心の音
「なんかこのお菓子おもしろくない?」
「え?」
帰り支度をしていたら、突然野持さんに話しかけられた。
驚いて振り向くと、先ほどサークルのメンバーからもらったお土産をにゅっと突き出す。
「それなら、さっき私ももらいましたよ。」
なんてことはない、よくあるりんごケーキなんだけれど、
何が気になってるのか、野持さんは面白そうにその個装された一口サイズの
お菓子をくるくると手の中で弄び、それから私を見てにやっと笑った。
「メモリアル・ピュア・ケーキっていうんだって。」
すごいネーミングだよね、とあごに手を添え、野持さんがうんうんと一人頷く姿に
思わず笑ってしまった。
メモリアル・ピュア・ケーキ…確かにそれはすごいネーミングかもしれない。
「思い出が詰ったケーキなんですかね。」
面白いからつい調子を合わせて受け答えると、野持さんは腕を組み、難しい顔をしながら言った。
「食べると、いろんなことを思い出すケーキなのかも。人によって味が違うんだよ、きっと。
甘ずっぱかったり、ほろ苦かったり…。」
「ほろ苦いのはちょっと嫌だな。」
「だね。」
顔を見合わせたままちょっと間があいて、そして次の瞬間、二人でふき出した。
「汗と涙の味もあるかもしれませんよ?」
「それってしょっぱいの?」
「うわ〜もう食べれない!!」
こうなったらとまらない。
お腹を抱えて大笑いをしていたら、さすがにもう片付けてとサークル長の佐野さんに怒られてしまった。
「も〜、野持さんが笑わせるから怒られちゃったじゃないですか。」
佐野さんにもたされた備品をよっこらせと持ち上げ、
まだ涙目な横目で野地さんを軽く睨むと、悪い悪いと口先で軽く謝るだけで全然悪びれもない表情のまま、私の荷物に、どれ、と手をかけた。
持ってくれるの?という淡い期待をすぐさま打ち破り、
その手に体重をかけたからさぁ大変、荷物の重さが倍増し思わずよろけてしまった。
「野地さん!!」
「あぁ、ごめん。もっと重くしたらどうなるかなって思って。」
しれっと言う野持さんは満面の笑みで、不覚にもどきっとしてしまった私は
くやしくて彼のひざを軽くけりつけた。
側でやりとりを見ていた佐野さんが野持さんに「おいおい、いじめは駄目だぞ」
と笑いながら諌めたが、野持さんはけろりとして言った。
「愛情表現ですから。」
その言葉を聴いて、心の中でことりと何かが音をたてた。
わかってる。
彼にそんなつもりはないってことも、
大事な彼女がいるってことも
それでも嬉しくなってしまう自分がそこに居て
どうしようもなくなる。
もうやめよう。
何度もそう思っていたはずなのに
あんな風に二人で笑いあったり、話したりすると
心がどうしようもなく音をたてて動くんだ。
―重症だなぁ
そっと嘆いて、
さっきもらったお土産のケーキを口にほおりこむと、
ほろ苦い味が口いっぱいに広がった。




