~Cursed children~
私達が出会ったのは古い孤児院だった。
いつから預けられていたのかは覚えていない。
ただ物心がついた頃には、もう同じような子供達と一緒に生活していた。
ぼろっちい所だったので、毎日生ゴミみたいなおかずとパンを一切れ食べて過ごすような毎日だった。
誰にも何も教えられなかった私は、とにかく孤独を埋める為に友達を作ろうと笑顔を浮かべた。
自分が何で生まれてきたのか、何でここにいるのか、何で生きなければならないのか。
──そんなことは何回も考えてきた。でも行き着く先はいつも同じ答え。
生きなければならない理由は死ねないからの一言で片付け、僕達はただひたすら毎日を生きた。
何も感じない、失うものがない故に、得るものもない。
そんな虚ろな毎日に色を与えてくれたのは、一人の女の子。
誰とも関わろうとせず、一人部屋の隅っこで自分の存在を隠していた僕とはまったくの真逆。
僕は化け物と人の間に生まれた化け物の子だから。
でもその女の子はこれからどうなるのかも考えず、ただ笑顔で毎日を過ごしていた。
僕達は真逆だからこそ、歪な歯車だからこそ、絆がより深いものとなった。
──真逆でも虚ろな孤独は変わらない。絶望しかない世界で僕達は光を求めた。
私はすがるように手を伸ばし、炎に飛び込んだ。
僕はせめて失わないようにと、羽を黒く染めた。
そして手に入れたのは、クソッタレな世界を少しでも楽しく生きる為の、守護者と言う居場所だった。
「……ねえ……コロナ……コロナ、起きて……」
「ん、にゅぅ……まだ眠いよ優ぅ……」
「愛梨さんから私が学校に行ってる間はひまわりのお世話をお願いねって頼まれた……」
「そー言えばそーだったね……」
いつまでも目を覚まさないコロナを起こしに来た優は、跳ね返った白い髪をそのままにコロナの体を揺する。
ようやく夢から現実に戻ってきたコロナは、小さな背をめいいっぱい伸ばしてベッドから飛び降りた。
「じゃあひまわりの水を替えたらシャワー浴びよ!」
「うん、でも摘んできた花だから土に植えた方がいいかも……」
「どうすればいいか白夜ちゃんに聞こっか。お花の世話なんて初めてだしね」
優はコロナの手に自分の指を絡め、コロナも優と繋いだ手を離さないように強く握る。
踏み出す脚も、タイミングも、まるで双子のようだ。
「白夜ちゃん、おはよっ!」
「白夜さんに聞きたいことがあって……」
「ああ、おはよう二人とも。僕に聞きたいこと? 魔術のことなら深影君の方が詳しいと思うけどな」
毎日数百冊の魔術書を読み漁っている奴が何を言うか、しかし二人は白夜の魔術よりも、もっと聞きたいことがある。
「深影ちゃんが持ってきた花なんだけど、土に植えた方が枯れないかなって」
「白夜さんのガーデンの一部を貸してほしい……」
「勿論いいよ、スコップの場所とか分かる?」
「うん、大丈夫……じゃあ行ってくるね……♪」
白夜の書斎を後にした二人は、転移魔方陣を使うことなく屋敷から出ると、隅の物置にあるスコップと如雨露を持って庭に出た。
「相変わらず凄いよね、これどうやって世話してるんだろ……」
数十種類もの花が咲き乱れる、白夜のガーデン。
自分で起きられない白夜の代わりにジブリールが朝早くから世話をしていると言うが、二人が知る限りのジブリールは戦闘好きの所しか見たことがない。
とても花の世話をしている所など想像出来ない。
「邪魔にならない所……あそこがいい……」
優が見つけたのは、一部だけ花が植えられずに余っている場所だ。
優がスコップで土をすくい、コロナがひまわりを植え、二人で土を戻して水をやる。
磁石でくっついているのかと思うほど、片時も離れることはない二人。
普段は広間の中で二人でお話をしていることが主だが、今日は久しぶりにお出かけだ。
深影が気分転換したいと言うので、それに便乗していろいろな所に連れて行ってもらおうと言うわけだ。
「じゃあ深影ちゃんが来る前に用意しちゃおっ!」
「うん、おめかししないとね……♪」
二人はもう慣れてしまったが、白夜達〈tutelary〉が住むのは洋画でしか見たことがないような豪邸だ。
つまりバスルームも、旅館顔負けの大浴場なわけで。
「コロナ、今日は泳いでる時間ないよ……」
プールよりも広い湯船を背泳ぎ出来て、露天風呂もあって、何かライオンみたいな石像の口からずっとお湯が流れてて。
しかもジャグジーがあって、サウナまである。
一言で言うと、一生分の贅沢を味わってしまうほど至れり尽くせりなのである。
「そだったね──わぶっ!?」
「コロナっ……!? どうしたの……?」
「ぶはぁっ! ふぃ、義手外してること忘れてたよ」
コロナの肘から下は両腕とも義手の為、少しでもバランスを崩すとすぐに転覆してしまうのだ。
湯船に飛び込んでコロナを掬い上げると、優はコロナの体を支えて椅子に座らせた。
「コロナは僕が目を離すとすぐに危なくなる……」
「えへへ、ごめんごめん。今度からは気を付けるよ」
生まれた時からなかったのは左腕だけだったが、この右腕は名誉の負傷と言うやつだ。
だから優は自分がコロナの腕になると言ってまでコロナの世話をしている。
「今更だけどさ、いつも優に体洗ってもらってるけど、コロナは優のこと一度も洗ってあげられてないよね」
「仕方ないよ、でも気持ちは嬉しい……ありがと……」
数週間前までは想像も出来なかった光景だろう。
深影はコロナと優の二人をつれておでかけをしていた。
ただ最近アイゼルネのことやティソーナ、コラーダのことで疲れていた心身を休める為だと言うのに。
この二人は完全に遊ぼうとしている。
つまり逆に深影は疲れる立ち位置にいると言うわけだ。
「はぐれるなよ、はぐれても探さんぞ」
「分かってるよ。あ、深影ちゃん、あそこ行こ!」
「お、おい、腕を引っ張るな」
はぐれるなと言った手前、手を離すわけにもいかず、コロナと優の二人に両腕を引っ張り回される深影。
雑貨屋にペットショップ、おまけにクレープまで買わされ。
深影が行きたいのはオープンテラスのあるカフェや大きな規模の図書館なのに。
これでは今日の為に立てていた計画も見事におじゃんだ。
「深影ちゃん、今日は全力で楽しむよっ!」
「深影さんの行きたいとこも行こーね……♪」
(……まあ、たまには予定なしに遊ぶのも悪くないか)
二人の無垢な笑顔を見ていると、計画などどうでもいいように思えてきた。
決められたコースよりも、自分が楽しいと思えることを全力でやる。
この二人から大切なことを一つ学ばせてもらったようだ。
深影は二人の頭に手をおくと、また二人に振り回された。




