大桑城攻め 〜夜戦〜
自分は今酷く喉の渇きを感じている。
これまで的にしか撃ってこなかった火縄銃を今人に向けているのである。
ようするに初めて人を殺めてしまうのである。
だがこれも世の習いである。
敵の軍勢はこちらには気付いていない。
引き金を引けば相手にむけて玉が飛ぶ……
「放て!」
ドォーンと50丁分の号砲が鳴り響いた。
敵の悲鳴が聞こえてくる。
「もしや火縄銃か?」
「軍勢は何人だ?」
「右翼が攻撃されてるぞ!早く援軍を送れ!」
などと敵から声が挙がっている。
「槍兵、横に並び突っ込め!槍は突くのではなく長さを生かして薙ぎ払え!」
と広忠殿の指示が飛ぶ。
その間に槍兵に当たらないように移動し、
「鉄砲隊、放て!」
ともう一度指示を出した。
敵軍から三の丸まで引け!と声が聞こえてきた。
「広忠殿、当初の予定通り追い詰めますぞ」
「承知じゃ!」
大桑城の方向へと敵を追った。
「もう少しで三の丸だ……生き残ったものは何人だ?」
「相手方の鉄砲と槍兵に相当やられてしまいました……この場にいるのは二百を満たしませぬ」
「おのれ明智め……」
「今だ、放て!」
その号令を受け土岐の軍勢に向けて矢の雨が降り注ぐ。
この弓矢を放った軍勢は左馬助の隊である。
彼らは相手が布陣を始める前から森に潜んでいたのである。
後ろからは自分と広忠殿の軍勢が追いついた。
「覚悟!」
その場にはいくつもの亡骸が転がっていた。
強烈な血の匂いが鼻孔を刺す。
「こちらの損害と敵方の損害はいくらだ?」
「こちらの損害はおよそ二十、敵方は壊滅状態で逃げ出した兵を併せても百もいないでしょう」
と左馬助は答えた。
今はとてつもない虚無感を感じている……
だがこうしているわけにもいかない。
「皆の者よく頑張った!しかし戦はまだ終わっていない。疲れているであろうがこの勢いのまま大桑城を落とすぞ!」
と自分は言った。
心苦しいがここで立ち止まっているわけにはいかなかった。




