物語の発端、にしてはあっけない
「おーう、柊ッ!お前、ちょッ・・・これ見たかよッ!!」
バッターン、と派手な音が聞こえ、夕焼け色の髪の少年、柊は眉を潜めてすごくすごく、ものすごーく嫌そうな顔をした。
無遠慮に、柊の家に入ってきたのはクリーム色の柔らかい色の髪をオールバックにした青年だった。柔らかい髪の色の割には、吊りあがった目と険しい顔つき。
乱暴に開けられた柊の小屋の扉は、青年の力によってギシッと音を立て、ひびが入った。
青年は(自分がしでかしたくせに)そんな扉の惨状を気にも留めず、ずかずかと入り込んで小屋の床に丸まっている一人の少年の背中を足蹴にすると、持っていた一枚の紙を前に突き出した。
「まぁた寝てんのか、お前は。早寝早起きしろよ、そんなんだから不健康且つ引きこもりなんだよ。よし、そんなお前に今日はいい土産だ」
青年は、丸まっている少年の背中を二、三度蹴ると紙を指差した。
蹴られた少年はもぞもぞ動き、青年を寝ぼけた瞳で一瞥すると、ぼそり。
「―――・・うっざ」
「おいこら今なんつった」
「・・・・・うっざ」
「二度も言うんじゃねェェエエエエッ!!!!」
矛盾したことを叫ぶ青年、名を三叉という。
―――さて、気を取り直して。
青年、三叉が血相変えて、迷惑極まりない行動をしながら持ち込んだ紙の内容はこうだった。
〝魔王討伐ギルド設立。冒険者、腕に自信のある者、魔術師、募集中〟
魔王討伐ギルドというような革命とも言える大それたことは、三叉や未だ丸まっている柊のような、一般的な善良な村人には、一切合財関係ない話だ。現に、ここらの村人はそんな紙を見たところで「へぇ、そうなんだ」しか思っていなかった。
ギルドとは、寄ってたかっていい大人たちが何かをやらかそうと動く集団だ。
いや、説明が悪い。
みんなして何かをやらかそうとして、有志の人々を集めて目的を達成する集団だ。
あれ、なんか変わったか?
ギルドにもさまざまなものがある。
商売ギルドや、農業ギルド、職人ギルドなど挙げてみれば様々だ。
その中でも特に酔狂だなんだと言われているのが、〝討伐ギルド〟
つまり、命を落としかねない、入るときにギルドに忠誠を誓って自らの命を預けるようなギルドである。
そんなギルドに入ろうとする輩なんぞ、気がしれない。
そうやって呆れていた柊は、一つ見誤っていた。
柊の身近にもいた。
そんなギルドに入ろうとする輩―――・・それが三叉だ。
命を落とす仕事があるが故、他のどのギルドよりも断然金が儲かる。腕っ節が認められ、幹部にでもなろうものなら一生遊んで暮らせるほどだ。
そのくらい、討伐ギルドなるものは金になるのだ。
しかし、だ。
やはり、死がいつも隣にいるのであって、金と命どっちが大事かと訊かれたなら―――・・命だろう。
それをこの男は、三叉は。
「――――・・三叉、金に目が眩んで命を落とす気なのかい?そんなアホな死に方はない、考え直した方がいい。〝討伐ギルドォ?そんなとこ入ったの?え、死んだ?プププ、とんだ馬鹿野郎だねぇ〟なんて噂されたくないだろ!?」
「柊、妙にうまいじゃねェか、その喋り方。なるほど常日頃そう思っていたのか、そうか。よし、ぶっ殺されたくなかったら、早く起きろ」
にっこー、と大変不自然な笑顔を浮かべながら、丸まって芋虫になり下がった柊を見降ろした三叉は、そりゃもうマジな顔だった。
これは起きないと殺られる。そう直感して、体を起こした。
「ギルドに入るなら僕を巻き込まないでよ、めんどくさい。やるなら一人でやってよね」
ふぅ、と息をつく柊。
「・・・ほぼ引き籠りが何言ってんだ。ちったぁ外の空気吸って、気分転換でもしろ」
「気分転換で命落としたくない」
言い合いながら三叉が柊の手を取り、柊はその場を動くまいと踏ん張る。それを引きずって出口まで行くと、柊は扉で再び踏ん張る。
往生際が悪いと叫ぶ三叉、踏ん張って顔が真っ赤な柊。
唸り声をあげる二人、どっちも引かない―――・・
さすがにやばいと思ったのか、柊はブンッと手を振って三叉の手をなぎ払った。
「確かに三叉は喧嘩とか強いけどさ、僕は外の空気吸うだけで死んじゃうんだ」
きっぱりと柊が胸を張る。
「それって軽く病気じゃね?」
「それに、外に出たって魔王の下っ端に踏みつぶされて終わりさ」
「お前、なんか可哀想だな」
「うん、だからやめよ?」
「よし、行こう」
「人の話、聞いてる・・・わけないか、三叉だもんね。って、うお。や、やめッ・・・ゆ、誘拐ぃぃぃ!!!」
引っ張ると粘られると学習した三叉は、柊を俵を担ぐように肩に乗せて家を出た。
「・・・ただの村人は十のダメージを受けた」
「・・・」
「ただの村人は二十のダメージを受けた」
「・・・」
「ただの村人は百のダメージを受けた、早く家に戻らないと死んじゃうぞ」
「・・・」
「ただの村人は――――・・」
「うぜぇッ!!」
どんだけ嫌なんだ!!と、三叉は運んでいた柊を地面に落とし、足蹴にして怒鳴った。
「いたッ・・・わぁ、助けて。怖いよぅ、ここに魔王がいるよぅ」
「いちいち腹立つな、オイ」
柊の態度に、三叉は眉を潜めた。
「ほら、行くぞ」
「いやぁぁ、死ぬぅぅぅう」
こうして家の外へ、危険な草むらへ、と足を踏み込んだ半引きこもり家大好き人間と、村でちっと有名なただの不良は、不満(主に柊)と不安(主に柊)を抱えながら、ギルド本拠地へと向かった。
こんにちは、れんです。
こんな話を書きたいなっていう衝動で書いてしまいました。
王道中の王道のようなお話です。
ダラダラと更新していくので、暇があったら読んでください。
暇つぶしになれば嬉しいです(笑)