生産者施設
現実ならそう気にならない雑踏でも獣人の耳には酷く煩わしく感じる為早足で大通りから逸れ、ぺったりと耳を伏せて施設へと向かうと既にザキが入り口横に立っていた。
「悪い、待たせたか」
「気にするな。元々ギルドに居たから早かっただけだ」
ひらりと手を振って応えたザキを連れ施設の扉を潜る。天井の高いホールの正面がカウンターとなっており何人かが仕事をしている。ここはその名の通り生産者用の施設だ。鍛治や木工、細工、調理、調薬、錬金など特有の器具や場所が無いと出来ないサブジョブを持つプレイヤーが利用する。逆に戦闘系のサブジョブ用の施設もあるらしいが詳しくは調べていない。
「こんにちは、初めてのご利用ですね?簡単に施設の説明をさせていただきます!」
「はい、お願いします」
愛想の良い受付嬢に頷くと隣の水晶玉へ誘導される。
「まず、こちらへ施設を利用される方が代表してギルドカードを翳してください」
案内に従いカードを翳すとガラス製の鍵が出てきた。
「そちらがルームキーとなっております。そのキーからルーム設定をしてそちらのワープゲートを潜ると施設へ移動されます。ご一緒に移動したい方がいる場合、移動前にパーティを組んでおいてくださいね。施設内の物はお好きにご利用ください。また、施設内からショップのご利用は可能ですが購入したものはギルドカードを翳した方のバンクから引き落とされますのでショップ利用できる方もまた、カードを翳した方のみとなっております。不便に思われましたら施設で入り口にある水晶玉にカードを翳していただけますと同じようにご利用可能となります。次回以降はカウンターを経由せず直接水晶玉からキーを受け取り施設をご利用くださいませ。ここまでで何かご質問などはございますか?」
特に無いので首を振るとにこりと笑ってまた受付嬢が口を開く。
「かしこまりました!また何かあればお気軽に受付カウンターまでお越しください。それでは、簡単ながら施設の説明は以上とさせていただきます!」
ご清聴ありがとうございました!と締め括った受付嬢に礼を言って説明を受けてる最中に飛んできたパーティ申請を受諾しワープゲートへ歩きながらルーム設定を開く。初回利用のためプリセットからの選択肢のみだったので手早く済ませゲートを潜る。一瞬の違和感の後、木造の広々としたキッチンとダイニングテーブルと椅子のみのシンプルなワンルームに移動していた。目の前に展開されたルーム説明のUIをざっと読んでから閉じる。
「さて、まずは説明か」
「後でで良い。サブジョブ触るの初めてだろ」
椅子を引きながら言うザキに頷いてとりあえず購入した中から珈琲豆を取り出し戸棚に並ぶ電動ミルに入れて粉にする。その間にコンロでポットを火にかけるとUIが開き倍速を選択できたので選ぶと直ぐに湯が沸いた。ハンディドリップで注いでペティの店で買ったカップを温め注ぎ直し、ザキの前に置いて調理を開始する。
「何を作るんだ?」
「丸パン、トマトスープ、カルボナーラ、ボロネーゼ、ドリア、唐揚げ、親子丼、ハンバーグ…」
手を動かしながらつらつらと買ってきた材料で作れるものを上げていくと途中で止められた。
「多いだろ」
「アイテムボックスに入れとけば時間止まるし支障ないじゃん」
米を洗って土釜に移し火にかけてまた出てきたUIを設定しているとコーヒーを飲んでいたザキから訂正が入る。
「枠が圧迫されるぞ」
「え、一品一枠なの?」
「屋台で買ったときはそうだったな」
「…まぁ、暇なヤツ呼べばなんとかなるだろ」
フレンドリストからいつもの面々がオンラインで見て押し付けられそうなのを確かめてから作業を再開する。食器はこの場のものを使うとルームから出た時に消失するそうなのであらかじめ買っておいた使い捨ての皿などに盛り付けダイニングテーブルへ置いていく。リアルではあり得ない量の作業で楽しくなりながらたまに外部サイトからレシピを検索しつつどんどん作り上げていく。
「食べたいのあれば食べてて良いから」
「ん。相変わらず並行作業が好きだな」
「料理も最近好きだよ」
メイン料理はひと段落してオーブンと窯を遠目に焼き上がるのを眺めているとちまちまとテーブル上のものをつまみながらメニューUIを弄る手の動きをしていたザキが顔をあげる。
「ショップから委託ができるらしいぞ」
「まじか」
言われてショップを開くと自分のアイコンのところから商業ギルドの委託設定が出た。
「まじだった」
「だろう?」
ふふんとわざとらしく偉ぶったザキに笑って設定を進めていく。
「ショップ名は?」
「じゃあ…ウォーカー」
「別ゲーのギルド名じゃねぇか。…FoL内のギルド名で使わないのか?」
「確かに。んー、“地産地消“?」
「“産地直送“」
「良いじゃん。“SAN直直葬“っと。あ、ワードBAN食らった」
「は?…正気度じゃねえか。そっちじゃねえよ」
疑問符を浮かべたザキに見えるようUIを弄ると正しくツッコミを入れられる。
「もうシンプルに“直営店“にしとくか」
「ん。フォローした」
「どうも?」
何の効果があるかは知らないがとりあえず礼を言って作った物をアイテムボックに片っ端から収納しショップに並べて商品名をつける。自動で値段が付いたので特に弄らずそのまま販売を開始した。
「値上げしないと儲け出ねぇんじゃないのか?」
「肉1つでどれだけの料理が作れると思う?」
「質問を質問で返すな」
「んはは。普通にひとつひとつの量が多いから全部売れるなら元は十分取れる」
「ならいいが」
せっせと陳列しながら話しているとオーブンが止まったので取り出し綺麗に焼けたガトーショコラを調理魔法で常温まで冷ましてから粉砂糖をかけてショップで買ったケーキ箱に入れる。これは住人たちとの会議での手土産だ。
窯の中をみると綺麗に焼けていたので丸パン2つ以外はショップに出しておく。手元に残した2つはこれまた残しておいたホワイトシチューと共にテーブルへ置いて1セットは向かいに渡して席に着いた。
「ふう…作った、作った」
「終わりか?」
「ん。携帯食料生活にも目処がついたな」
「大多数は屋台生活だが」
「へぇ…。やっぱりレストランとかは行かない?」
焼きたてのパンと時間を飛ばしてしっかりと煮込んだシチューを味わいながら話をふる。
「行かないな。そもそも大通りに面する店しか見てないからどんなところかも知らないが」
「あーね。食事に興味がないとそうだろな」
「お前も言ってないだろ?」
「まぁ、私は自分で作ろうと思ってたし」
「それで、明日はなんで俺だけなんだ?」
「ああ、住人会議に呼ばれてな。急に呼んでも来る奴はいると思うが」
「アリスとハカセはお前が言えば来るだろ」
「ふ。あんたもな」
当然、と頷いたのに笑って続ける。
「会議に呼んでも問題を起こさないが第一、時点で情報収集ちゃんとしてる奴。最後に一応スレッドの書き込むことに抵抗感がない奴」
「ああ、確かに。それに当てはまるのは俺かハカセくらいだな」
「だろ。でもハカセは明日仕事だって言ってたからザキしか来れないし。てことで明日よろしく」
縦に首を振ったザキが会議概要を尋ねる。
「ああ。それで、結局何の会議だ?」
「住民と異邦人の認識のすり合わせだな。異邦人が街の部外者であり続けるのは支障がある」
「税金徴収でも始めるのか?」
「まさか。もっと街使おうねってくらいだろ」
「了解。俺はそれの周知か?」
「んー、スレに流す程度でいい。元々興味ある人間は街探索してるだろうしスレなら情報収集目的で見てる人多いから勝手に話回るだろ」
頷いたザキが立ち上がる。
「それもそうだな。じゃあ、今日はこれくらいで」
「ああ、土産だ。好きに扱え」
パンとコーヒーを手渡してワープゲートを潜るとルームキーが勝手に消え受付嬢が笑顔で会釈をするのに返して施設を出る。
肩をぐるりと回して適当な討伐に行くというザキを見送りいつものようにログアウトした。




