?」
ハジメルザマス!?
と一瞬、円状に吹っ飛ばされた兵士らの断末魔に、ボクの中のネタの神様が反応し掛けてしまう。
カイチョーのやったことは至極単純で、手のひらを床へと押し出した程度。
それだけで風圧が、一定の位置から放射状に拡散されていた。
例えるならば、魔貫●殺法で吹っ飛ばされるイン●タを切り取った一瞬のような、そんな風景が再現された。
「ふむふむ、悪くないな」
「え。何したんすか、いまの」
周りの誰もが、手を出せなくなった。
何をしたのか理解が及ばない、そんな周囲から畏怖の目が向けられている。
なお、ボクはどことなく登場当時の烏丸くんを思い出した。
一週間前なのに何故か懐かしい。
「烏丸くんに貰った魔導刻印や。 彼が死んでも使える、っちゅうことは、ほんとに彼個人とは別のシステムらしいなぁ。 まあ、嘘をつく必要も無かったのやろうけど」
「ああ、そういえばその辺の懸念忘れてましたね。ていうか使いこなし過ぎでは……」
「この3日、たーだだらだら過ごしとったわけやないんやでー?」
ただだらだら過ごしていたクソニートはボクだけだったらしい。
食っちゃ寝していた過去の己を猛省する一方で、カナちゃんもまた【Storage】から武器を取り出す。
ハズレガチャピックアップにあった【はがねのつるぎ】だった。
「護身にしかなりませんけど、助太刀します」
「うん。まあ、現代日本なら過剰すぎるアイテムやけどな」
「でもこれ使いづらいんですよ、この3日で一応は慣らしていましたが」
もうやめて、ボクのライフはとっくにゼロ。
何故か味方に追い打ちをかけられているボクを他所に、物語は進む。
「な、なにをしている! ええい、カサンドラ! お前も早くこちらへこい! 嫁いだとはいえ王女だろう! いや、彼らをつれてこい!」
「お断りします! 妹を悲しませた父に、与するなど以ての外!」
「この期に及んで何を……! シャーロット! お前もだ! ただ宥め賺すだけでいい小僧にそれほど入れ込んでいるわけでもあるまい!?」
しかし、シャーロットさんは返事をしない。
モノ言わぬ躯に縋りつくだけで、茫然とその場に蹲ってしまっている。
――これが、即落ち2コマのチカラだッッ!!
不謹慎ですねスンマセン。
「ちぃ、育てが足りなかったか……! 王族としての責務も忘れたか!」
「王の責務は子供を騙すことですか!」
「もう良い! 矢を放て! 多少傷を負わせても構わん!」
矢?
と、ぐるりと咄嗟に見渡せば、構えているのは玉座傍の兵士たち。
腕に構えているのは弓……いやアレ、ボウガンじゃね?
いかん、妙に殺傷能力高い武器持ってこられたら、カイチョーの謎魔法でも防ぎきれない恐れが、
「――っふ!」
思考の隙間に矢は放たれていた。
が、それを全て斬り払ったのは、他でもないカナちゃんだった。
いや、すごいけど、こういうモノってそう簡単に斬って落とせる代物じゃなくない!?
「――タク」
目前をハイスピードで通り過ぎて逝くごちゃごちゃとしたなんやかんやで最早茫然同然なボクに、平然と剣を振るっていたカナちゃんはひと言。
「お前は、俺が守るよ」
とぅんく。やだ、かっこいい……!
まあ、恋愛感情なんてありませんけれどもね。
「――――――クハ」
そんなときに、広間に響いたのは、何処か乾いた嘲笑だった。
~呑気すぎるキンジョーちゃん
ヒトが死んでんねんのやぞ!?
~裏ボス・パッションピンク
ごく普通の女子高生
プロットでは城内でシンパを集めたり王様を傾国系ヒロイン宜しくスレッド違いのドロッドロな寝技(意味深)で洗脳したりと色々画策していたが、先立って烏丸が大暴れしてくれたお蔭で比較的順調に賛同を得られる
お蔭で書くことが特にねぇ。ちょっとばかし薄いキャラになってしまった。済まぬ
~丸太
ネタでおなじみのさいきょー武器
でもあまり出張られると辟易とされる不遇な子
~魔●光殺法で吹っ飛ばされるイ●スタ
流行っていた当時はイン●タという言葉もまだ流れていなかったキガスル(白目
~これが、即落ち2コマのチカラだッッ!!
たぶん此処から流れ変わる、と思って書き込んだのだが…おかしい、あまり変わっていない…
~ボウガン
弩。引く力が弱くても一定以上の威力を備えられる『銃に繋がるレベル』の兵士用装備
それをヒト払いで凌ぎ切っちゃうカナエくんマジ主人公
~告白
何処かの前書きに素直に従って読み飛ばした人は確実に目が点になる
これをやりたくてキンジョーちゃんの性別を当初は隠していたのだがそんなプロットは無かった。イイネ?
最後の嘲笑? なんのことだかわかりませんね