~Royale the tutelary~
メルヘンの国に出てきそうなヨーロッパ風の赤レンガで出来た豪邸。
その広間でたった一人、ソファに上半身の体重を預け、テーブルに土足で足を投げ出している青年がいた。
その他には誰もおらず、その青年ただ一人だけだ。
辞典のように古びた表紙の本を顔に乗せ、昼寝をしているようだ。
「失礼します、って……まだ誰もいませんよね……あれ、嘘……あなたが一番最初だとは……」
黒に近い茶髪と、珍しいオレンジアイをした少女。
セーラー服を着た中学生の少女は、毎回自分が一番最初に来ていた為に、毎回最後に来ていた人が自分よりも先にいることは、少し時間が立つまで理解出来なかった。
「ん……ぅ……ねぇ……さ……」
「寝言でしょうか……姉さん、と言いましたか……?」
そう言えば、白夜さんが姉と言う単語を発した時、この人はいつになく怒りを露にしていた。
人の過去を断りもなく詮索することは、絶対にしないと決めていたが、どうしても気になってしまった。
「ね、寝言を聞いてしまうのは、仕方ないですよね……こ、ここで寝てる深影さんが悪いんですから……」
俺が生まれたのはお金持ちの家、いわゆるお坊ちゃんと言う立ち位置だ。
両親は常に上を目指す性格で、俺もそれに影響されて勉強も習い事もすべてトップをとってきた。
両親も親戚も自分さえも、出来ないことはないと思っていた。
そんな俺には一人の姉がいた。
俺に比べて、いや普通の子と比べても一際間が抜けていて、落ちこぼれていた。
そんな姉には両親は一切期待しておらず、たまに何かが上手く行った時はバカみたいに褒められていた。
──だが俺は違う。
俺の場合は出来て当然、出来ない方がおかしいと。
姉と比べられるくらいならばまだよかっただろう、だが両親は俺のことを一切見てはくれなかった。
俺は完成品だから、両親の手を煩わせずとも成長出来ると。
褒めてほしくて、安心させたくて頑張った行為が、実際は両親を遠ざける結果に終わった。
両親は優秀な弟よりも、出来損ないの姉をとったのだ。
どれほど屈辱的だったか、俺はそのせいで姉を邪険にし続けていた。
そして小学生を卒業する頃、俺が家で宿題を片付けていた時だ。
俺の知らないうちに、家は炎に包まれていた。
調理場の不手際が原因で、ガスに引火したらしい。
スプリンクラーは故障し、炎は容赦なく屋敷を焼いた。
一体何がどうなっているか、俺は夢でも見ているのかと思った。
何度も爆発音が響き、火の手がどんどん迫ってくる。
俺の自室は窓もなく、黒い煙が充満して逃げ場もない。
爆発音に駆り立てられる俺に、唯一残っていたお手伝いがこう言ったのだ。
「ご両親はもうお逃げになられました! 早く脱出しましょう!」
ご両親は、もうお逃げになられました、だと?
子供をおいて自分達だけが?
元より両親に信頼などおいていなかったが、その時さらに両親に対する軽蔑が酷くなった。
やがてそのお手伝いまでもが逃げ、屋敷に残されたのは俺一人。
俺のような完成品などよりも、未完成で落ちこぼれていた姉の方が大切なのだろう。
だがたった一人、そんな俺を救いに来てくれる者がいた。
それが俺の姉だった。
運動能力もなく、少し歩けばつまずくような姉が、火の海を掻き分けて俺を救出しようとしているのだ。
小さい頃からずっと邪険にし続けていたこの俺を。
ようやく俺の元に辿り着いた姉だが、とうとう屋根が崩れてきた。
姉は俺を守る為に自ら屋根の下敷きになり、俺を守った。
その時だ、俺がアンドラスと出会ったのは。