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魔王が紡いだ御伽噺(フェアリーテイル) ~tutelary編~  作者: シオン
~tutelary編~ 最終章「王と姫」
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~Stupid challenger~

 白夜から受け取った転移魔方陣を潜った先に広がっていたのは、とてつもなく広い豪邸の入り口。

 いきなり二人のエースに待ち構えられていた黒音達は、一瞬にして身体中から溢れだした変な汗を腕で拭う。

 まさかいきなりここで戦いが始まるのかと焦った黒音達だったが、深影と白夜が自分達に背を向けたことで何とか冷静を取り繕った。

 そして二人が背中を向けたと同時、黒音達の正面に立ち塞がる豪邸の扉が、ゆっくりと両側に開いた。


「チーム〈avenger〉の皆様、お待ちしておりました。私、チーム〈tutelary〉のドラゴン、東雲 愛梨と申します。早速ですが、私が戦いの場へとご案内させていただきます」


 白夜と深影の間を割るように現れたのは、以前梓乃と一度だけ戦ったことのあるオレンジアイの少女、愛梨だ。

 梓乃はすぐに愛梨とガールズトークしたい気持ちを抑え込み、チームの一人として黒音の後ろから愛梨についていく。

 豪邸の中に入った頃にはもう深影と白夜の姿はなく、代わりに二人の少女が黒音達を出迎えてくれた。


「あっ、久しぶりのお客さん! 待ってたよ!」


「コロナ、久しぶりのチーム戦だからって興奮しすぎ……」


「二人とも、これから公式の試合が始まるんですから、今日だけは気を引き締めてくださいね」


「分かってるよ愛梨ちゃん、コロナはもうとっくに昨日から仕上がってるよ?」


「僕も同じく……いつでもいい……」


 一度戦った海里華と璃斗には、その少女が誰なのか一目で分かった。

 あの時からずっと越えるべき目標としていた二人の少女、因縁の女神と堕天使だ。


「この前はよくもコケにしてくれたわね、チビッ子」


「チビッ子じゃないよ、コロナ・キイ・ドール。覚えてよね」


「今度は以前のようには行きませんからねぇ、クソガキさん」


「クソガキじゃない、僕は白笈 優。今度もまた押し潰す」


 戦いの場に移動する前から、すでに火花を散らす四人。

 だが意外にも一番先に興奮して暴走しそうな黒音が、この場ではもっとも冷静だった。


「そうか、お前らコロナと優って名前なんだな。俺は未愛 黒音だ。黒騎士って言えば伝わるか?」


「っ……黒騎士……コロナ達が敗北した相手……」


「あの時と今の僕達は違う……覚悟してよね……」


「そう熱り立つなよ、お前らの相手は俺の仲間がしてくれる」


 二人の少女を適当にあしらうと、黒音は海里華と璃斗をコロナと優から引き離す。

 もしこのままここでヒートアップすれば本番の時に冷静な判断が出来ず、ミスを招いてしまうかもしれない。

 相手に勝つ為の基本的な鉄則は闘志は常に熱く、だが頭は常にクールに冷やしておくことだ。


「到着いたしました、この扉の向こうが戦いの場となっております」


「案内ご苦労さん、戦うのは俺じゃねえけど、いい戦いをしような」


「ええ、勿論です。絶対に負けませんから」


 ……少なくとも愛梨と言う少女は、契約者としての基本的な鉄則を理解しているようだ。

 黒音達の前に立ち塞がる二つ目の扉、愛梨が押し開いた大きな扉の先には、とてつもなく広い空間が広がっていた。

 まるで山脈全体を切り取ったかのような、リアルかつ壮大なフィールドだ。


「これ、扉自体が転移魔方陣になっててその奥が別の次元みたいね」


「その通りです。この空間は戦う契約者の属性に合わせ、それに似合ったフィールドへ変化します」


「でもさ、一対一で戦うならこんなに広くなくてもいいよね?」


「私達に挑む契約者は最初、誰もがそう仰います。ですがこのフィールドは同じ四大チームの契約者と戦うことを想定して作られたフィールドですので、深影さんが認めたチームが相手でしたらこれくらいの広さは当然かと」


 つまり〈tutelary〉のメンバーは黒音達のことを四大チームと互角だと認めていると言うことだ。

 契約者としてはありがたいことなのだろうが、少々複雑なような気もする。


「ようこそ……我ら〈tutelary〉の城へ……」


 壮大なフィールドの中央、いつの間に現れたのかと〈avenger〉一同自分の目を擦るが、実際に彼女はその場にいた。

 黒いローブを纏い顔を隠し、暴食の死神を傍らに連れるその少女は、以前遥香が戦った死神モノクロだ。

 あの時とは打って変わって、尋常ではない殺気を感じる。

 これが本当の、本来の彼女の殺気なのだと、遥香は身震いを禁じ得なかった。


「モノクロちゃん、これで六人揃ったね。それじゃあ改めて自己紹しようかな」


 白夜を中心に、五人の守護者が続々と集まっていく。

 こちらもまた統一感に欠ける面子が集まっているようで、唯一の共通点と言えば体に刻まれたチームのエンブレムくらいか。

 横並びになった六人の中で最初に前へ歩みでたのは、黒音達をここまで案内してくれた愛梨だ。


「改めまして、チーム〈tutelary〉のドラゴン、東雲 愛梨と申します。初戦は私がお相手を務めさせていただきます」


「愛梨ちゃんが初戦の相手ってことは、一番乗りは私だね。おっ先~♪」


 先鋒はドラゴンの二人、梓乃と愛梨だ。

 どちらも雷属性の六芒星なので、属性による相性は五分。

 力の差がもっとも分かりやすい戦いとなる。


「二戦目はこちらの都合上、タッグバトルにさせてもらうよ」


「タッグバトル? 一対一じゃダメなのか?」


「この子達は二人揃って初めて全力を出せるからね、君達のことを認めているからこそだよ」


「二戦目は二人で一人の私達、女神のコロナ・キイ・ドールと」


「堕天使の白笈 優、僕達が相手する。よろしく、お二人さん」


「そう言うことならむしろ好都合よ」


「あの時の借りを返させてもらいますねぇ」


 二戦目はコロナと優対海里華と璃斗のタッグバトルだ。

 あちらはタッグバトルが前提と言うことで相性は抜群だが、海里華と璃斗は何かとぶつかることが多く不安が残る。


「四戦目は副リーダーのモノクロちゃんが相手だ」


「私はモノクロ……本名は……忘れた……」


「この時を待ってた。今度は絶対に負けないわ」


 三戦目はやはり彼女が前に出てきた。

 冥界での借りを返す時が来たと、遥香はクリアヒールの踵を鳴らしながらモノクロに近づいた。

 その次に出てきたのはエースの深影、ではなくリーダーの白夜だった。

 本来大将戦はリーダー同士でやるものだが、リーダーの種族が違う場合挑まれた方の種族に合わせると言うルールになっている。

 この場合〈tutelary〉が挑まれた側なので、大将戦を行うのは焔と言うことになるはずだ。

 だが意外にも、大将戦を行うのは深影、こちらに合わせてくれたようにも見える。

 その理由は数日前の出来事にあった。


「白夜、俺に大将をやらせてくれ」


「やらせろ、じゃなくてやらせてくれ、か。君が下手にでるなんて珍しいな」


 黒音達が挑みに来る数日前、深影君が僕に進言してきた。

 理由は分かっている。大将として黒騎士と戦いたいのだ。

 だから僕はわざと意地悪そうな言葉を投げ掛ける。


「今回だけは、頼む……」


「くす……いいよ、君にリーダーを譲ろう。元から決めてたんだ、焔と戦うことになったらその時は君にリーダーの座を譲ろうってね」


「なに? だ、だが俺には……」


「リーダーは務まらない?」


 まさか大将戦を飛び越えてリーダーを座を明け渡されるとは思っていなかったようで、深影君は珍しく取り乱している。

 だがこれは嘘でも冗談でもなく、本当に前々から決めていたことだ。

 僕が契約した理由は弟と妹、茜と焔を護ること。

 弟の方はめきめきと実力をつけ、四大チームのリーダーになるまで成長した。

 もはや僕が手を出す必要もない。だが焔はまだ未熟だ。

 僕の元まで辿り着いただけではまだ足りない。

 決戦の場で焔が僕を越えるまでは絶対に死ねないと、四大チームのリーダーと言う肩書きにあぐらをかいていたが、焔がここまで辿り着いたのならばもうその必要はない。

 後はただ、焔と僕が戦うだけだ。


「そんなことはないよ、君は優しくなった。今や僕と同じかそれ以上にコロナちゃん達と仲良くなり、副長の愛梨ちゃんとも高い信頼を築いている。リーダーの資格は十分さ」


「そう言うことじゃない。こんなことは言いたくないが……お前がリーダーだから〈tutelary〉と言うチームが機能している。俺がリーダーでは意味がない。俺は今の立ち位置が気に入っている。面倒な役はお前が背負え」


「ふふ……あははっ……本当に君は不器用だな。しょうがないね、なら大将戦だけは君に任せよう。だがリーダーは引き続き僕だ」


 四戦目を務めるのは〈tutelary〉のリーダー、紅嶺 白夜だ。

 焔は出来れば早めに戦いたかったので、むしろ好都合。

 バイクスーツの胸元を開いて一歩前へと歩みでた。


「焔、この時をずっと待っていたよ。僕は紅嶺 白夜だ。〈avenger〉の皆様、以後お見知りおきを」


「何カッコつけてんのよ。その余裕、私が焼き尽くしてあげる」


 最後に五人の前に歩みでたのは無論、深影だ。

 その隣には序列六十三番の悪魔、アンドラスが控えている。

 黒音もそれに対抗して、五人よりもさらに前へ進んだ。

 その隣には勿論、序列二十九番の悪魔、アスタロトがいる。


「この時をどれ程待ちわびたことか……」


「俺もだよ、ここまでの道のりは長かったな……」


「アイゼルネの件は感謝している。だがこれは決闘、絶対に手加減はせん。不知火 深影、〈tutelary〉の名のもとに貴様を倒す」


「上等だ、俺も背負ってるモンがある。遠慮はしねえぞ」


 四大チーム、英雄がその伝説に幕を下ろした後、契約者の世界に君臨し続ける四つの天才集団。

 天上の名にあぐらをかいていた天才どもに今、寄せ集めの凡人達が勝負を挑んだ。

 六人と六人、今十二人の舞闘会が今始まる──。

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