結婚
長山城はかつてない程に沸いていた。
だがその中で一人沈んでいる人間がいる。
それは十兵衛自身である。
結婚するって言ってしまったが本当に大丈夫なのか?
自分が駄目すぎて見切りをつけられたらどうしよう……
不安しかないのであるが城内は次期当主の結婚ということで盛り上がっていた。
式を明日に控える今日は皆気が早く、お祭りムードであった。
妻木城内では大変な事が起こっていた。
特に取り乱していたのは妻木広忠である。
「どうしたものか……」
数え切れないほどにため息を繰り返していた。
十兵衛に嫁ぐ予定であった煕子が痘瘡にかかってしまったのである。
命には別状がなかったので良かったのだが、それだけではなかった。
左の頬がただれてしまったのである。
「はぁ……」
またため息をついてしまった。
このまま煕子を嫁がせるわけにはいかないし、話を破談にするわけにもいかない。
「仕方がないか……」
無意識のうちにまたため息をついていた。
式当日
「もうすぐ到着するそうだぞ。しっかりせい!」
朝から叔父上の怒号が響きわたった。
緊張のせいであまり眠れなかった自分は眠気に苛まされていた。
顔を洗ってくるとしよう。
「到着しましたぞ!」
と出迎えに行っていた左馬助が戻ってきた。
いよいよ式が始まるのである。
「十兵衛殿、結婚おめでとうございまする。この先末永く煕子をよろしくお願いします!」
「ありがとうございます!ここれからの長い人生を煕子とともに困難を乗り越えながら過ごしていきたいです!」
その時違和感を感じた今日の煕子はどこか様子がおかしい気がする。
様子というよりも人自体が違う気がするのである。
確かに本人そっくりではあるし、根拠はないのだが本人ではないとはっきりと断定できる。
「本日は誠にめでたい日である。重要な日であり、皆には今日という日を忘れないでいてほしい。今日は無礼講じゃ、乾杯!」
と叔父上は言った。
「ちょっと待って下さい!」
自分は立ち上がり言った。
周りの人達はびっくりした様子でこちらを見ている。
「確かめなければならないことがあります!広忠殿、彼女は煕子ではありませんね?」
「そ、それは……」
と広忠殿は言葉に詰まっている。
「怒っているわけではないので理由を話していただけませんか?」
すると広忠殿は話し始めた。
「我が娘の煕子は痘瘡にかかってしまい、左の頬がただれてしまったのだ……そんな事になった娘を十兵衛殿は貰ってくれるはずがない。だから双子の妹の芳子を……」
「お義父さん、そんなことは隠す必要はないですよ。自分はただ煕子を愛しているのです!自分は他の誰でもない煕子を妻にすると決めています!」
言ったはいいがだんだん恥ずかしくなってきた。
今にも顔から火が噴き出しそうだ。
「そんなにも煕子のことを……」
広忠殿が何かを呟いたようだが自分には聞き取れなかった。
「また後日、煕子と結婚式を挙げてもらえませんか?」
「もちろんですよ!」
一週間後
晴れて自分は煕子と式を挙げることが出来たのである。
「この先も私を愛してくれますか?」
「当たり前だよ。この身が滅びようとも変わらない愛を誓うよ!」
このまま戦が起こらなければいいがそんな事は有り得ないであろう……
しばしの休息と捉えておこう……まだ戦に出たことないけど。