第八話 「焰の精霊」
投稿が少し遅れました。
ではどうぞ。
第八話「焰の精霊」
『マスター♡』
「……どうしてこうなった?」
夜宵が一蹴したドラゴンから出現した精霊は焰を纏ったまま彼に懐いていた。まあ焰を纏ったままなので熱いのだがその程度で火傷を追う事は無く、夜宵の強靭さがここにも現れていた。何故か服も燃えていない。
「焰を纏った精霊……まあ大体の検討はついてるんだが確かじゃないからな……小雪に聞いてみるか」
『マスター大好きです♡』
未だに夜宵にくっついている精霊を肩に乗せ、クレーターと化してしまった土地を歩いて行く。すると向こうからあの少女と小雪が駆け寄って来たのだった。
「あれ? 小雪達も来てたのか」
「うん♪」
「一体何者なのよあんた……」
夜宵と小雪は何気無く会話をしているが少女はドラゴンを一撃で絶命させた夜宵の力の出鱈目さに顔を青褪めていた。
「言っただろ? とんでもねぇ人間様だってな」
「はぁ、もうそれの一点張りね……」
だが少女も慣れたのかはたまた諦めたのか、もう呆れていた。そこで彼女は夜宵の肩に乗っている精霊に目が入った。
「あれ、その精霊は?」
「ああ、さっきのドラゴンから出て来てな。何か俺に懐いてしまったんだよ」
『マスター♡ えへへ♪』
彼女が目に入った精霊は夜宵の頬をすりすりしたりとやたらスキンシップを取っていた。夜宵も指で精霊の頭を撫でたりしていたので関係としては良好といった感じだ。
そんな中、夜宵は魔神である小雪なら恐らくこの精霊の正体を知っている筈だろうと思い、小雪に尋ねた。
「それで小雪、コイツが何の精霊か分かるか?」
流石は魔神という所だろうか。小雪はその精霊を一目見て即答した。
「うん、このこは『いふりーと』だよ」
「イフリートか……まあ概ね予想通りだな」
「それでね、このこおにいちゃんにひとめぼれしちゃったみたい」
『キャー♡』
ズバリ恋をしたのでしょう、と小雪に指摘され顔を赤面させる精霊。証拠に頬に両手を当てて悶えていた。この精霊、純情の様だ。
「えぇ!? イフリートってあのイフリートなの!?」
『はい♪ あたしは正真正銘イフリートそのものです!』
「うおっ!? ご本人が直接答えた!」
この精霊の正体がイフリートと判明し、驚愕する少女。しかもイフリートから直接答えられたので驚愕しながら後退りする。
「それにイフリートとなると『唯の精霊』じゃ無い事ぐらいは分かるぜ」
『ご名答ですマスター。あたしも含めて神格を得ている『伝説級』以上の精霊は『軍神精霊』と呼ばれます』
『軍神精霊』とはある一定の知名度を得て、その霊格を神格化させた最強種の精霊達を指す。当然ながらその数は指折り数える程度しか存在しない。
イフリートと言われると一度は聞いた事のある名前である。その知名度はイフリートと同じ火系統最強種の『フェニックス』や『バハムート』、『サラマンダー』に匹敵する。
『フェニックス』『バハムート』においては『伝説級』を上回る『神話級』である為、力の差は歴然ではあるが。
「……あんたってもしかして頭良い方だったりする?」
「クハハハッ!! それは愚問ってモンだぜ?」
「……むうぅ」
夜宵の勘の良さは唯の当てずっぽうではない。彼はその神話に対する知識を頭の中に収めている為に、その様に予想や予測を立てる事が出来るのだ。まあ所謂博識と言う事であり、少女は納得いかない顔で引き下がるしかなかった。
「しかし飛んだモンだな。まさかあのドラゴンからその軍神イフリートが現れるとは」
「でもふつうはありえないのに……」
「私も驚いたけど信じられないわ」
だがその博識である夜宵すらもあのドラゴンから軍神たる精霊が現れるとは思いも寄らなかった。少女は当然だが、魔神として君臨していた小雪も予想がつかなかった程だ。
『はい、あたしイフリートは先程まで封印されていました。でもマスターがドラゴンを一撃で倒してくれたお陰で封印が解かれたのです』
「ん? その響きだと一撃で倒さないと封印が解かれない様に聞こえるが?」
『はい、この封印は強力なモノで一撃で絶命させない限り、倒してもまた別の個体へと封印が移り変わる仕組みになっていました』
「成る程ね。いや待てよ、俺は確かドラゴンをぶん投げる前に猫パンチで一回ぶっ飛ばしたぞ。それだと二撃になってる筈だが?」
夜宵の言う通り、イフリートは『一撃で倒してくれた』と言っている。だが夜宵は一撃で倒す以前に一発猫パンチをドラゴンにお見舞いしている。カウントとしては二撃の筈だが一撃で倒したとはどう考えてもおかしい。
だがイフリートはその疑問を直ぐに解消させた。
『それはマスターが持つ『無効化能力』が働いたからです。効果範囲は三mみたいですけど』
「と言う事は俺の持つ『無効化能力』が働いたお陰で最初の猫パンチはノーカウントだったという事か」
『はい♪ 実は二撃目の時も効果範囲に入ってましたが即死攻撃だったのでカウントされた事になったんです』
「それでお前を助ける事が出来てお前は俺に一目惚れした、そう言う事で良いんだな?」
『はい♪ マスター♡』
何気無く鋭い所が有る夜宵。彼はハーレムの主人公の定番である鈍感では無い。彼にそんなラブコメ的展開を望む事は無謀であると言っておこう。
「しかし何て出鱈目な力なのよあんた……」
「ボクもおにいちゃんのちからはすごいなぁっておもう」
『あたしもです。そんな力を持ってる人間なんて聞いた事が有りません』
彼女達は夜宵の力に改めて強い関心を持たせる。
世界を一撃で破壊出来る剛腕。
マッハ600の超速度で移動する身体能力。
凡ゆる能力効果が虚無と化す無効化能力。
小雪だけしか目撃していないが、神々の結界を容易く破ったその力の広い応用力。
そして、世界を破壊する攻撃でないと傷一つ付かない強靭な肉体。
そのどれもが常軌を逸するものばかり。その力あまりにも出鱈目、あまりにも荒唐無稽、あまりにも意味不明で理解不能だ。だがそれは無論、夜宵本人すらも理解不能な力なのだ。
「そうだな、小雪達には悪いが俺もこの力を完全に把握出来ていない。まだ大半が未知の領域だ」
夜宵はワハハ、と笑いながら空を見る。異世界という非常識に出会えた彼の次なる目標は自身に宿るこの力の未知の領域の解明だ。
「ま、この力に名を付けるなら『荒唐無稽』とでも名付けようか。名前は無いよりマシだろうしな、ワハハ」
大前提となる念願を叶え、やっと自分自身のやりたい事を得た夜宵は愉快に笑っていた。
夜宵のその様子を見ていた少女はある事を考えていた。
「(確かにあんな出鱈目な力は見た事無いけど……これなら)」
この力を持つ彼が居れば私の家族を助けられると、そう確信していた。そこで少女は夜宵達に尋ねる。
「ねぇあんた達はこれからどうするつもり?」
「どうするも何も俺達は世界を旅する身だからな。まあ始めたばかりだが」
「それならあの先に王国が有るわ。私はあの国を拠点にしてるんだけど良かったら来ない?」
夜宵にこれを断る理由は無い。面白そうというのも有るが、何よりも彼女の深刻な事情に既に勘付いているからだ。
「ワハハ良いぜ。俺もあの国に行こうと思ってた所だ」
「それなら決定ね。それと自己紹介しとくわ。私はキリカ、冒険者よ」
「俺は三日月夜宵、こっちは妹の小雪だ」
「よろしくね♪」
夜宵と少女、キリカはお互いに握手をする。だが彼女は知る由もない。
これが本当に彼女の運命を変える事になるとは。
『あのー、自己紹介の途中で悪いのですがマスターがやったこのクレーター、王国の方でも大騒ぎになってると思うのですが……』
「「「あ」」」
……暫くは状況が収まるまで大人しくした方が良いようだ。
まさかのイフリート(チート)を加え、夜宵ファミリー絶賛強化中。
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