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つまり、ここはアホばっか

「やぁ――――・・いい天気だねぇ。僕の嵐のような荒れ模様の心を、まるで嘲笑うかのように晴れてるねぇ」

「お前って可哀想だな。いっつも(すさ)んでて」

「・・・僕をこんなとこまで連れてきて、挙句そうやってしらばっくれるなんて・・・」

「まだ言ってんのか、んなちっさいこと」

「ちょっと奥さぁぁんッ!!この子、命にかかわる問題を〝ちっさいこと〟で済ませましたよぉぉ!!どういう教育なさってるんですかコノヤロォォ!!」


「―――・・いやぁ、いい天気ですねぇ・・・」


言葉通りの晴天、青い空が悠々と広がっている中、妙にじめじめとした雰囲気を醸し出す柊と、それを鬱陶しそうに横目で眺めながら、憐れむ三叉。そして、恰幅の良い穏やかな表情の男がその様子を見ながらお茶を飲んでいた。

男はひょんなことから二人と出会い、なんやかんやで一緒に旅をすることになったのである。

一行(と言っても元々は(ひいらぎ)三叉(みつまた)の二人だけだったのだが)は、商団の馬車と商団長を仲間に加え、新たにギルドの本拠地であるカダン村へと行き先を決めた。

いろいろあったが、まずはギルドに入らなければ話にならない。


お茶を飲み終えた商団長は、湯呑みを置いた。ゆらゆらと馬車に商品と一緒に揺られながら、馬を操っている。

「団長さぁん、僕も乗せてよ。一人だけずるい」

「いけませんよ、柊さん」

商団長は幼い子供を諭すように、ゆっくりと口を開いた。


「私のお腹を見てください、肥満気味なんですよ。このお腹でカダンまで歩くなんて自殺行為です。その点、柊さんは健康じゃないですか」

「団長さん、それってつべこべ言わずダイエットした方がいいんじゃないっすかね」

冷静な三叉の突っ込みにも、商団長は涼しい顔で微笑むだけだった。確かに商団長のお腹は膨れ、馬車が道の石ころで揺れる度にふよんふよんと揺れる。柊は不満げに頬を膨らませると、「あ」と何かを思い出したように声を上げた。


「団長さんって、なんで一人なんですか?」

「あ、それは俺も思ったわ」

柊や三叉が浮かべていた疑問は、商団の人数についてのことである。普通商団は四、五人で率い、村を回ることが多い。この商団長のように魔王の配下の者に襲われることが多いため、数人であった方が都合がいい。それに加え、このご時世に単独で外を旅するなど、よっぽど強いのか、よっぽど馬鹿なのか、それとも両方なのかだけである。

しかも、旅に関しても数人の方が断然いいに決まっている。

しかし、この人は一人であった。


商団長は少し考えると、ぼそりと呟いた。

「友達、少ないんですよね」

「あ、今ボケとかいらないです」

「あ、すみません」

柊の言葉に、商団長は素直に謝る。

「まぁ、深い意味はないんですよ。この商団自体、始めたばっかりですからね」

「あ、そうなんだ」

柊は納得したように頷いた。三叉が目を離すと同時に、ぴょんっと商団長の隣に座る。そしてゆらゆらと、団長の隣で、団長と共に揺れた。

「ちょっと休憩ぃ」

「体力ねェな、まったく」

それを目撃した三叉は、呆れてため息をついた。そんな三叉を横目に眺め、柊は口を開く。


「で、今どれくらいですか?」


「――――・・ああ、どうします?この先に分かれ道あるんですけどね、一つはルルスに戻る道。もう一つは近道なんですけど、魔王の配下がたくさんいる森に入ります。私的には、どっちでもいいですけど・・・」

「よし、帰ろう」

「近道!?断然森だなッ!!」

商団長の言葉に、二人の声が重なった。

もちろん、柊と三叉である。

両者は同時に顔を見合わせ、暫く口を閉ざす。そして、視線で何らかの会話をした後、グッと拳を出した。


「神よ・・・紙よ・・・髪よ・・・どーでもいいから僕を村へ帰したまえ・・・」

「・・・よっし、いける」

二人は口々に言葉を紡ぐと、一斉に叫んだ。

「じゃんッ・・・けんッ――――・・」

二人とも、すごい剣幕である。平和的な争いの割には、いつになく真面目な表情。険しい顔に影を作り、二人は力強く叫んだ。隣でその様子を見守る、ほんわかな雰囲気を醸し出す商団長とは真逆の雰囲気である。


「ぽんッ!!」

柊は硬く握った拳、三叉は手を開いてかざす様に出している。


―――・・つまり。

「あッ・・・」

「ッしゃ」


「決まりましたねぇ・・・」

三叉の勝利のわけで。

半泣きの柊を隣に、ガッツポーズをする三叉と、未だにいい天気で輝くように広がる青い空を仰いでいつのまにか再びお茶を飲んでいる商団長。何も知らずに、地面の草を漁る商団の馬。そんなようなアホらしい勝負で、一行の行き先は森に決まったのである。


こうもアホらしいことを続けていると忘れそうになるが、柊たち一行の旅は、やっとこさ零地点を通過しようとしているばかりである。つまり、今はまだマイナス地点。一歩も進んでいないどころか、後退しているのだ。


ただ、その事実に気付いているのは商団長だけなのだが。


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