戦国時代へ
何故自分はこの世界に生を受け生きてきたのであろうか?
この世界は欲望が渦巻いていてとても穢れている。
だが自分一人の力でどうすることもできないのである。
たかが高校生に何もできないのは当たり前である。
この世界を変えてやる!と思っていたのは遠い昔である。
自分はただの凡人であり、生まれ持った才能がある非凡人には到底かなわない存在なのである。
そうしてのうのうと生きてきた自分の幕引きは意外にもあっさりとやってきたのである。
ただ帰ろうとしていた。
それだけなのにトラックにはねられ瀕死の状態である。
死ぬ時ぐらいは苦しみたくなかった。
だんだんと意識が遠のいていく……
「十兵衛起きて、十兵衛」
頭の痛みを感じながら目覚めた。
えっ?なんで生きているんだ?
しかも十兵衛って誰だよ!そんな奴知らねえよ!
「やっと目覚めたのね。本当に心配したんだから……」
そこには綺麗な女の人が目に涙を溜めながら話していた。
全く状況が理解できない。取り敢えず落ち着いて一つ一つ整理していこう。
先ず自分は何故か畳の上で寝ている。俺の家には畳の部屋はない!しかも広い!
この着物のような服も見覚えもなければ着たこともない。
しかもこの人は一体誰なんだ?知らない人なのだが……
「あのですね、あなたは誰ですか?しかも十兵衛って誰?」
すると女の人は、
「もしかして記憶がないのですか!?確かに凄い頭の怪我でしたが……」
えっ?確かに頭が異常な程に痛いけど何があったの!
とてつもなく気になるんだけど!
「私の名前は牧と申します。あなたの母親です。そしてあなたの名前が明智十兵衛光秀ですよ」
「ちょっと待ってそれより頭の怪我の方がきになるんだけど!」
間髪入れずに聞いてしまった……少し失礼だったかな?
「それはですね家中の者にイタズラをしようとしたところ自分でそのイタズラに引っかかり頭をぶつけて昏睡状態だったのです……」
おかしいだろ!どんだけ阿呆なんだよコイツは!いや今は俺だけども……
ちょっと引っかかるところがあった気がするんだが?
「少し話は戻りますがあなたは母親ですよね?」
「はい、そうですよ」
とても眩しい笑顔で返してくれた。
「自分の名前はなんて言いましたか?」
「牧と申しますよ」
いや、そうじゃねぇよ!自分っていうのは俺のことだから!
屈託のない笑顔をこちらに向けないで……その、なんと言うか……辛い。
「そうじゃなくて、僕の名前はなんて言いましたか?」
「明智十兵衛光秀ですよ」
おかしな点がありましたよね?まさか自分が明智光秀だって?
じょ、冗談はほどほどにしていただけませんと……
「ほ、本当ですか?」
少し声が裏返っていた。
「そうですよ!あなたがこの明智家の次期当主なのですからしっかりしていただきませんと」
まずい……明智光秀といえば誰もが知ってる戦国時代に活躍し、しかも本能寺の変の首謀犯になる人ですよね?俺が世界を変えたいとか思ってたからなのか?
「これからはより次期当主として励んで下さいね」
「そんな馬鹿な……俺が明智光秀だなんて……誰か嘘だと言ってくれ!」
「嘘ですよ!……と言えば大丈夫ですか?」
「本当に言って欲しい訳じゃないから!」
この時代にやってきて初めて泣いた。