第四話『Sword and shield』
深影の神機、フリスヴェルグに飛び乗った璃斗、梓乃、海里華はラボーテからフリスヴェルグへと深陽を移し、遥香はヴィオレに、焔はラボーテに、黒音はフィディに騎乗して〈tutelary〉の拠点とやらを目指す。
まさかこんな所で〈tutelary〉と出会えるとは思っていなかったが、多分それはお互い様だろう。
焔は相変わらず白夜を毛嫌いしているようにガン無視しているが、深陽とはすぐに打ち解けている。
「にしてもさ、私達が想像してたよりも大事だよね、これ」
「最初は黒音の興味本意だったけど、来て正解だったわね」
「でもぉ、その様子だと貴殿方が故意に生み出したわけじゃなさそうですねぇ」
「当然だよ、どうして自分の手で収められないものを生み出すんだい? 僕はそんな不確定曖昧なことはしないよ」
「ふん……親殺しの考えることなんて分かったモンじゃないわ」
海里華達を含めた四人を乗せるフリスヴェルグと、フィディ達が地上に降りると同時、深影がすごい形相で近づいてきた。
しかもその手には二挺の長銃が持たれているではないか、黒音は思わずレーヴァテインを展開するが、深影はそもそも黒音達のことを見てすらいなかった。
「あ、姉貴、大丈夫か? 何もなかっただろうな?」
「もう、心配性だなあ深影くんは。ちょっと落っこちそうになっただけだよ」
「あ、姉貴? 深影くん? ど、どう言うことだ?」
「未愛 黒音、久しいな。このおっちょこちょいは俺の姉貴だ。どうやら、俺の姉貴を助けてくれたらしいな。礼を言う」
深陽の頭を無理矢理押さえて下げさせ、深影自身も軽く頭を下げる光景。
黒音は全身を駆け回る寒気に身を震わせながらも、状況の説明を求めた。
〈tutelary〉の口から語られた今までの経緯に、梓乃は完全についてこれず途中から昼寝を始め、海里華はそも戦えない状態なので梓乃に膝を貸してその場で待機する。
「つまり、深陽さんって言うコアを失ったアイゼルネって女神が、自分自身がコアになって暴走してると……」
「それって自業自得じゃない。今まで悪いことしてきたからバチが当たったのよ。それって救う余地あるの?」
「それは俺も何度も思ったが、一応姉貴のパートナーだからな。助けないわけにもいかんし、助けなければドラゴンエンパイアが崩壊する」
「わふっ!? ど、ドラゴンエンパイアが崩壊っ!?」
自分達がこれから戦う相手である〈tutelary〉の前でよくも昼寝出来るな、と苦笑する黒音。
だがドラゴンエンパイアが崩壊すると聞いてようやく目を覚ました梓乃は、本能的にヴァジュラを呼び出した。
「昼寝してる場合じゃないじゃん! 早く何とかしないと!」
「いや普通四大チームのメンツがいる前で昼寝してる時点でおかしいんだけどな。まあいいや、とりあえずコアを潰せばいいんだろ。なら俺にも協力させろよ。修行の一環だ」
「分かっているのか? 俺と貴様は敵同士だぞ? 本来こうして話していること自体がおかしい」
「困った時は敵同士とか関係ねえだろ。助けたいから助ける、それ以上でも以下でもねえよ。行くぞ皆、まずはコアを探す」
「白夜のいるチームに協力するのは気が進まないけど、黒音君が言うなら仕方ないわね」
魔神殺しと恐れられる白銀の魔剣レーヴァテイン、無敵の輝きと謳われた煌めく聖剣クラウ・ソラス、氷山に眠ると言われた巨人の豪腕ヒルデ・グリム、魔を焼き天を切り裂く帝釈天の金剛杵ヴァジュラ、海の帝王と皇帝が持つトリアイナとトライデント、巨神が振るう万物を刈り取る巨人の大鎌アダマス。
どれもが神話に名を馳せた伝説級の神機ばかりだ。
黒音達は自分の命を預ける、体の一部と言っても過言ではない神機を握り締めて世界樹を見上げた。
「これより我らは、現時点をもって〈tutelary〉のエンブレムの元、〈tutelary〉を援護する。我らの名は、チーム〈avenger〉だ」
「チーム〈avenger〉……それが貴様のチームか。面白い」
「一時休戦と行こうぜ。作戦を立てるにもやることは一つ、コアを見つけ出して破壊する。ひたすら世界樹を破壊し続けるしかねえ」
「お前のチームの中で、広範囲に攻撃出来るのは誰だ?」
「全員とてつもなく攻撃力は高いが、広範囲ってことなら断然遥香だ」
「攻撃範囲には自信がある。あれくらいなら、余裕で行ける」
黒音に指名されてテンションが上がっているのか、遥香はいつもより猫耳と尻尾をピンと立たせて前に出た。
広範囲かつ莫大な破壊力を持つ遥香とアダマスの奥義を持ってすれば、どれだけ巨大であろうが破壊することは容易い。
「俺達のチームで広範囲と言えば、やはりモノクロだな。モノクロの爆音ならば何とか出来るはずだ」
「問題ない……それに貴女の戦い方は一度見ているから合わせやすい……」
深陽と白夜が世界樹の偵察に向かっている間、替えのローブを羽織ってきたモノクロが前に出る。
遥香も身を持って体験したモノクロの音は、確かに遥香とアダマスの奥義とも何ら遜色ない。
「む……以前は負けたけど、今度は負けないから」
「おーい遥香、今敵意を向ける相手はあの木だぞ」
当然だがモノクロに対して敵意を向ける遥香。以前完敗したことを未だに根に持っているらしい。
「でも遥香の奥義はエネルギーチャージと再準備にまで時間がかかる。それまでの時間を稼ぐポジションがいるだろ」
「ならば触手の迎撃を含めてコロナと優でどうだ?」
「うん、ちょっと休めたし、コロナは行けるよ」
「コロナが行くなら、勿論僕も行く……」
「エネルギー量を見るとぉ、どうやら消耗しているみたいですねぇ。でしたら私が行きますぅ。手数には自身がありますからぁ」
「なら璃斗、私のレプンを連れていきなさい。移動には困らないわ」
遥香とモノクロが大技の用意をするまでの防御と迎撃を担当するのは、コピー能力で頭数を稼げる璃斗と、フィールドのコントロールに長けた優とコロナだ。
今の璃斗はヒルデ・グリムの〈創造〉に加えて柊の〈喚装〉を再現した鎧のレパートリーも増えており、迎撃にはもってこい。
消耗しているとは言え、空間を操れる二人のコンビネーションは十二分に戦力となる。
「じゃあコアを破壊する担当も三人にしよう。防衛システムがあるならコアの近くは特に防御が固いはずだ」
「ならば俺と貴様、おまけに白夜でいいだろう。この中でもっとも戦闘力が高いのは俺達三人だ」
「では私達はサポートに回ります。あなた達もそれでいいですよね?」
「わう! 異論ないよ!」
「ええ、構わないわ。それじゃあ行きましょう」
「待って待ってぇ! 私も仲間にいれてよぉ!」
言葉を挟む間もなく次々と作戦が決定していく中、やっと発言する機会を得た深陽はここぞとばかりに自己主張する。
ティソーナとコラーダをアピールしながら自分も戦えるぞと、あわよくば深影と同じポジションに入れてくれと。
「バカか、これは遊びじゃない。それにさっき十分危険な目にあったんだろう」
「やだ、深影くんについてくもん。だってこうなっちゃったのはお姉ちゃんのせいだよ? 深影くんに任せっぱなしじゃ、お姉ちゃんきっと後で後悔するもん」
「えっと、深陽さんだっけ。いいぜ、一緒に行こう」
「おい貴様、何を無責任な──」
「その代わり、俺が危ないと判断したら強制的にここに送り返す。それと自分の身はなるべく自分で守るように」
「分かった、ありがとう。深影くん、お姉ちゃん頑張るね」
作戦はこれで決まった。世界樹の表面を破壊する担当は死神の遥香とモノクロ。
その二人が技を準備する時間を稼ぎ、防衛システムを迎撃するのは璃斗、コロナ、優の三人。
最後はコアを破壊するポジション、最前線は黒音、深影、そして深陽だ。
そしてその三人をサポートするのは、白夜、愛梨、梓乃、焔の四人。
作戦を開始するのは世界樹が防衛システムを発動してからさらに接近し、防衛システムと接触した直後だ。
遥香は早速アダマスの神機奥義・皇のエネルギーのチャージに移行し、モノクロは全員に聴覚遮断の魔術を施すタイミングを説明する。
「それでは守護者〈tutelary〉と復讐者〈avenger〉の合同作戦を開始する」
「皆、危なくなったらすぐに引けよ。大怪我したり、況してや死んだりなんぞしたら全部おじゃんだからな」
「「了解っ!!」」
深影と黒音の二人に、十人の声が応えた。
黒音のフィディとレオ、焔のラボーテ、海里華のレプン、遥香のヴィオレ、深影のフリスヴェルグが、十二人の契約者を乗せてドラゴンエンパイアの天と地を突き進む。
やはり一キロを切った辺りから世界樹の防衛システムが発動し、黒音達を襲ってきた。
そして防衛システムの触手と黒音達が接触した瞬間、〈tutelary〉と〈avenger〉の合同作戦が開始された。
無数のコピーを展開し、自らを〈喚装〉で武装した璃斗と、無茶苦茶に空間を破壊しまくる優に、自然豊かなドラゴンエンパイアの草原を瞬く間に炎渦巻く大国へと変貌させたコロナ。
三人に守られた遥香とモノクロは、五人の一個小隊を構成して徐々に世界樹へと接近する。
「深影、考えがあるんだ。俺に仕切らせてくれないか?」
「面白そうだな、いいだろう。貴様がどれだけ成長したのか見てみたい」
「僕も構わないよ」
「テメェにゃ聞いてねえよ。言っとくぞ? あの時は仲間が危なかったから一時的に離脱しただけだ。次もし戦うことになったら勝つのは俺だ。首洗って待ってろよ」
闘争心剥き出しで白夜を睨み付ける黒音に、深影が思わず吹き出しそうになった。
どこまでも嫌われものだなと哀れむ意味と、まさかライバルの黒音がそんなことを言い出すとは思わなかった意外性の為だ。
「で、その考えとやらを教えてもらおうか」
「いや、賭けなんだけどさ。深影って〈幻影魔術〉が使えるんだよな?」
「ああ、使えると言うか極めている。それがどうした?」
「それを俺に施してほしいんだ。絶対にお前の期待は裏切らねえ。ダメってんなら何とか自力でやるけど、この中で他人の体をソイツよりも上手く操れるのは深影だけかなって……」
「お前に〈幻影魔術〉をかける、か……いいだろう。何やら面白そうだ」
今まで〈幻影魔術〉で何人もの契約者の五感を狂わせてきたが、自ら〈幻影魔術〉をかけてくれと頼んできたのは黒音が初めてだった。
まったく以て何を考えているか分からない、だからこそ面白そうなのだ。
「よし、タイミングは合図で知らせる。じゃあ深影、コアが見つかるまでは俺のチームメートの力量でも見ててくれよ」
「ああ、じっくりと見せてもらおう」
と明らかに余裕そうに腕を組んでいた深影だが、今からたった数秒後に〈tutelary〉六人の度肝が抜かれることとなる。
まずは璃斗、コロナと優がコンビネーションで触手を弾き返す暇もなく、無数のコピーによる軍隊のような統制のとれた動きで触手をいとも簡単に殲滅していく。
その顔には焦りや真剣さと言ったものは一切なく、涼しい顔をしてどんどん世界樹に近づいていくのだ。
遥香は無謀にも世界樹へと接近していく璃斗に何も言うことなく、その後ろについてアダマスへとエネルギーを送っている。
「ちょ、そんなに近づいちゃ危ないよ?」
「でしたら貴女達はそこで休んでいてくださいな。とても消耗しているようですし、逆に足手まといです。それに、元より迎撃など私一人で十分ですわ」
「初めて戦った時とは……次元が違う……スピードも、正確さも……桁違いに上がってる……」
次に刮目したのは梓乃だ。梓乃はコアが見つかるまではほとんど何もすることがなく、ただ待機状態。
だからたった一人で世界樹に突っ込み、無差別に電流の刃をぶつけていくのだ。
それも相変わらず目隠したままで。空を縦横無尽に駆け回りながら、ヴァジュラで世界樹を破壊しまくる。
まるでそれがアトラクションのように、梓乃はただの時間潰しの為だけに、世界樹の三割を一瞬で消し飛ばした。
だが無論世界樹はその部分をエネルギーで補って再生し、梓乃はまたその部分を狙って莫大な電流を浴びせる。
「ほどほどにしとけよ、梓乃。俺のサポートに、って聞いてねえ……まあ焔がいれば十分だけど」
「コイツと一緒にいるの嫌だし、私も遊んできていい?」
「おぉい、これ作戦だぞ? 今遊ぶっつったよな?」
「だって暇じゃない。私ならこの大木、三分もあればすぐに焼き尽くせるのに。それを十二人で地道になんて……」
「アホ、いくら何でも……え、マジで?」
焔だったらやりかねない、今までの焔を見てきて焔の冗談が段々と冗談なのか本気なのか判断しづらくなっていた。
だが何とか焔を引き留めた黒音は、鎧の結合部から垂らされたチェーンから、海里華達の鍵を取り外す。
海里華に託された雫の鍵、梓乃に作ってもらった即席の霆の鍵、同じく即席ながら託された巌の鍵、遥香の想いが込められた霞の鍵、焔に認められた証である憐の鍵。
計五つの鍵を握り締め、黒音は一回切りのチャンスを一本ずつレーヴァテインの鍵穴に差し込んだ。
「頼む……俺に力を貸してくれ……」
「黒音、そろそろチャージが終わる。今回のは想像を絶する大きさだから、気をつけて」
「私も行ける……聴覚遮断の魔術を展開する……」
この場にいる全員の聴覚が遮断されたことで、ようやく皆に緊張感が戻ってきた。
遥香は特大の爆弾を作り上げ、モノクロは魔力で羽を巨大化させ、二人ともいつでも行ける状態だ。
黒音は梓乃を自分の近くに呼び戻すと、二人に合図を送る。
璃斗達も遥香の背後に待機し、その時を待った。
「神機奥義・皇……」
「神機奥義・合……」
誰の耳にも届かない、だが口の動きで何となく何を言っているかが分かった。
本能的な恐怖がその場を去れと絶叫する中、ついに二人の鉄槌が振り下ろされる。
「どうなっても知らないから……〈超巨大積乱雲〉ッ!!」
「すべてに抗え……〈反転する双銃〉ッ!!」
アダマスの大鎌に切り裂かれた雲属性の爆弾は、天変地異でも起きたのかと言うほど馬鹿げた威力で地面をえぐり、世界樹へと激突する。
巻き込まれた触手は文字通り塵となり、世界樹自身は舐め溶かされたようにごっそりと失われ、それでもまだ積乱雲は止まることを知らない。
さらに追い討ちをかけるように、モノクロの放った二発の銃弾が世界樹を食い潰すように消し飛ばした。
まさに純粋な破壊の嵐。あらゆるものを壊し、吹き飛ばし、飲み込み、消し去る。
流石に想定外だったが、遥香とモノクロの最大最強の奥義は、たった一回目で世界樹飲み込み大部分を吹き飛ばした。
「見えた、あれがコアだ!! 行くぞ深影!」
「触手は気にするな。お前の考えとやらを見せてもらおう!」
深影は次々と腰に巻いたベルトのアクセサリーから銃を呼び出し、防衛システムの触手を撃ち抜いていく。
その間に黒音は魔力を限界まで高め、この場で最大の爆弾を落とした。
「アズ、行くぞ! リミットブレイク!!」
「なっ……そんなバカなッ……!?」
驚愕する深影をよそに、黒音は己の限界を超越した。
黒音の身を包む甲冑の表面が弾け飛び、濃密な瘴気が黒音を包み込む。
淡い光に包まれた黒音は、己の身を包む甲冑を振り払った。
新たに黒音の体を包む甲冑は、起伏がなく空気抵抗の少ないフレームだった。
だが黒音の頭上に展開された魔方陣から、次々と甲冑のパーツが落ちてくる。
甲冑のパーツはそれぞれ決まった場所に装着され、黒音の全身は重厚な鎧に包まれた。
最後に黒音の頭部を魔力のベールが覆うと、黒いフレームの上に金色の仮面を被ったようなフルヘルムが現れた。
「リミットブレイカー……〈黒き終焉〉……!!」
黒音のリミットブレイクに伴い、黒音の右手に携えられていたレーヴァテインの剣が光と粒子となって消え去り、黒音の左腕に装着されたレーヴァテインの盾が、剥がれ落ちるようにその姿を現した。
外見は円形から五角形となり、九つあった鍵穴は中心へと集中している。
黒音は盾に差し込まれたレーヴァテインの本体である剣を抜き取り、それを天に掲げた。
「深影、俺の体を頼む!」
「あ、ああ任せろ。貴様の全力を見せてみろ!」
「そんじゃあトリは頂くぜ! レーヴァテイン!」
『準備は出来ております、支配者。参りましょう!』
「九つの門に封じられし五つの力、輝け……〈五門解錠〉!!」
同時に五つもの門を〈解錠〉し、黒音の全身を五つの光が覆う。
深影は指先から自分の魔力を黒音の体に流し、黒音の体のコントロールを奪う。
刹那、想像を絶する重圧が深影を襲った。一つの門を〈解錠〉するだけでも本来ならば大きい負荷がかかると言うのに、それを同時に五つも行ったのだ。
黒音が深影に自分の体を預けたのは、あまりの負荷による体のクラッシュを防ぐ為と、七つの属性やエネルギーが入り乱れて半暴走状態の混乱した肉体をコントロールする為だ。
今黒音の体に流れているのは、無属性、闇属性、水属性、火属性、地属性、雷属性、雲属性の七つ。
しかも扱う神機まで六つに増えているのだ。黒音は六つの神機のコントロールに専念し、負荷の分散やエネルギーのコントロールはすべて深影に任せている。
「六道の門……〈五つの輝き〉だ」
「ぐッ……なんて無茶な負荷だ……俺に任せた意味がようやく分かったぞ……っ」
「白夜は深影を守れ。俺をサポートしてる間、深影は無防備だ」
「分かったよ、任せて」
「梓乃と愛梨ちゃんは深陽さんのサポート、遅れないようにエスコートしろ」
「わふ、任せてよ!」
「深陽さんには指一本触れさせません」
「いよいよなんだね、すっごく緊張してきちゃった」
やがて光の中から現れた黒音の姿は、異様そのものだった。
肩には二振りに分離したヴァジュラが、腕にはヒルデ・グリムが装着されており、武器はレーヴァテインとクララの二刀流。
何十と分身したアダマスは互いに重なりあって翼を構成し、海里華の元からすっ飛んできたトライデントは槍杆の部分が消えており、槍頭の部分のみが胸当てとして装着されている。
神機を携えると言うよりは、神機を鎧として纏っていると表現する方が相応しい姿だ。
「焔は俺のアシストを頼む。それじゃあ大詰め行くぞ!」
「「おおっ!!」」
遥香とモノクロの奥義により世界樹の防衛システムは著しく機能減衰しており、勝負をかけるならば今しかない。
残った他のメンバーは黒音達の援護の為全方位から世界樹を攻撃し、フィディにしがみつくように騎乗した深陽は空を彩る七色の光を眺めながらティソーナの柄を握った。
「今……迎えに行くからね……」
「深陽さん、そろそろだ。俺が合図したらティソーナであのコアを消し飛ばせ!」
「分かった。行くよティソーナ、私の力を受け取って!」
コアがどれほど頑丈なのかは知らないが、ティソーナの特性は万物を例外なく消滅させる。
世界樹は最後の力を振り絞って今までとは比べ物にならないほどの触手の量で応戦するが、黒音を含めた十二人の契約者が壮大なる世界樹とタメを張って迎え撃つ。
触手を掻い潜り、また消し飛ばしてようやく世界樹のコアへと到着した深陽達。
「間近で見ると、やっぱコアもバカでけえな……」
「これだけの規模を統括する部分だ。当然だろう」
「さあ深陽さん、一気に消し飛ばしちまえ!」
「うん、ごめんねアイゼルネ……待たせちゃって……今、救ってあげるね。那由多へと消え去れ、ティソーナ!」
十字に切り裂かれた世界樹のコアは、ティソーナの絶対的な特性によって消滅させられる。
光の粒子となって消えていく繋がりを、深陽は心の中にぽっかりと空洞が空いたような感覚とともに眺めていた。
最後はあまりにもあっけない最期だった。どんな形であれ、後悔に埋もれていた自分を救い出してくれた大切な恩人を、この手で葬ることになるなんて。
「あなたはただ友達が欲しかっただけなんだよね……分かってたんだ、だからあなたは一人じゃないよ……アイゼルネ……」
「姉貴……謝りたいことがある。俺はあんたに、取り返しのつかないことを……」
「ちょっと待て、様子がおかしい」
「なに、まだ何かあるのか? だがコアは破壊したはずだ」
「じゃあ、何でこの世界樹は崩壊しないんだ?」
そう言えば、と辺りを見回す深影。
深陽がコアを破壊してからは、防衛システムも発動していないようだ。
ならば後は崩壊を待つだけだと思っていたのに、一向に崩壊する気配がない。
「なあ、この世界樹が生まれたのって、お前が深陽さんを黒い煙? とやらから引っ張り出したのが原因なんだよな。じゃあこの世界樹がコアを壊されても崩壊しないのって……」
「まさか、そんなバカな……この世界樹は、まだ終わっていないと言うのか……!?」
最悪の想像が黒音達の脳裏によぎる。天変地異にも匹敵するような世界樹が、さらに暴走すると言う未来。
煙の状態ですら火山の噴火と見間違われるほどまで成長し、世界樹へと変貌を遂げた時は地球の二割は覆い尽くしそうなほどまで巨大化した。
それがさらに暴走すると言うことは、このドラゴンエンパイアと言う世界自体を覆い尽くしてしまうのではないか。
「コアを破壊することでは、終わらないのか……」
「とにかくここを離脱しよう。下手したら俺達まで暴走に取り込まれる」
フリスヴェルグとフィディが黒音達を背中に乗せ、世界樹の中心部から飛び立った瞬間、さっきまで黒音達がいた場所が黒い煙に覆われた。
もし後数秒でもあそこにいたならば、深陽は両目をきゅっと瞑って深影の胸に顔を埋める。
「……安心しろ、どんなことがあろうが、姉貴のことは俺が必ず護る」
「深影、くん……えへ……ありがとねっ」
本当は今すぐ逃げ出したいほど怖いはずなのに、深陽は自分は深影のお姉ちゃんだからと必死に恐怖を圧し殺す。
「なあ、何かおかしくないか?」
「今度は何だと言うんだ? もうこれ以上何が……」
「いや、普通コアを失えばどんなものでも崩壊するはずなんだよ。神機にだってコアはあるし、人間の体なら心臓か脳がコアだ。それを失えば絶対に死ぬってパーツが二回も失われてるのに崩壊しねえのは、おかしくねえか?」
確かに、と深影は顎を引いて思考を巡らせる。
何故黒い煙も世界樹も、コアを破壊されて崩壊しなかった?
それにどうしてエネルギーの供給もなしに何度も破壊された部位を回復出来る?
いくらあれほどの巨体を維持するだけのエネルギーがあるとしても、遥香とモノクロの奥義を喰らった時点でもう修復出来るだけの余力はなかったはずだ。
もし暴走したアイゼルネにエネルギーを供給する機関があるとすれば?
いやそれ以前に、アイゼルネが暴走していないとすれば?
「この世界とアイゼルネ、姉貴はどちらを選ぶ?」
「ふえ、この世界とアイゼルネ? どう言うこと?」
「もっと分かりやすく説明してやれよ。えっとな、この世界を救う為にはアイゼルネを倒さなくちゃならないんだ。深陽さんの恩人であるアイゼルネに辛い思いをさせることになる。それでもいいか?」
「もしかして……アイゼルネはもう……ダメなのかな?」
黒音や深影が包み隠す必要もなく、深陽は理解していた。
アイゼルネがもうこちら側にはいないことや、どちらを選ぶ方が正しい選択かも。
二人が質問に対して口をつぐんだことで、それが確信に変わる。
「そっか……いいんだ、仕方ないよね……それもこれも、私のせいなんだ。私がダメダメだったから、アイゼルネをこんなにしちゃった」
「姉貴は悪くない。人間、追い詰められた時は何にでもすがってしまうものだ。俺だって……そうだったからな……」
「二人とも、しんみりするのは後だ。世界樹の変化が活発になってきた」
空全体を覆っていた雲のような煙は世界樹へと取り込まれ、やがて世界樹の根っこが地面から浮き上がってくる。
浮き上がってきた根っこは雲の足のように関節が生まれ、世界樹をゆっくりと浮かせた。
あのサイズを浮かせたと言うだけでも凄まじいのだが、黒音達の視線は世界樹の根っこよりも上部へ向いていた。
真ん中へ集まるように収縮した無数の枝が、一体の女神像を作り出したのだ。
上半身だけでも三メートルほどはある巨体にも関わらず、細部は骨董品のように繊細で美しい。
下半身は世界樹に埋め込まれているような形なので、実質存在していない。
下半身はバカでかいクモだが、その中心部には小さな女神が存在している。
異形と美麗が入り乱れる混沌としたその姿に、黒音達はただ見とれるしかなかった。
「あれが……アイゼルネの……本来の姿なのか……!?」
「いや本来の姿と言うより、成れの果てだろうな……」
「どうすんだよ、あれ……コアを破壊するのが無駄となれば、もう俺らがアイツに対抗する手立ては……」
「あるよ。とっても無謀だけど、多分それしかない」
深陽は腰に下げたティソーナを引き抜くと、次の瞬間驚くべきことを言い放ったのだ。
それを聞いた黒音は盛大に驚いて絶句するとともに、無邪気な子供のような笑顔を浮かべた。




