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黒猫ミーネの秘密

 ある国のある町の片隅に大きな屋敷が在りました。そこには、年老いたお婆さんと小さくて可愛い黒猫のミーネの二人だけで暮らしています。お婆さんは、子猫のミーネをとても可愛がっていたのです。子猫のミーネもお婆さんの事が好きで好きでたまりませんでした。 しかし、お婆さんは年寄です。ある日、お婆さんは心臓発作で亡くなってしまいました。子猫のミーネは、悲しくて悲しくて何日も何日も泣きつづけたのです。


 そして、数年の歳月が過ぎ去ったある日。一人の少女がお婆さんとミーネの屋敷にやって来きたのです。


「あのう? すみません!! 誰かいませんか?」


屋敷の入り口を開いた所で一人の少女は、そう叫びました。


「なんだい? ワタシの屋敷に何ようじゃ?」


明かりがない暗い屋敷の中からそんな声が聞こえてきた事に少女は、ビクッっと身体を震わせました。


「何処に居るのですか? 姿が見えないですが?」


少女は、不思議そうに暗闇の方へ話しかけました。


「ここじゃよ!」


少女の足元でそんな声が聞こえました。


「えっ!!」


少女の足元には、黒い猫が少女を見据え不気味に笑ってみせたのです。


「きゃ! 猫が喋った!」


少女は、驚いてへなへなと、その場に座りこみました。


「何を驚いておるのじゃ! おぬし、ここが占い婆ミーネの屋敷と知って来たのであろう?」


「……」


少女は、声が出せずにコクコクと頷いてみせる。


「なら、話しは早い。ワタシが占い婆のミーネじゃよ」


黒い猫は、そう言うとニヤリと笑ったのです。少女は、ミーネに占いを頼みに来たのです。街の噂で的中率100%の占い師が居ると聞いてやってきました。


「おぬしの占い内容は、好きな男に告白して上手く行くか?っであったな」


ミーネは、暗闇から小さな身体を躍らせてひょいっと少女の前に現れました。そのミーネの口には、カードがくわえられていたのです。タロットカードではなく、少女の見た事のないカードでした。まるで、悪魔が踊ってるような絵が描かれていました。


「うむ、上手く行くじゃろう。しかし、ある一言を言わなければな」


「ある一言って?」


少女は、不思議そうにミーネに聞きました。


「それはのう。「愛しています」の一言じゃ。この一言を言わなければ、おぬしの恋は永遠なものになるじゃろう」


「そっそんな!!」


少女は、あまりにも理不尽なミーネの言葉にショックを受けたのです。好きな人に「愛しています」の一言が言えないなんてそんな辛い事は、ないっと思ったのでした。


「信じるか信じないかは、おぬししだいじゃ。だが占い婆ミーネの占いは、的中率100%じゃよ」


ミーネは、おどけた調子で言うと右手をペロペロと舐めはじめました。


「信じる信じないは、別にして。占いをしてあげたのじゃ。報酬を頂こうかのう」


ミーネは、そう言うと少女の方へ顔を向けました。


「ええ、おいくらですか?」


少女が聞くと、ミーネは背筋をピンっと張って首をフルフルと左右に振ったのです。


「ワタシは、猫じゃよ! お金なんて使えはしない」


少女は、ミーネの言葉にキョトンとした顔をしました。


「食べ物で良い……」


「そっそれなら!!」


「マグロの肉でも良いが……できなら、高級な肉がいい」


「例えばどんな?」


「それをワタシに聞くのかい? まあ、ええじゃろう」


ミーネは、少女の足元を一周すると少女の顔を見上げた。 少女は、不思議そうにミーネの姿を追ったがぐるりと1回転すると目を回した様子でその場に膝をつきました。


「まあ、その前にワタシが何故、人の言葉を理解し、言葉を話せるようになったか聞きたくないかい?」


そう言ったミーネの瞳には、妖しく光が揺れていたのです。


「何年も前の事じゃよ。ワタシがまだ子猫だった頃の話さ」


「……」


「ワタシの御主人様が突然心臓発作であっけなく死んでしまってのう」


ミーネは、シッポを左右に揺らしながら少女に語り始めたのです。




 ミーネは、御主人様を失って悲しくてたまりませんでした。 動かない御主人様の横を動かずに三日三晩泣き続けたのです。そして、四日目の朝。ミーネは、食事も取らず泣きつづけたのでお腹が減ってたまりませんでした。

しかし、屋敷には、御主人様しか住んで居なかった為、ミーネに食事を与える者も居らず。まして、部屋には鍵が掛かっていたので外にも出られません。ミーネは、空腹で意識が朦朧としてきました。御主人様の横でミーネは、蹲り目を閉じました。 朦朧とする意識の中でミーネは、夢を見ました。

それも御主人様の夢です。ミーネは、御主人様に聞いてみました。


「御主人様は、どうして死んでしまったの?」


「仕方なかったのよ。寿命だったの」


「でも、悲しいです」


「そう、一人で寂しかったのね?」


「はい」


「こんなに痩せてしまって。もう大丈夫よ」


老婆は、ミーネにニッコリ微笑むと自分の胸にミーネを抱きかかえました。


「そうして、気がつけばワタシは、御主人様の腐肉を食らっていたのさ」


「……」


ミーネの話を聞き終えた少女の顔は、青ざめていました。 ミーネは、そんな少女の顔を見てニヤリと笑ったのです。


「わっ私の肉が欲しいと言うのですか?」


「おぬしの肉でもいいが。それでは、ここへ来た意味が無いだろう?」


ミーネは、そう答えるとノソリと少女に背を向けました。そして、「こっちにおいで」と一言喋ると少女の前をユックリと歩きだしたのです。暗闇の中、少女は少し不安な表情でミーネの後を追いかけました。


「さあ、ここだ」


ミーネがそう言った所で少女は、暗闇の中で目を凝らして見ると。目の前には、中に水が入った大きな釜が存在していました。ミーネは、ひょいと身を飛び上がらせて釜の淵に飛び乗ったのです。


「ここに来て、この中を覗いてごらんよ」


そう言われて、少女は、恐る恐る中を覗き見ました。すると、どうでしょうか、ぼんやりと少女の目に何かの映像が映りだしました。それは、じょじょに鮮明な映像を形どっていき、そこに映し出された映像が自分が恋している少年の姿だと直ぐに理解したのです。


「こっこれは」


「ほう、この少年かい? おぬしの好きな相手は」


ミーネは、ギロリと水面に映し出された少年の姿を眺めました。やがて、少年の映像が崩れていき、今度は、見たこともない少女の姿に切り替わったのです。


「なるほど……あの少年は、どうやらこの娘の事が好きらしい」


「そんな……」


少女は、自分の恋が叶わぬモノだと理解して悲しみました。少女の頬をつたう涙を見て、ミーネは、口を開きました。


「まだ、諦めるのは早いと思うがのう」


「えっ?」


少女は、ミーネの言葉に驚いた様子で声をあげました。


「おぬしのからの報酬だがな……この娘でいい。この娘の肉がいい」


釜の水面に映った少女の姿の方に黒い左腕を指して、ミーネは、そういいました。


「えっ、でも……それって……」


少女は、驚いて言葉が続きませんでした。


「この少女が居なければ、おぬしは、あの少年と上手く行くよ。ああ、とても巧くいくよ」


ミーネは、ニヤリと不気味に笑って見せました。


 こうして少女は、恋しい人と永遠の恋を手に入れる事ができました。

そう、けっして終わる事の無い永遠の恋を。

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