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桔梗紋  作者: 翠泉
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義龍の動向

 何故こんなにも恐怖を感じているのであろうか?

 稲葉山城で斎藤義龍は悩んでいた。

 父である道三から家督を受け継いで美濃の国主になったというのに……

 なのに父上は弟の孫四郎と喜平次を溺愛しておられる。

 儂はそこまでの愛情を受けたことがないというのに……


 噂では儂を当主から引きずり落とし孫四郎を当主に据えようとしているようではないか!

 影で父上から木偶の坊だの老耄だのと言われていたのは知っている。

 実際儂には父上に勝るほどの戦の智略はないかも知れぬ。かも知れぬが少なくとも内政に関しては自分の方が上だ。

 何故父上は儂をそこまでして遠ざけるのであろうか?


 この戦乱の世では親子間でも戦をしたり暗殺なども有り得ぬ事ではない。

 しかし些かあの態度は奇妙である。

 もしや儂と父上の間にはもっと別の何かがあるのではないか?


 「一鉄(いってつ)を呼んで参れ!」

 今呼んだ稲葉一鉄(いなばいってつ)は美濃三人衆の中でも一番上の人物である。

 あやつなら何か知っているのではないか?


 「一鉄、ただいま参りました。義龍様どうなさいましたか?」

 予想以上に来るのが早かった。

 「一鉄よ、何故父上は儂を嫌っておるのじゃろうか?」

 すると一鉄の表情は一瞬にして曇った。

 確かに家臣である人間がこんな質問を答えるのは困るであろう。

 

 「実は申しますと貴方様は道三様のご子息にはございませぬ」

 どういうことだ?

 そんなことは聞いたことがない……

 「それでは儂は一体誰の……」

 聞くのは怖い。

 怖いはずなのに言葉として発していた。


 「貴方様は道三様によって国を追い出されていた頼芸様でございます」

 そういうことだったのか……

 確かにそうなら父上のとっている行動や態度に説明がつく。

 自分が父上の立場ならそんな奴を長いこと美濃の国主としていたくはない。

 早くこの地から取り除き、本当の息子に家督を継がせたい。


 なるほど、ようやく合点がいった。

 「儂も含め美濃の者達の大半は義龍様、貴方の味方でございます。」

 「そうか……」

 儂の本当の父を追放してこの国を手に入れたのだ。

 ならばこの国を正統に継ぐべきは儂だ!


 「義龍様、道三様が不穏な動きをしているのは明白でございます。ならばこちらから仕掛けるべきでは?」

 それはそうだな。

 やられる前にやらなくてはな……

 美濃の蝮であるお前も謀略の限りを尽くしてきたのだ。

 ならばこちらが批判を受けるいわれはなかろう……

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