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魔王が紡いだ御伽噺(フェアリーテイル) ~tutelary編~  作者: シオン
~tutelary編~ 第三章「犠牲と友情」
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第五話『Berserker』

 転移魔方陣を潜った先に広がっていたのは、深影のすべてが始まった場所。

 わざわざこの場所で決着をつけようとしたのは、深影なりの心意気だろう。

 頂点を極める技術を誇り、さくらんぼの茎を舌で結べるほど器用な深影が、唯一不器用な部分。

 自分のせい死んでしまった姉を操り、見せたくもない戦いの世界に引きずり込んだアイゼルネと決別する為の、始まりでもあり終わりの場所。


「アイゼルネ、一つ聞かせろ。何故お前は〈tutelary〉を壊滅させようとする?」


『簡単な話です。ものが壊れていく様を見ることが、私の生き甲斐だからですよ。私は拷問の女神、精神が崩壊し、狂気に満ちていく人を見るのが好きだからです。この子の願いは貴方を守ってあげることです。それに当たってもっとも確実な方法は戦いの世界から引き離すこと。それつまり、戦いの火種である〈tutelary〉を壊滅させれば貴方は戦いの世界から抜け出さざろう得なくなります。そうすれば晴れて貴方はこの子の元に、〈tutelary〉は私の手で壊滅……利害が一致してるんですよ』


 一番狂気に満ちているのはテメェの方だろ、と言いたげな和真だったが、空気を読んでそこは押し黙る。

 アイゼルネは〈tutelary〉だから壊そうとしているのではなく、たまたま引っかかった少女が深影の姉だったから、ついでに深影の所属するチームを壊そうとしているだけに過ぎない。

 本来ならば深影が〈tutelary〉を抜けて姉貴と一緒にいればいいだけのことだが、仲間の大切さを理解した今となってはもうどちらも見捨てられないほど大きな存在になっているのだ。

 最初はただ未愛 黒音の力の源を知る為の、何気ない好奇心だったが、今はもう違う。

 誰かと心を通わせて、笑ったり悲しんだりすることが許されないと思っていた自分の心を解きほぐしてくれた仲間が、ともに笑い涙を流してくれる。


「〈tutelary〉は壊滅などしないし、この俺がさせん。俺も改めて気づいたが守護者だ。大切なものは自分の手で守り抜く。行くぞルーチェル、海深華。シーサーペントは任せた」


 深影の両手にはすでに二丁のマスケット・マグナムが装備されていた。

 次々と深影を囲むように現れる単発式のマスケット銃を、深影は次々と撃っては捨ててを繰り返す。

 それが開戦の合図、海深華は深影の射線を邪魔しないよう最低限の防壁を展開し、ルーチェルはシーサーペントから吐き出される毒液を圧縮した魔力と聖力を放って吹き飛ばした。

 深影はとてつもないテンポで銃を入れ換え、シーサーペントの頭部を的確に撃ち抜き、再構成させる暇もなくレーザーで吹き飛ばす。

 シーサーペントを構成しているのは黒い骨で、すべての神機に共通していることは、コアさえ無傷ならばいくらでも再構成出来ると言うことだ。

 深影は頭部を狙いながらもコアの部分には絶対当たらないよう、正確無比な射撃の腕でシーサーペントを無力化していく。


「これが……不知火 深影の実力……」


「やっぱりスゴいの……全然目で追えないの……」


「モタモタするな海深華、シーサーペントを凍結させろ。お前ならばコアに傷をつけることなく冷凍出来るはずだ」


「あ、当たり前よ。アイシス!」


 シーサーペントがほとんど動けなくなった所で海深華が凍結し、それを自分の方へ引き寄せる。

 シーサーペントの支配権を奪い返されたエイスだったが、それでもお構いなしにティソーナとコラーダを振るってきた。

 流石の二人もすべてを例外なく消滅させるティソーナの特性は防ぎ切れず、後退を余儀なくされる。

 そんな時だ、つんざくような雷鳴と無数の白い羽根が降り注いできたのは。


「やはり、モノクロさんの次元転移を解析して正解でしたね」


「まさかまた次元の狭間を潜ることになろうとはね……」


 絶え間なく降り注ぐ雷鳴は容赦なくエイスを追い詰め、ティソーナの攻撃を中断させる。

 さらに雷鳴にも負けない煌めきを放つ光の槍は、コラーダによる空間のねじ曲げを次々と無効化していった。

 

「愛梨、お前……それに白夜、貴様まで……」


「モノクロさんがいつになく焦った様子でしたので、来てしまいました」


「まさか〈soul brothers〉の皆さんが援護してくれているなんて、驚きです」


 ここに〈tutelary〉全員集合。〈soul brothers〉はパートナーを引っ込め、和真は愛梨にコロナを預けて一歩下がった。

 チームメートが全員揃ったのならば、もう自分達が助力する必要もない。

 和真は最後に深影の肩に手をおき、


「お前に対する印象が変わったぜ。お前をライバルに認めてやる」


「それはこちらのセリフだ。俺達が挑むまで、精々腕を磨いていろ」


 二人の間で何かが通じ合い、しかしすぐに互いの背を向ける。

 伊織は何か言いたげで、でも少し恥ずかしそうにもじもじする優の頭を撫でると、またねと言って転移魔方陣を開いた。

 伊織の開いた転移魔方陣に次々と〈soul brothers〉のメンバーが潜り、ようやく静寂が包む。


「コロナちゃんが酷くぐったりしてますけど、何があったんですか?」


「話せば気絶するだろう。簡潔に言えばコロナが大怪我を負った所、〈soul brothers〉のメンバーが現れて助けてくれたと言うわけだ。それよりも、目の前の相手に集中しろ。ティソーナを使ったエイスは以前戦った時よりも段違いに強くなっている」


「問題ないよ、ここには〈tutelary〉のメンバーが全員揃ってる。負けるわけがない」


「ふん……今回ばかりは感謝してやらんこともない」


 白夜に対してはとことん素直じゃない深影だが、心の奥底では礼を言っているように見えた。

 愛梨におんぶされているコロナは自力でその場に立ち、優に支えられながらも再びスルトを呼び出す。

 あれほどの傷を負ってまだエイスと戦おうとしているのだ、〈tutelary〉の誇りにかけて。

 優は敢えて何も言わず、同じく再度ライラを呼び出した。


「ここからは〈tutelary〉と女神アイゼルネの総力戦だ。気を抜くなよ」


「任せてください、必ずやお姉さんを取り戻してみせます」


「アイゼルネはコロナを傷つけた……絶対に許さない……」


「優が頑張ってるのに、コロナだけへばってるわけにはいかないよね……!」


「チームのリーダーとして、仲間は皆僕が守るよ」


「お姉さんの想いを……踏みにじらせはしない……」


 アンドラス、カンナカムイ、ライラ、スルト、ジブリール、ベルゼブブの六体はそれぞれのエネルギーを放って暗くなった夜空を照らし、同時にパートナーの体に溶け込むと六人はパートナーと一体化するモーションへと移行する。


「カンナカムイ、行きますよ!」


『準備は出来ている。参るぞ!』


 カンナカムイの手のひらで仁王立ちする愛梨を空高く投げると、愛梨は地面へ急降下する間にカンナカムイと一体化した。

 最初に露となった肘から下の腕と膝から下の脚を太く分厚い装甲が覆い、龍の鱗を模したパーツが指先までを包む。

 さらに二の腕と太股には戦国武将が纏う鎧、その一部である佩楯を模した甲冑が装備されている。

 腕と脚の付け根から這い出したオレンジ色の電流が、さらに愛梨の胴体を飾りだした。

 腹回りは大きく露出され、胸は包帯のサラシで覆われている。

 そして背中から伸びる分厚く長い帯が何重にも胴体をクロスして覆い、最後に愛梨の頭部を蛇が巻き付いたような金色の冠が飾り、ようやく変化が終結した。


「ダブルドラゴンソウル……まさか二度も同じ相手に使うことになろうとは思わねえでしたよ」


「母さん……もう一度僕に力を貸して……!」


『何度でも力になってあげる。何たってお母さんだもの』


 ライラは我が子、優を後ろから包容し、薄暗い翼を限界まで広げて優の体に溶け込んでいく。

 前のめりとなった優の全身を白いボディスーツが包み、細い両腕に細かいパーツへと分解されたオベリスクが装着された。

 自分の身長を越える二メートルもの巨大な腕の形をした神機オベリスクを地面に突き立て、優は真っ白な息を吐いた。


「バーサーカーの前に……万物よ再びひれ伏せ……!!」


「スルト、三度目の正直に付き合って」


『勿論だ。私は何度でもコロナの無茶に付き合ってやるぞ』


 二十メートルを越える巨人スルトは胴体が繋がったばかりのコロナへと吸い込まれ、コロナの体に真っ赤なタトゥーを刻んでいく。

 燃え盛る炎をイメージしたビキニのような衣装に、それを彩る金色のアクセサリー。

 肩甲骨辺りから噴き出す炎が翼を形作り、コロナは炎のタトゥーが刻まれた顔に凄絶な笑みを浮かべ、真っ赤な双桙を見開いた。


「ムスペルヘイムへ再びようこそ、存分に楽しんでってよね」


「久しぶりだけど、問題ないよね?」


『完全なる天使に状態の良し悪しはない……いつでも行ける……』


 白夜は腰から引き抜いた剣、神機フラガラッハを逆手に持ちかえて地面に突き刺した。

 ジブリールは白夜に寄り添うとともに右の翼で自分と白夜の顔を隠し、白夜と口づけを交わした。

 すると儚く散る薔薇のようにジブリールの肉体が無数の羽根となって散り、突如現れた発光する竜巻に巻き込まれて白夜を覆い隠す。

 光を反射する純白の羽根に、闇を飲み込む神の竜巻の中で、白夜の全身を次々と甲冑が包んでいった。

 薔薇の刻印が施された純白の甲冑を全身に纏い、直視もままならないほどの輝きを放つ両翼。

 すべてを飲み込まんとする禍々しいまでの輝きは、依然消えることはない。

 白夜は地面に突き刺したフラガラッハを引き抜くと、その切っ先を撫でて一歩前に出た。


「まさか……この僕が直々に変身することになるなんてね。……覚悟してもらわなくちゃ、ね……?」


「ベルゼブブ……ここで終わらせる……」


『不安要素は一つでも多く取り除くぞ』


 モノクロは頭上に現れた魔方陣から降り注ぐ漆黒の雨に身を濡らし、その小さな体をコーティングしていく。

 纏うローブを脱ぎ捨てたと同時に、黒いバイザーがモノクロの顔を隠した。

 やがて降り注ぐ雨が形となり、モノクロの背中から黒く巨大な腕が二本生える。

 さらに人の腕と同じくらいの細い触手が十二本、モノクロの下半身を隠すように纏まり、背中から生える両腕とともにモノクロを支え持ち上げた。


「……じっくりと……恐怖を刻み込む……」


「アンドラス、姉貴を解放する。手伝ってくれ」


『くすくす……手伝ってくれなんて水くさい……私はいつでもあなたに力を貸してあげる……』


 アンドラスは狼の顔がデザインされたローブを脱ぎ捨てると、深影の首に後ろから抱きついた。

 深影の体をすり抜けるように消失したアンドラスは、内側から爆発するように深影と一体化する。

 深影の胸が爆発して群青色の魔力が吹き出した瞬間、夜空にくっきりと満月が浮き上がり、どこからともなく狼の遠吠えが響き渡った。

 そして実際に現れた群青色の体毛をした狼に全身を食われ、深影は黒の紋章で飾られた群青色のアーマーを全身に纏う。

 交差する鎖の刻印と狼の牙をイメージした起伏が特徴的な肩当てと、胸には薄暗いサファイアの宝石が埋め込まれた狼の頭部を象ったアーマーを装着している。

 最後に狼の頭部の輪郭をしたカバーに、フクロウの翼の形が刻印されたフルヘルムを装着すると、先ほどアンドラスが脱ぎ捨てたローブを左側に羽織り、深影は再びマスケット銃を右手に持った。

 

「我らは守護者〈tutelary〉だ。均衡を乱し、死者の眠りを妨げる者は許さん。行くぞ、ここでアイゼルネを……討つ!!」


「「了解した!!」」


 最初に突撃したのはティソーナの特性を一時的に無効果出来る優と、全体的な能力の高い愛梨だ。

 ティソーナの特性は優がオベリスクで無効果し、コラーダの空間操作は愛梨が力でねじ伏せる。

 さらにコロナが全力を以て自分のフィールドを形成し、焼け崩れた豪邸しかなかったその場所を、灼熱の炎が渦巻く大国へと変貌させた。

 これにより深影達の魔力や身体能力を底上げし、エネルギーなどの消費を抑える空間を作った。

 コロナは味方のサポートに、優はティソーナの無効果に全力を注ぎ、愛梨は以前エイスの腹を穿った神機クトネシリカを振り回して徐々にエイスを追い詰める。

 一見この三人だけでも十分に渡り合っているように見えるが、アイゼルネはすでにこの三人と戦闘を経てその戦闘データを分析しているはずだ。

 〈tutelary〉の中で唯一アイゼルネと一体化して戦っていないのは、深影、白夜、モノクロの三人。

 そこにアイゼルネに勝利する鍵がある。

 モノクロは以前からアイゼルネを撃退する為に作っていた、アイゼルネ専用の封縛魔術の起動に集中しているので、現在戦えるのは白夜と深影のみ。

 案の定コロナは結合したばかりの傷口が開いてたちまち灼熱の空間を維持していられなくなり、それに気をとらえた優がオベリスクの制御を疎かにして隙を突かれ、愛梨は二人を庇って防御に回り、あっという間に形勢が逆転した。


「愛梨ちゃん達もすごく頑張ったけど、やっぱり強いね」


「化け物が……本腰を入れた三人をこうもあっさりと退けるとはな」


 いつの間にこれほどまで強くなったのか、初めて深影が戦闘した時は愛梨達三人を同時に退けられるほどの力があるとは到底思えなかった。

 だが愛梨達と何度か戦闘を重ねる度、深影を含めた四人の戦闘データを吸いとって学習したのだ。

 戦えば戦うほど強くなる上、瀕死になるまで追い込んでも女神なので死ぬことがない。

 未だかつてこれほどまで厄介な相手と対峙したことはなかった。


「白夜、深影……封縛魔術を展開出来るまで後五分強かかる……そして封印するにはアイゼルネはまだまだ消耗していない……」


「どうやら僕達の出番が来たみたいだね。行くよジブリール」


「封縛魔術が完成するまでにアイゼルネを瀕死に追い込めばいいのだろう。アンドラス、やるぞ」


 〈tutelary〉の白騎士と蒼騎士がゆっくりと足を進めると、二人の背後に巨大なカラスが現れる。

 生物系の中でも、特に巨大な肉体を持つ神機フリスヴェルグだ。

 頭上から降り注ぐ漆黒の羽根に彩られながら、二人は大きく地面を踏み出した。


「優ちゃん、コロナちゃんを連れてモノクロちゃんのとこまで下がって」


「愛梨も二人とともに下がってモノクロを守れ。後は俺達二人で十分だ」


「ようやく主役の登場ですか、焦らしてくれますね」


「愛梨達だけで事足りるかと思ったが、やはり俺達が行かなければならないようだな」


 愛梨達を戦わせて力量を図るまでもない、この化け物はもはや四大勢力クラスだ。

 それも深影や白夜と同等、下手をすれば〈strongestr〉と比べても遜色ないだろう。

 例えそれが神機の性能に頼ったものだとしても、その神機を使いこなすのも実力のうちだと考えれば、やはり甘く見れたものではない。


「フリスヴェルグ、防御は任せた。五分で終わらせる」


「その様子だと、僕を頭数として見ていないみたいだけど?」


「貴様は最終手段だ。万が一この俺の手に負えなくなった時に手伝わせてやる。この場で言うことではないが敢えて言っておくぞ。俺が〈tutelary〉のトップだ。今からそれを見せてやる」


「格好つけてますけど、お仲間さんに頼らなくていいんですか? 総力戦なんでしょう?」


「確かに総力戦だ、だから今〈tutelary〉の総力を投入してやっただろう」


 つまりこの俺こそが〈tutelary〉の最大戦力だと行動で示したのだ。

 エイスは緊迫した空気をぶち壊す深影の自信満々さに、とうとう笑いを堪えられなくなった。

 冗談でも何でもなく、深影は本気で一人で戦おうとしているのだ。


「あ、貴方と言う方は、本当にっ……あはははっ!」


「……何がおかしい? 俺は極めて真面目だぞ?」


「自信過剰なとこも、それに気づいてないとこも……全部昔のままですねっ」


 心底楽しそうに、エイスは無邪気な笑顔を浮かべる。

 その笑顔が幼い頃の姉貴にあまりにもそっくりで、深影の思考が一瞬停止した。

 自分がどれだけはね除けても、姉は今みたいな笑顔で接してくれていたか。

 よく考えてみれば、今自分は絶対にあり得ない光景に遭遇しているのだ。


「目の前に死んだはずの姉貴がいる……本人の目の前で謝る機会が……巡ってきたのか……」


「ふふ……謝るくらいなら戻ってきてください。そうすれば〈tutelary〉は見逃してあげます」


「そして……そんな姉貴の笑顔を歪めているのはアイゼルネ、お前と言うことか……」


 思えばボタンのかけ間違えはすでに起きていたのだ。

 自分が生まれた時から、もうすでに歯車は狂い始めていた。

 ゆっくりでもいい、仲間に頼りながらでもいい、少しずつそのボタンをかけ直して、歯車をはめ直せばいいだけのことだ。


「アンドラス、単六、追二、散二門、砲一、狙三、弩二の六、光十の八、矢一強だ」


『くすくす……任せて……張り切るわよ……!』


 何やら意味の分からない暗号を連ねたかと思うと、深影の周辺に次々とマスケット銃が現れた。

 しかもいつも使っていた古びたフレームではなく、アンドラスとの一体化に合わせてマスケット銃のフレームも群青色の滑らかなボディへと変化している。

 深影がマスケット銃のトリガーに指をかけた瞬間、マスケット銃の銃口から魔力が注入される独特の音が響いてきた。

 しかしそれも二秒弱ですぐに終わり、深影は一瞬の間をおいて、


「影に見るは夢か現か……俺の幻に溺れてみるか?」


 まるで雷が落ちたような音とともに、マスケット銃が発射される。

 螺旋を描いて発射されたマスケット銃の弾丸は、蒼い線を描いて急に進む方向を変えた。

 そして予測不可能な軌道を描いた銃弾は、再び方向転換してエイスへと墜落する。

 蒼い弾丸をまともに喰らったエイスは、砂埃に包まれて姿を消した。


「俺の放った弾丸は俺の魔力の加え具合で自由自在に動く。今のは二度方向転換するように魔力のリズムを変えただけに過ぎん。たった一発でやられれるはずもない。出てこい」


「まさか、こんなことまで出来るだなんて。流石ですね」


「出来て当然のことを褒められる筋合いはない」


 深影は残りのマスケットに同時に莫大な魔力を注ぎ込み、五発の銃弾をほぼ同時に放った。

 単発のマスケット銃を手にとり、狙いをつけて発砲するまでの時間があまりにも短かすぎる。

 それも命中率の低いマスケット銃でだ。構えるのと狙いをつけるのが同時、しかも撃った銃弾はすべてエイスが回避不可能な位置に着弾している。

 やむを得ずエイスはコラーダの空間操作を用いて銃弾を空間ごとねじ曲げるが、その瞬間に銃弾が爆発してエイスの視界を奪う。


「空間操作を再度発動するには平均五秒の時間が必要だ。アンドラス!」


『くすくす……問題ないわよ……!』


 深影の両腕に装着されたミサイルポッドから、追尾型のミサイルが片方六発、計十二発が発射され、ミサイルは吸い込まれるようにエイスへ直撃した。

 蒼い光を放ちながら何回も爆発音が響き、立っていられないほどの地響きがその威力を物語る。


「……まったく、無茶苦茶ですね。仮にも私はあなたの姉ですよ?」


「俺はお前がすべての弾幕を防ぐと信じていた。いや確信していた。だからこれを用意している」


 深影の腰にはすでに二挺のガトリングガンが装備されており、爆発による噴煙が過ぎ去った瞬間、二門六連のガトリング砲が火を噴いた。

 つんざくような爆発音が絶え間なく響き、その直後ロケット花火のような甲高い音が無数に炸裂する。

 蒼い線が何重にも夜空を横切り、エイスは一瞬それに見とれそうになりながらも、すぐにティソーナの特性で銃弾を消滅させた。


「使ったな……ティソーナを……!」


 ガトリングに気をとられてほんの少し深影から注意をそらした瞬間、深影はすぐさまエイスに急接近してゼロ距離からバズーカをぶっ放した。

 バスケットボールを射出出来るほどの大口から発射されたバズーカは蒼い線を描くことなく、エイスの背後で爆発する。

 深影はわざとその反動で後ろに吹き飛び、勢いに任せてフリスヴェルグの背に飛び乗った。

 そしてすでにフリスヴェルグの背にセッティングされたスナイパーライフルに指をかけ、スコープを覗くと同時にトリガーを引く。

 さらにスナイパーライフルを撃ち終えた時にはもう次の武器、同時に三発の矢を発射出来るボーガンを両手に装備していた。

 目にもとまらぬと言うか、もはや人の理解が及ぶ領域を遥かに逸脱している。

 一ミリも無駄のない動きに加え、狡猾なまでに構築された一連の流れ。

 それらを実現する強靭な肉体と精神力、何より銃を構えてからターゲットを捕捉、狙いを定めるまでの時間をあり得ないほど短縮する驚異的な瞬発力と反射神経。

 極めつけに弾丸が発射されるまでのスピードと、衝撃によるブレまでを計算に入れた正確無比な計算力。

 どこをとってもこれ以上ない究極の技術の結晶。

 神業と言う言葉はまさに深影の為だけに生まれてきたような言葉だ。


「……魔王様は何で君じゃなくて僕をリーダーに選んだんだろうね」


「荷が重ければ降りろ。俺は代わってやらんがな」


「かはッ……けほっ……うぅ……煙たいです……」


「流石は愛梨達の戦闘データを吸収しているだけはあるな」


「あなたの戦闘データも一応は分析してありますからね。にしても危なかったですよ。魔術を一つも起動する暇がないんですから」


「流石の俺も驚いている。俺のアブソリュート・コンボを防ぐとはな」


 絶対なる連射、アブソリュートを防いだのはこれで二人目だ。

 しかしこれで終わらないのが〈真実の幻〉の底が見えない強さだ。


「お前にならば"アレ"を出してもいいかもしれんな……いや、まずはこれを防いでみろ。精々姉貴の肉体を守ってくれよ」


 深影は両手に握られたボーガンのグリップに魔力を流し込み、両方同時、計六本の矢を放った。

 その矢はエイスがコラーダで空間を歪めても、それをすり抜けてエイスの両腕を貫通し、先が地面に突き刺さってエイスの体を固定する。

 両腕を拘束されている為ティソーナも使えないし、コラーダはたった今特性を使ったばかりだ。


「テトラ・ブラスター……〈舐め溶かす牙〉!!」


 右肩にセットされたレーザー砲、テトラ・ブラスターの最大火力を以てエイスを撃ち抜く深影。

 だがエイスは背中を大きく反らして回避すると、背後で爆発したレーザーの衝撃によって再び仁王立ちの状態へと戻った。

 究極の射撃を繰り広げる深影も化け物じみているが、それをほとんど無傷で回避するエイスも次元が違う。

 エイスは自分の両腕を拘束する矢を手首で回転させたティソーナとコラーダで破壊した。


「やはり今の私には及びませ──」


「〈騙欺の矢〉……穿て……」


 体勢を立て直した瞬間、その一瞬に背後に回り込んでいた深影が、大きな弓の人工神機イチイ・アーチェリーを展開、それをエイスの後頭部に突きつけていた。

 振り向く余裕も与えず、深影はイチイの弦を弾く。

 エイスがテトラ・ブラスターのレーザーを回避することも、両腕を拘束する矢を破壊する手際までを織り込んだ、完全なるシナリオ。

 エイスの後頭部を貫いたイチイの矢にはアンドラスの手によって特殊な魔術が仕込んであり、エイスのエネルギーを吸い上げる仕組みとなっている。

 怪我を治癒する力も、況してやティソーナやコラーダの特性を発揮することも叶わない。

 これこそが魔王にあと一歩及ばなかった、深影の全力。

 しかしそれでも、まだ六芒星封印を一つも解いていない。

 本来の六十分の一の力だけで女神アイゼルネを完封し切った深影は、全身から吐き出すほど大きなため息の後、エイスの前にしゃがむ。


「アイゼルネ、お前の敗因を教えてやる。俺とお前では背負うものが違うんだ。ただ誰かを苦しめたい、壊滅させたいと言う遊び半分の思いとは違う。俺は俺の浅はかな考えで姉を死なせてしまった。俺は一生かけてそれを償おうとしている」


「私は……ぐッ……ぅ……最初から……負けていた……と……?」


「確かにお前は強かった。だが俺とお前では背負っているものの重みが違う」


「認め……ない……私は……こんな所で……死ぬわけには行かない……破滅……させる……崩壊させる……それが私の存在意義であり……宿命……!!」


 聖力を吸い出された今、一体どこにそれほどの力があるのか。

 エイスは額を貫通した矢を自力で引き抜くと、自らの聖力で額の傷を含めて全身の怪我を治癒した。

 流石の深影も戦う余裕がないわけではないが、これ以上は姉の肉体に危険が及ぶ。

 そんな時だ、愛梨達三人の声が静寂を迎えた跡地に響いた。


「深影さん、完成しました!」


「お待たせ深影ちゃ──いっつつ……」


「コロナは無茶しちゃダメ……僕がコロナを支えるから、愛梨さんがモノクロさんを援護してあげて……」


「分かりました。じゃあモノクロさん、行きましょう」


「分かった……ん……? あれ、は……愛梨、術式の維持を代わって……」


「へ、どうしたんですかモノクロさん?」


「早くしてッ!!」


 初めて聞いたモノクロの大声に硬直しながらも、愛梨はすぐにモノクロからアイゼルネを封じる術式の支配権を譲り受ける。

 するとモノクロはその場で二丁の神機リベリオンとトリーズンを空に放り投げて深影の方へ突進した。


「抗え……反逆せよ……」


 モノクロがそう呟くと、背中から伸びていた巨大な二本の腕は無数の雫となって弾け飛んだ。

 さらにチューリップを逆さにしたように纏まっていた十二本の触手がそれぞれ散らばり、制御を忘れたようにモノクロの体を締め付ける。

 やがてモノクロの体を縛る触手が花びらのように散り、同時に十二個もの魔方陣がモノクロの背後で展開された。

 十二個の魔方陣は、同じく十二個の立体的で細長い二等辺三角形のパーツを吐き出し、その扉を閉ざす。

 十二個のパーツは二つ一組で組合わさり、それが左右三つずつに分かれて合体し、リボンの形をした巨大な装甲の翼が出来上がった。

 装甲の翼は大量の光を放つと同時に、二枚の大きな虫の羽を投影したように作り出す。

 最後にモノクロの顔を覆い隠すバイザーが徐々に変形し、虫の触角にも似た二本の角が飛び出した。


「深影、後ろに下がって全員の聴覚を遮断してッ……!!」


「わ、分かった。全員、一時聴覚を遮断する!」


 全員の返事を聞いている暇もなく、深影は即座に自分を含めたモノクロ以外の聴覚を魔術で遮断する。

 その直後、凄まじい衝撃が五人の心臓を揺さぶった。

 一瞬呼吸が止まるかと思うほどの衝撃の後、モノクロがあの技を発動する。


「〈かき乱す音(ディスターブ・ノイズ)〉……!!」


 モノクロの両翼から放たれた内臓をかき乱すような爆音が、あたりの空間を揺さぶった。

 たった一人その爆音に対処出来なかったエイスは、まともにその衝撃を受けて吹き飛ぶ。

 耳を根こそぎ裏返されるような異様な音と、全身の血を蒸発させるような衝撃により、エイスは耳から血を流して痙攣する。


「おいモノクロ、どう言うことだ? 何故わざわざ無駄なダメージを与えるようなことを? それも術式を愛梨に預けてまで」


「間に合わなかった……っ……深影、ごめんなさい……!」


 モノクロが泣きそうな声で謝罪を述べるとほぼ同時、エイスの胸辺りからどす黒い煙のようなものが吹き出した。

 煙は瞬く間に広がってエイスを飲み込み、焼け焦げた豪邸の跡地を押し潰し尚も増大する。


「何だ、これは……まさか、暴走しているのか……!?」


「私の音でショックを与えて気絶させれば間に合うかと思った……けど、深影が人工神機で頭を貫いた頃にはもう……」


「暴走していたのか……お前はそれを阻止しようと……」


「ここは危険だ、一旦体勢を立て直そう」


「皆さん、拠点への転移魔方陣を展開しました。急いでください!」


 愛梨の展開したオレンジ色の転移魔方陣へと駆け込むと、先ほどまで六人がいた場所をどす黒い煙が飲み込んだ。

 その場に残されたのは地面に突き刺さり悲しげな光を宿す、宿主を失ったティソーナとコラーダだった。

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