昇降口で
書き方を変えてみました。
私は放課後、何時ものように迎えを持っていた。家が遠くて、電車やバスはお金がかかる。なので、私は親に迎えに来てもらっている。
普通の人は「いいな~」や「私もそっちがいい」と言うかもしれないが、待っている間は物凄く暇なのだ。
親の予定で迎えに来る時間が早い時はすぐ帰れるし、遅い時には人が殆どいない状態に迎えが来る。
うちの高校は校則は比較的にゆるい。ゲームを持ってきたり、雑誌や漫画などを持ってきたりしてもあまり文句は言われない。無論、自己責任だが。
そんなこんなで私は気分によって、ゲームだったり、漫画だったりを持ってきている。
で、今日はゲーム。
「安藤さん、何してるの?」
「倉橋君……」
倉橋高野、16歳。同じクラスで男女ともに人気のある男子。言わば、クラスの中心にいる爽やか君だ。
そして、私は安藤由佳、まだ、誕生日が来てないので15歳。少し腐った普通のオタクだ。
私はゲームから目を離さずに答える。
「見てわからない? ゲームだけど」
「どんなの? アクション系?」
「貴方には縁がないよ。乙女ゲームっていう…」
「あぁ! 姉ちゃんがやってる奴か!」
彼の言葉に動かしていた手が止まる。
何ですと!
顔を上げ、倉橋君に問い詰める。
「それどういうこと!」
「えっ、あの…」
「貴方のお姉さんは何の乙女ゲームをやってるの!」
「いや、だから…」
「ねぇ、教えてよ。ほら、早く!」
「…人の話を聞け!」
大声で言う倉橋君。驚いて、口を開ける私。
普段はそんな感じじゃないんだけどな。
「あ、ごめん。でも、安藤さんってそんな人だったんでね。もっと大人しい人だと思ってた」
「こっちこそ、ごめん。いきなり」
あ~あ、倉橋君に何してるんだろ、私。倉橋君に失礼だよね。
「そ、それより、安藤さんって、いつも乗降口で待ってるよね。なんで?」
「家が遠いから、親に送迎して貰ってるの」
「そっか、大変だね」
「…………」
「? どうしたの、安藤さん。驚いた顔をして」
工藤君の言葉に驚きを隠せず、呆然としていると、倉橋君が私の顔を覗きこんだ。
「ご、ごめん。羨ましがられるのは合ったけど、大変って言われたの初めてで」
「あれ? そうなの? 迎えを待ってるの大変だなぁって思ったんだけど」
「……あ、うん。待ち時間が長いと暇だから、今みたいにゲームとか持ってきてるの」
「そっか。……あっ、そうだ!」
倉橋君がいきなり立ち上がり、私に向かって言った。
「俺も安藤さんと待ってるよ!」
「………は…?」
何言ってるんだ、コイツ。思わず、自分の目を疑った。
「だって、安藤さんは待ってる間、暇なんだよね?」
「うん、だから…」
「だったら、俺も待ってるよ! うちは両親共働きで家に居ても暇だし!」
ダメだこりゃ、全く話を聞く気がない。諦めるしかないかな?
「分かった。けど、私のゲームの邪魔はしないでね」
「……っ、うん!」
溢れんばかりの笑顔を浮かべて頷く倉橋君。眩しくて、思わず手を顔の前に向けた。
「? 何してるの?」
「あ、いや。何でもないよ」
い、言えない! 倉橋君の爽やか笑顔が眩しくて、手で遮ろうとしていたなんて!
「ふーん、そっか」
不思議がりながらも、気にしないらしい倉橋君。そのまま、何も聞かないでね!
倉橋君は鞄から本を出し、読み始めた。
タイトルは…、『気になるあの子の落とし方』。
…………。
倉橋君は好きな人でも、いるの?
というか、そんな本を私の隣で読まないで欲しい。
色々な事を考え込んでいた私は知らなかった。
倉橋君が本を読むフリをしながら、小さくガッツポーズをしていたのを。
後々に、この昇降口で一緒に待つという行為が日常になるとは思いもしなかった。