異邦人と住人
現実の用事を終え再びログインする。
アイテムボックスを整理しているとボスドロップの装備があることに気付いた。
[海鳴りのブレスレット]
装飾スロット:1
トゥールの海辺に棲息する牛鬼のレアドロップ品。金青色の指輪。装備者の技巧力を底上げする効果を持つ。
装備するとステータスの器用さに+10の値が増えた。腕を適当に動かしても違和感を感じないので装着者の体格に合わせて勝手に大きさが変わるようだ。装飾スロットは20 まであり1つも埋まっていないので一応着けておく。またそのうち装備も整えなければと思うが今日のところはとりあえず、サブジョブを触るつもりだ。
一先ずギルドに寄ってトゥールの草原とチニスタの森で討伐したモンスターの報告をし報酬を受け取ってから東の大通りにある食料市場へ到着した。
威勢のいい呼び声や客同士の話し声に耳を伏せ流し見していく。見慣れない色や見た目の食べ物でもアイテム説明を見ると現実世界のものに沿った説明があるのでそう迷うことはなく途中途中で果物や野菜、肉類や調味料などを買いながら市場を進むと屋台が消え店舗の並ぶところまできた。
外に見せるよう並べられた陶器や小物に目を惹かれる。マップアイコンを見る限り雑貨屋のようだがヒルガのところより生活に寄っているように見える。所持金はギリギリだが少し覗いて行こうと思い扉を潜った。
「いらっしゃい」
店奥に座る女性がカウンターから挨拶をするのに会釈してぐるりと店内を見回す。木製の棚が壁沿いにぐるりと並び雑貨が細々と並べられている。陶器や書物、調味料が多いようだ。戸棚に並ぶ食器を眺めていると高齢ではありそうだがしゃんとした女性が話しかけてきた。
「異邦人が来るのは珍しいねぇ」
「そうなんですか?」
「異邦人はこの街で暮らしていないだろう?だからウチみたいな所にゃ用は無いんだろうさ」
ふぅと息を吐いて冷たく言うのに首を傾げる。暮らしはおそらく住居や食事の話だろう。事実、異邦人たる我々は野外や町中でのログアウトが主であり宿を取ってログアウトするプレイヤーはごく少数だ。もちろん、宿泊のメリットはあるがそれも数百分程度のバフだ。その為だけに毎回宿を取り金を払うプレイヤーはどれほどか。食事も然り。ギルドで依頼を受注報告したりするついでに同施設内で携帯食料を購入するのが一般的だ。態々毎食レストランなどに行く異邦人など居ないに等しいだろう。精々屋台のものを買うかエリアボス討伐祝いに酒場へ行くか、物見雄山に食事処へ行くか程度だ。
もしかすると住人の寄り合いのようなものがあるのかもしれない。しかし、そこの不参加で余所者扱いとはなかなかに手厳しい。サービス開始から数日程度の現在、プレイヤーに交流の余裕がないのだ。
「んー、まあ今はそうでしょうねぇ…」
「後々には違うって?」
…これは後から言ってももう遅いという意味だろうか。それとも深い意味はないのか。一応当たり障りのないよう弁解しておく。
「異邦人からすればまだ此方に来て数日です。物資も金銭も時間も何もかも余裕がないので地盤が整うまでは今のような状態でしょう」
「数日!?もう一ヶ月は経つだろう?」
「え?ああ、異邦人の世界とこちらの世界では時間の流れが違うのは…ご存知なかったのですね」
時間の相対理論だとかウラシマ効果だとかややこしいことは置いておいて、このFoLでの4日が現実の1日だ。6時間を24時間に引き伸ばしているのはこういったMMO系のゲームではよくある仕様なのだが愕然とした顔を見て言葉尻を変えると顳顬を抑えながら頷いた。
「どおりで異邦人とアタシ達の感覚がズレてるわけだ…」
「…異邦人のことはどれくらいご存知で?」
「それなりに、と言いたい所だったが知っているつもりだっただけのようだね…。魂だけの状態で此方の世界と異邦人の世界を渡ることができる。それにより肉体の蘇生が容易。成長が早い。彼方の世界で暮らしている、くらいか。これくらいでもとんでもないから全て知った気になってたよ」
此方としても住人と認識の相違が起きてるとは思いもよらず頭を抱えたくなる。もし住人と明日約束でもしていたら、とんでもないことになる。また明日と言い翌日住人の元へ行くと既に3日経っている。なんの連絡もなく約束を踏み倒し、数日後、普通にやってくるのだ。商談や会議などの予定でした、と言うなら事の次第も大きくなる。場所を押さえることも人を揃えることも全てやり直しとなるのだから。此方は言ってしまえば“ゲーム“だが住人は文字どおり住んでいる。生活がかかっているのだ。もちろんプレイヤーには知る由もないのだから…という言い分は理解できるが怒られるのも仕方ない。なんなら既に若干やらかし気味だ。後回しにしていたアマリーの配達タスクの優先順位を脳内で引き上げる。運営から明言されている以上、住人はNPCではなく住人だ。一人一人に背景があり思考し、感情がある。
「…一度、貴女方が何を知っていて何を知らないかまとめたいですね」
「アタシもそう思うよ。アンタ、…名前を聞いてなかったね。名前は?」
「ああ、名乗らず失礼しました。ラビィ族のナーリアです」
「アタシはペティ。ここの店主と東区のまとめ役をしている者さ」
パタリと片耳を倒し名を告げるとカウンター越しに握手を求められたので迷わず握る。老女にしては力が強く温かい手だ。まだまだ現役だという事だろう。
「方位ごとに代表がいるかたちですか?」
「大きく分ければそうだね。東区の中は複数人の代表がいて持ち回りで務めているから“今は“という言い方にゃなるが」
区分けをした呼び方を初めて聞いたので尋ねると頷きが返ってきた。
「ナーリア、アンタさえよけりゃその集まりに出てはくれないかい?」
「んん、私は問題ありませんが…、完全な知識を持っているとは言い難いのでもう一人連れて来てもいいですか?」
「勿論だとも。此方の日付けで4日後の12時に冒険者ギルドに集合だよ」
現実で言うと明日の9時だ。思考入力のチャットでザキに予定を送りつける。
「分かりました。因みに何人くらいの集まりかお伺いしても?」
「北南西東の1人ずつと商業と冒険者の代表1人ずつだから計6人だね」
指折り数えるペティに了承と礼を告げて最初に見ていた食器のセットを購入して退店した。
店を出るとザキからチャットが返ってきている。
[ザキ]
「問題ない。詳しく聞きたいんだが今どこだ?」
「東の食料市。生産施設の前に集合」
ギルドの向かい側にある施設をマップピンで指しチャットにも送信して大通りから逸れた。
あけましておめでとうございます。今年ものんびり更新で頑張って参りますのでお付き合いください。




