あなたから湧き出る海と干からびた船
気持ちが急激に冷めた。
その時私は中央アジアで干からびた湖、
アラル海を想像する。
旧ソ連が綿花を作るために水を引き、
乾いてほぼ無くなった湖なのだと
聞いた事がある。
写真を見ると、砂漠の様な何もない場所に
大きな船が朽ち果てた状態で放置されていて、
地元の漁師達が砂を掘って船の道を作ろうとした
跡だけが残っていた。
この世の物とは思えないほど、空虚な景色だ。
気持ちが冷めるのは、
急激に水が無くなっていく海を食い止めようと
手で砂を掘るようなもので、
水は結局乾いたり、
砂に染み込んで無くなってしまう。
無駄なのだ。何をしても。
もう心から水が湧き出してこないのだから。
隣で寝ている
かつてどうしようもなく好きだった男の横顔を
何か別のものでも見るように見つめた。
たどり着く場所が結局寂しいアラル海ならば、
何故あんなに手に入れたくなったのだろう。
私はこの人を世界の全てだと信じた。
行為を思い出してみる。寝ている男の横で
下着だけを身につけて缶ビールを開けた。
まるで第三者として見ているように思い出せる。
彼は私の上で優しく動き、
彼の顔から私の肌に汗が落ちた。
さらさらとした数滴の汗。
私は、その汗さえも愛おしかった。
彼の優しい目を見て、
あぁ、
この人は私の事を
食べちゃいたいんだな
と思った。私は幸福だ。
何回か行為を重ね、
最後は裸のまま抱き合う。
疲れきった彼は背中から私をそっと
大切そうに抱きしめたまま、
寝息を立て始めた。
眠っても、私を離さない。
行為が終わっても、
冷たくあしらわない。
壊れそうな物を優しく扱うように
私を抱きしめる男の体温を感じて、
思い浮かんだのは
あのアラル海の干からびた景色ーーー。
どうかしている。
缶ビールを冷蔵庫から取り出す前に、
私は執拗に手を洗ってしまった。
何故、こんな気持ちになるのだろう。
あんなに欲しかった男の愛情を
手に入れたのに。
優しく抱きしめられて
眠る事を
あんなに夢見たはずなのに。




