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悪魔の子、恋をします


 私が篠原彰人の屋敷に到着したのは、午後七時を回った頃であった。

 首都圏の中では比較的田舎に相当する閑静な住宅街に、一際大きな塀で仕切られた区画が目の前に見える。一般的な家屋が六つ程入る広さだろうか。思ったより大きくはないが、それでも一般家庭で生まれ育った私からすると、十分過ぎる程の豪邸であった。

 彰人が手配したタクシーから降りると、門の前で待機していたスーツの男性が近付いてきて、私の代わりに会計を済ませる。

 そして、そのままスーツの男に屋敷の中まで案内された。

 男は四十代くらいの強面の中年で、どこか見覚えのある顔をしていた。

 じろじろと男の顔を見て、ふと思い出す。

 一ヶ月前、彰人が約束の時間に現れなかった日に、彰人の車だと勘違いをして覗いた車内の座席で、タバコを吹かしながらガンを飛ばしてきた男だと。

 一体、どこまでが彰人のシナリオだったのだろうかと寒気を覚える。


「こちらでお待ちください。彰人様を呼んで参ります」


 強面の男はそう言うと、役目を終えたかのように去っていった。

 談話室らしき部屋に通された私は、言われた通りソファにどっぷりと座る。

 それから五分と経たない内に、扉を叩く音が聞こえてきた。


「やぁ、礼奈ちゃん。昨日ぶりだね」


 何食わぬ顔で部屋に入って来た彰人は、普段と変わらないトーンで話しかけてくる。


「紅茶とお菓子を持ってきたから、良かったら食べて」

「どういう神経してるんですか? 今の状況分かってます?」

「もちろんさ。だから、こうして話をする場を設けたんだから」


 彰人は紅茶とお菓子を乗せたトレイをテーブルに置くと、私の対面のソファへ腰を下ろした。


「それで、何から聞きたい?」

「――こんな回りくどい真似して、いったい何が目的なんですか」


 飄々とした態度の彰人に罵声を浴びせるのをグッと我慢して、私は冷静に質問を投げかける。

 いっそのこと殴り掛かってやろうかとも思ったが、ここで感情的になって良いことは一つもない。

 彰人には聞きたいことが山ほどあるのだ。ここは一旦冷静になって彰人から納得のいく真相を聞き出さなければ、静香に合わせる顔がない。


「僕にはね、壮大な野望があるんだ。それを実現させるために、ある条件の揃った女性を僕の運命の人として迎え入れる必要があった」


 『野望』と、彰人は臆面もなく口にした。

 

「ひとつ、周囲に正体がバレていない『悪魔の子』であること。

 ひとつ、僕の野望を叶えるのに相応しい精神を持っていること。

 ひとつ、誰からも愛されるような愛嬌、あるいは、その努力で周囲を認めさせる程の魅力があること。

 大学卒業と同時に動き出してから、もう五年以上経つのかな。これらの条件に合う女性を探すのは、本当に骨が折れたよ。一応、他にも三人の候補を見つけてはいたのだけど、その中から僕は礼奈ちゃんを選んだ」

「だから……その野望ってのは何ですか」

「妹に人並みの人生を送らせてやりたい」

「妹?」

「あぁ、篠原明里っていうんだ。歳は僕の六つ下。そして、礼奈ちゃんと同じ『悪魔の子』なんて呼ばれてる。

 ――キミは知ってるだろう? 『悪魔の子』が世間でどんな扱いを受けているのか」


 それから彰人はぽつりぽつりと、まるで小さい子に読み聞かせるように話し始めた。


「僕の父は『会社を大きくする』っていう『天命』のせいで仕事一筋の人間でね。加えて、『天命』を神聖視していたんだ。お前たちに良い暮らしをさせられるのも、全て『天命』のお陰なんだぞって、子どもの頃によく言われたもんさ。良い暮らしなんかよりも僕は父と遊んで欲しかったけど、一度もそんな機会はなかった。

 今思うと、どうしようもない父親だよ」


 『天命』に従って生きることは、人が幸福に生きるための活力となる。それに加えて彰人の父親の場合、得体の知れない『天命もの』に従った先に、富や名声を手にする輝かしい未来が待っていたのだ。

 与えられた道に進んで成功した人物が、そのレールを敷いてくれた『天命もの』に特別な意味を感じるのも分からない話ではない。


「妹の明里に『天命』がないと知った時の、父の顔は今でも忘れられないよ」


 彰人の言葉にハッとさせられる。

 何を彰人の父親に同情しているのだろう。

 俯く彰人の表情に、どこか鬼気迫ったものを感じた。


「父は協会に資金援助をする程の『天命』信者なんだ。だから、自分の子供が『天命』を持たない『悪魔の子』だと知った時は、相当ショックを受けたみたいだった。それに、体裁もあったのだろうね……。

 それから父は、明里を実家から離れた別邸に隠すように住まわせたんだ。父にとって、妹は人生で唯一の汚点だったんだと思う。

 僕も妹にどうやって接したら良いのか分からなかったし、父から明里を別邸に隔離するって聞いてホッとしたよ。大学受験も近かったし余裕がないと言い訳して、妹のことを考えもしなかった」


 きっと、いや、おそらくその選択は正解だったように思う。実の家族に煙たがられながら生活するくらいなら、別々に暮らした方がマシだ。

 私は家族から向けられる哀憐の目が嫌になって家を飛び出した。

 どちらにしろ、私達に居場所なんてないのだ。

 そんなことを考えながら、私は黙って彰人の告白に耳を傾ける。


「それからしばらくして、僕の大学進学が決まった頃にね、父に内緒で妹に会いに行ったんだ。進路が決まって余裕も出来たし、少し気になってもいたから。その当時、明里は十二歳だった」


 彰人は紅茶に口を付けながら続ける。


「学校には一応通っていたようだけど、明里は周囲に『天命』がないことを言い触らしてたんだ。

 最初は父に対する当てつけかと思った。案の定、明里は周囲から浮いていたらしくて、さらに、学年で一番成績が良かったのが裏目に出てしまったらしい。

 目標も何もないのに必死に勉強して一番をとっても意味ないだろとか、自分達は人生かけて頑張ってるのに水差す真似するなよとか。自分達の努力不足を棚に上げて私を貶めてくる、と明里は自分でそう語ったよ」


 世間一般における『悪魔の子』に対する態度なんてこんなものだ。

 だからこそ、私は改めて多恵子と静香の存在に感謝の念を抱いた。

 『悪魔の子』であると知ってなお、私という存在を認めてくれた多恵子。

 自らの『天命』を犠牲にしてまで、私の人生を心配してくれた静香。

 私を認めてくれる人がいる環境が、どれだけ恵まれていることなのか改めて実感する。


「私は頑張ってるのに周りから馬鹿にされる、なんて愚痴られたらさ、誰からも認められない私って可哀想でしょアピールかと思わない? あぁ、コイツただ同情を買って気を引きたいだけなんだなって。

 そういう時は、欲しい言葉を囁いて頭でも撫でてやれば女性って大体満足するだろう?」

「それ、私に向かって言ってます?」

「礼奈ちゃんは硬派なくせに案外チョロいから」

「……顔が良くて軟派な人は人生楽しそうですね。地獄へ落ちれば良いと思います」

「心配しなくても、既に地獄の窯に片足を突っ込んでるから」


 彰人は自虐的な笑みを浮かべながら、私の顔色を窺ってくる。

 最初の勢いはどこへやら、私は彰人の話に聞き入っていた。

 話の肝が見えてこないのは不安になるが、私以外の『悪魔の子』について直接話を聞くのは新鮮な体験だ。

 私は彰人に続きを話すように視線で促す。


「でも、今なら分かるよ。キミ達が欲しいものは慰めなんかじゃなくて、もっと当たり前のものだ。

 明里にも言われたんだ。『私が頑張ってるって認めてくれるんなら、同情なんかしないで。惨めになるから。理解してくれない馬鹿な連中は放っておいていいのよ。いずれ父の会社を征服・・して、全員見返してやるんだから』って息巻いててさ。

 『天命』がない子はみんなそうなのかな? とにかく必死だった。僕達はゴールが決まってる分、計画的に人生を進められるから、尚更ね」


 私達『悪魔の子』が欲しているものが何であるかは分からないが、私には明里さんの気持ちを痛いほど理解できた。同時に、その強さの中に潜む弱さにも気が付いてしまう。

 私達は常に自分の人生に不安を抱いている。自分が選択した道は合っているのかと、いつも過去の自分と向き合って生きているのだ。未来に向かって道を選択しようとすると、周りから無駄な事をしていると馬鹿にされるのがオチだから。

 そんな逆境の中、自分は誰に何と言われようとこの道を行くのだと、そして、その熱量を保ったまま進み続けるのは茨の道だ。自分を強く保たなければ挫けてしまうような過酷な道。

 激励、あるいは侮蔑なら、まだいい。それは熱量に変わる。だが、同情や優しさはダメだ。それは、自分を弱くあろうとさせるものだから。


「僕は兄として、いや、一人の人間として力になってあげたいと思った。妹が、キミ達が欲する当たり前を与えてあげたかった」

「それが、妹さんに人並みの人生を歩ませたいという、彰人さんの野望……? 当たり前のものとは、何のことを言ってるんですか?」

「分からないのかい? キミ達はいつだって、ただ正当な評価を欲しているんだ。

 『悪魔の子』については色々と調べたからね、分かるよ。ネット上で素性も明かさずに活躍をしている人が沢山いるのも知ってる。

 でも、キミ達の頑張りが受け入れられない理由も分かってるんだ」

「それは、人々が『天命』に従って生きることを至高の喜びと感じているからでしょう?」

「その通りだ」


 『天命』を持つ人々が多数を占める世の中で、その思想に相容れない少数派は異端な存在である。

 『天命』がないというだけで、私達の努力も、その結果も、生き方さえ認めてなんかくれない。『天命』を持つ人々にとって、努力するのは当たり前で、ただ決められた結果を得ることに人生の意味を見い出す――そんな生き方を至高と感じているからだ。

 それが至高の生き方であると実感しているからこそ、私達の生き方を認める訳にはいかないのだろう。たとえ、私達が彼ら以上に努力して、彼ら以上の結果を叩き出したとしても。

 この現状を、彰人はひっくり返そうと言うのか? それが、彼の『野望』だと?


「ちょっと、ごめんなさい。まだ理解が追い付かないです。いや、まぁ……彰人さんがとんでもないシスコンってことは分かりましたけど。それで、どうして私と彰人さんが婚約するっていう話になるんですか?」

「まずは『悪魔の子』に対する認識を、偏見を払拭するようなアクションを起こす必要がある。そのために、礼奈ちゃんには誰もが魅了し嫉妬し羨むような人生を歩んでもらう。

 そして、そのピークに礼奈ちゃんが『悪魔の子』であることを暴露する。一度憧れて認めていたものが、実は自分達が今まで無価値だと思っていたものだと知った時の衝撃といったらないでしょ」


 一瞬納得しそうになったが、まるで詐欺師のようなやり口に懐疑を禁じ得ない。


「確かに、認識を改めるキッカケにはなるかもしれません。でも、そんな単純な話で人の価値観を変えられるとも思えません。結局、信じたいものを信じるんですよ」


 私は諦めたように口を開いた。

 将来に不安はあるが、別に今の生活に不満がある訳じゃない。

 全ては心の持ちようなのだ。幾ら自分の生き方を貶められたとしても、それを昇華して活力に変えることだって出来るのだから。

 芸術やスポーツに人生をかけている人達に勝利した時は、してやったりと内心でほくそ笑んで満足していたものだ。そりゃ側から見たら虚しいだけだし、腹立たしいかもしれないが、そういう生き方だってある。それがいつしか、本物になっているかもしれない。


 でも、もし彰人が言うような人並みの人生が手に入るのならば――

 家族が私に向ける哀憐や罪悪感、私を取り巻く不当な環境、私自身が持つ歪で醜穢な劣等感。そして、同じ苦しみを耐えながら生きている同類。その全てが良い方向へ変わるはずだ。


 また、私は目の前の男に騙されようと言うのか?

 彰人の顔は真剣そのもので、謎の自信に満ち溢れている。


「礼奈ちゃん、忘れたのかい? 僕の『天命』は一応、『運命の人と一生を共にする』ことで通っているんだよ?」


 不安と懐疑を隠せない私に、彰人は笑みを浮かべて安心させるような口調で話す。


「つまり、運命の人である礼奈ちゃんの存在が無価値となるなら、『天命』だって無価値になるってことだ」

「そんな、屁理屈みたいに……」

「人は信じたいものを信じるかもしれないけど、道理が通ってないことを信じ続けるのは、もはや狂人の域さ」

「妹さんのために、こんなことを本気でやろうとしてる彰人さんの方が、よっぽど狂ってます」


 彰人の野望の全容を聞き出した所で、私が今日ここに来た理由を思い出す。

 どんな大義名分があろうとも、目の前の男は私の友人を傷付けた張本人だ。


「どうして、最初からそう言ってくれなかったんですか? こんな騙して引っ掻き回して傷付けて……最初に協力して欲しいって言ってくれたら、私だって――」

「そんなの、分からないじゃないか」

「へ?」

「これはもう許すとか許さないとか、信じるとか信じないとか、そういう次元の話じゃないんだ。

 キミがこの計画の駒足り得るか、その調査のために非道な手段を使った。

 キミを精神的にも立場的にも追い詰めて、後に引けない状況を作り出した。

 キミを誰もが憧れるヒロインに仕立て上げるために、自分をひたすら磨いたし、メディアを使って最高の舞台を整えた。

 全部、必要だからやった。

 ここまで来るのに、十年掛かったんだ。

 キミの意志という不確定要素を残して話を進めるには、あまりにも博打が過ぎた」

「……はぁ」


 有無も言わさぬ彰人の台詞に、私は大きなため息を吐いた。


「怒らないんだ?」

「もし、私が断固として協力を拒否したら、どうするつもりなんですか?」

「拒否するのかい?」

「いえ……」

「聞かない方がいいよ。僕も言いたくない」

「……」

「良いお友達を持ったね」

「脅しですか?」

「まさか、違うよ。こんな展開になるなんて、あまり思ってなかったから」


 なんで、こんな目に遭っているのだろう。

 大それた望みを抱いた訳じゃない。慎ましい人生の中で、価値のある何かを見つけて、私自身に価値があるのだと思いたかっただけだ。

 人並みとはいかなくても、きっと良い事が待ってると信じてやってきたのに……。


「へ? ちょっと待って、なんで泣いてるの?」

「だって……もう、ど、どうしようもっ、ないんですよね?」

「いや、まぁ、確かにその通りなんだけど……。えー、マジで? いや、絶対に悪いようにはしないからさ、ね?」

「しんじられないぃ」

「ちょ、ちょっと意地悪言い過ぎちゃったね? 協力してもらう以上、最大限の保障はするから。お友達だって悪いようにはしない。だから、ごめんね。許してもらえないかな?」

「許すとか許さないとか、そういう次元じゃないって言ったじゃんっ!」


 奥底に溜まっていた恐怖や懐疑や怒りや悔恨、あらゆる感情が混じり合って爆発するように。

 後で絶対に恥ずかしくなると分かっていても、私は感情の吐露を止めることが出来なかった。






「礼奈さんっ、ごめんなさい! ウチの馬鹿が、本当にごめんなさいっ」


 そう言って、目の前の女性が頭を下げる。

 地毛である茶色がかった髪を肩まで垂らして、深く深くお辞儀をするこの女性は篠原明里。彰人の実の妹であり、私と同じ『悪魔の子』である。

 明里は『悪魔の子』であるとして、大企業の社長である父から不当な扱いを受けており、それは今も続いている。

 『外に出て傷付くのはお前なんだ』と言われて、ずっと別邸に隔離されており、成人を迎えているにも関わらず独り立ちを許されていないらしい。

 今日、この会場に来るまでにも、相当な苦労があったとか。


「明理さん、頭を上げてください。何度も言いましたけど、これは私が選んだ道です。『天命』を持たない私達が自由に生きていくためならば、悪魔にだって魂を売りましょう」

「一体、誰が悪魔なんですかねぇ」


 後ろから嫌な声が聞こえてくる。


「うるさい。地獄へ堕ちろ」


 私はそう言って彰人の足をヒールで踏み付けた。


「僕が用意したドレス似合ってるね。とても綺麗だ」

「そりゃ、どーも」

「こういうこと言うと、ちょっと前まで顔真っ赤にして照れてたのに」

「うっさい死んでしまえ!」

「あぁ、最近は礼奈ちゃんの憎まれ口も可愛らしく聞こえてきて、僕の性癖が歪められそうで怖いよ」

「明理さーん、助けてよ。あなたのお兄さん変態なんだよ」


 すっかり意気投合した明里へ私は戯れるように助けを求める。

 少し前まで、明里は彰人の野望を知らされておらず、私から聞いて初めて知ったらしい。その際に、兄に似た端正な顔を鬼のように歪ませていたのを、いま思い出した。

 殺気立った明里をどうにか宥めた彰人が私の隣にやって来る。


「礼奈ちゃん、今日は分かってる?」

「分かってますよ。だから、こうして彰人さんの隣に立っているんですから」


 彰人の用意したスタイリストにメイクを施されて、少し大人っぽくなった自分と彰人を鏡越しで見ながら私は答える。


「ありがとう」

「なんですか急に、気持ち悪い」

「本当に感謝してるんだ。なんたって、僕の野望に礼奈ちゃんの人生の全てを捧げてもらう訳だから」

「別に、自分のためですから。それに今なら自信を持って言えますよ?」

「何を?」

「私はきっと、あなたと出会うために生まれてきたんです」


 彰人は少し目を見開いた後、顔を綻ばせる。

 それが何だか気に入らなくて、私は彰人の足をもう一度踏んづけた。


「そう言えば、彰人さんの本当の『天命』って何ですか? そっちは良いんです?」


 そろそろ時間ということで移動していた最中に、私は最後の疑問がそのままだったのを思い出した。

 廊下を慌ただしく走っていく記者が居るのを見て、彼らの耳には入らないように小声でやり取りを交わす。


「それ、言わないとダメ?」

「いや、勿体ぶるようなものじゃないでしょ? 私達、夫婦になるんですから」

「……じゃあ言うけど。僕の『天命』は『理想の女性と一緒に幸せになる』ことだよ」

「ん? いや、だからそれは、嘘だったんですよね?」

「いやいや、本当だって。子供の頃――今回の計画を思い付く前から、よく女の子を口説いて回ってたよ。だから、『運命の人と一生を添い遂げること』っていう嘘の『天命』を父親に伝えた時も、逆に納得されたくらいさ」

「……」


「礼奈ちゃんは、一番理想に近かったんだよ。だから、どんな手を使ってでも手に入れたかったんだ」

「あーはいはい。もう彰人さんの言葉を信じるの疲れちゃいました。話半分に聞いておきます」

「うん、それでいいさ。こればかりは、僕の人生の全てを賭けて証明することだからね」


 途方もなく長い人生の果てに、私は一体何を思うのだろうか。

 幸せだったと、そう言って旅立つ日が来るのだろうか。

 私は彼の手に引かれて、その長い道のりを一歩ずつ進んでいく。

 進む方角に、間違いはないのだと信じて。


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