第六話 「いざ、本命の異世界へ!」
新章です。
どうぞ。
「……何だよ、コレ……」
夜宵はその場で絶句していた。
光の扉から出て来た夜宵と小雪が見たものは最高の景色だった。
現在地は予測からして標高約二千mぐらいだろう、とある山の頂上であった。
山の麓で何かが飛び交う。それはドラゴンや怪鳥などの幻獣だった。夜宵は初めて見る幻獣達の群に目を奪われた。暫く山の頂上から見下ろせる絶景を眺めると大きく息を吸い込んだ。そして大きく叫ぶ。
「……此れからは、此処が、この世界が俺のマイワールドだッ!!!!!」
渾身の叫びが山全体に響き渡る。その影響で森に隠れていた小鳥達が一斉に飛び立った。
夜宵は思っていた。この幻想的な世界は元いたクソみたいな世界より何億倍も美しいと。改めてこの世界へ来れた事を感謝していた。そしてその異世界へと招き入れてくれたのは自分の妹の様な存在になった魔神である少女、小雪だ。思わず夜宵は小雪を抱き締めていた。
「ふえぇ!? お、おにいちゃん!?」
「ありがとな小雪! 俺は今最高の気分だぜッ!!」
「ふにゃあぁ……えへへ、ありがとぉ……」
突然抱き締められた小雪は顔を赤面させたが追撃とばかりに夜宵に頭を撫でられ子猫の様になっていた。それ以上に夜宵に感謝された事が何よりも嬉しかった。
「っと、それよりお前の服をどうにかしないといけないな」
「う、うん……」
ようやく落ち着いた夜宵は小雪から離れる。その時に小雪が残念そうな顔をしていたが、夜宵は鈍感では無いので「またしてやるよ」と言うと忽ち小雪はぱあっと表情を明るくした。単純である。
「よし、そのままじっとしてろ。服を再構築するから」
「うん」
夜宵はじっとしている小雪の胸元に片手を当てる。その時小雪はドキッと心音を高くしたが辛うじて我慢した。
夜宵は地獄の世界を再構築した様に短く呟いた。
「着装」
すると小雪の来ていたボロボロのワンピースが光に包まれる。小雪も驚いていたがそのままじっとしていた。
そして小雪の体を包んでいた光が剥がれ落ちる。そこに有ったのはーーー
ーーー可愛い制服姿の小雪だった。
中学生が冬の季節に着る様な制服で、袖に指を半分出し、膝の上まで白いソックスで履き、ミニスカートを履いているのが特徴的でそれが全体的に愛執を漂わせる。まるで小動物の様であった。
「わ〜! このおようふくかわいい!」
「まぁ小雪が気に入ったなら構わねぇが……何で制服になったんだろうか?」
夜宵はワンピースを再構築するつもりでやったのだがどうやらランダムで決めてしまった様で、それがまさか制服になるとは思いもしなかったのだった。
「ボク、このおようふくがいい!」
「そうか、さて早速だが出発するか!」
「うん!」
夜宵は小雪を抱き上げてそのまま背負い、負んぶの形になると夜宵は足に力を込める。
流石にマッハ600も出すわけには行かないので音速程度の速度で空中に飛び上がった。
「きゃ〜! すごーいっ!」
「ワハハハッ! イイぜイイぜ! スゲェ眺めだっ!!」
ふらりと空中に浮遊する。そして夜宵は空中からの絶景を堪能しながらもう一度足に力を込め、空中を蹴った。
前へ前へと音速の速度で空中を突き進む。ここで夜宵はコレが役に立ったなと、ほくそ笑みを浮かべた。
『八卦六十四陣』
夜宵は無間地獄ので小雪を助け出す際に破壊した結界を我が物としていた。
八卦からなる六十四通りの魔力回路を掌握する事によって破壊した夜宵は破壊と同時にそのプロセスを自らの『氣』に記憶し、常に発動出来る様にそのまま馴染ませたのだ。
『氣』について説明するとかなりややこしくなる故に割愛するが簡単に言えばこの世界での魔力の様なものだ。ただ夜宵の荒唐無稽の力は此処でも鱗片を見せており、夜宵の持つ『氣』の保有量は魔神である小雪の魔力量に匹敵する程だ。
夜宵はこの結界を足場として利用している訳だ。しかも自動で発動しているので空中を足で蹴ろうとするとまるでそこに足場が有るかの様な感覚がある。夜宵は地獄に来ただけで大きな収穫が有ったなと確信したのだった。
すると背に負ぶっている小雪が下の生い茂っている森の中の方向に指を差した。
「ねぇねぇおにいちゃん、あそこにひとがいるよ〜?」
「ん? おお本当だ。何か襲われてる様な様子だな」
二人は元々五感が尋常では無いのでその様子に気が付いた。小雪が指差した先に映っていたのは体長十mは有るだろうドラゴンとその先に地面にへたり込んでいる少女だった。恐らく絶体絶命のピンチと言った感じだ。
「おおっ! あんなにデケぇドラゴンも居るとはな!」
「いってみようよおにいちゃん!」
「当然だ!」
今の夜宵はやたらハイテンションになり、襲われている少女の事を即座に忘れその場所へ急行する。両足に力を込め、音速の五倍の速度で落下した。一瞬にして地面に辿り着き、着地と同時に辺りに地割れを起こし土煙を起こす。丁度少女とドラゴンの間に着地したので両者は驚愕していた。
そして土煙が晴れると夜宵と小雪は目の前のドラゴンを見据えていた。
「ハハッ! 流石に間近で見ると迫力が有るな!」
「どらごんさんでっかーい!」
二人とも興味津津の様子で巨大なドラゴンを見ており、その様子に先程までへたり込んでいた少女は最初は唖然としていたがはっと我に返ると二人に警告した。
「ちょっ、何を興味津津に見てるんですか!? そのドラゴンは『特級魔物』です! 早く逃げないと食い殺されちゃいますよ!?」
その必死の警告に夜宵は少女の存在にやっと気が付いたのか顔だけを其方に向けた。
「あ、そういやコイツこのドラゴンに襲われてたんだっけか」
「もー、おにいちゃんわすれちゃだめだよ〜」
「悪りぃ悪りぃ」
まるで普通の日常会話をしているかの様に話していた二人の間にドラゴンが襲い掛かる。
「GAAAAAAAAaaaaaaaaaaaa!!!」
「猫パンチ」
「UGAAAAAaaaaa!?」
突っ込んで来たドラゴンに対し、顔だけを少女の方に向いていた夜宵はそのままの状態でドラゴンを見向きもせずに平手打ちを繰り出した。
その平手打ちに見事頬を叩かれたドラゴンは音速の三倍の速度で叩かれた方向へと吹き飛ばされ、バキバキッ!!と吹き飛ぶ先に生えていた木々を次々と薙ぎ倒して行く。
その光景を目の当たりにした少女は唖然と驚愕が入り混じっていた。
「へ?え?ええ?」
「うわ、力加減間違えた」
「おにいちゃんすごーいっ!」
やってしまったとばかりにガシガシと頭を掻き、小雪はただ純粋に夜宵を称賛していた。少し異常だ。
「さて、そこのお前」
「へ? は、はい」
「逃げるぞ」
「え? ってひゃあ!?」
訳が分からないと言った表情で少女は夜宵を見る。すると夜宵は少女に近づきそのままひょいっと少女を抱える。小雪は何故かクラウチングスタートの体制を取っていた。
「鬼ごっこの始まりだ!!」
「わーい!」
「ひゃああああああ!?」
夜宵が何やら宣言すると、お互いに走り出した。少女を考慮してかその速度は音速以下だがそれでも時速約100kmは出ていた。
急に猛スピードで走り出した二人に抱えられている少女は酷く困惑しながらその速度に翻弄されてしまう。
その時、少女は見た。
ーーー遥か後方から先程吹き飛ばされたドラゴンが怒りの形相で追って来ている姿を。
制服姿の小雪ちゃん、超可愛いです。
たまりませんね!
そして新キャラ登場です。