ギルドへ
魔法のみの戦闘をする後衛組のMPも尽きかけていた為戦闘を避けさっさと街に帰還した。レイドパーティの共有アイテムボックスの機能から『素材をランダム配布』を選択してパーティを解散する。
「アイテム確認よろ」
「ん、ちゃんと配られてるぞ」
「今日はもう解散か?」
「そうだな」
「まぁこれから幾らでも時間はあるしね」
「お疲れ〜」
「じゃあね」
現地解散し各々が宿や街の中心へ去って行くのを見つつ歩き始める。
ユグドラシルの主要施設は四方位の噴水広場のすぐ側にあり、ギルドはその西広場に建っているらしい。
マップを開きギルドにピンを刺すと、視界端にあるミニマップにも共有されどの方向か分かるようになった。大通りは人が多く落ち着かない為、裏路地に入り方向だけ確認しつつ適当に歩いて行くとギルドの裏側へ着いた。
「あれ…まぁいいか」
建物に沿って表へと行き開け放れた大きな木製の扉を潜る。石畳の床に高い天井、大まかな造りは温かみのある木で構成されている。入り口あたりは木製の1人掛けや2人掛けから4、5人掛けのテーブルと椅子が設置され何人かが座り話している。右側の壁には大きな掲示板があり反対に左側は2階へと続く石畳の階段がある。
ギルドに到着した途端ポップが出現し簡単なミッションが始まった。
[冒険者ギルドへようこそ!ここでは住人たちからの依頼を受けたり素材の売却をすることが出来ます。まずはカウンターへ行き冒険者登録をしましょう!]
ポップを閉じると左端に3つ並んだカウンターへ緑の光の粒が伸びて行く。案内に従ってカウンターの前に立つと透き通った丸いアイテムが置いてありぼんやりと光っている。
少し離れたところにある5つ隣接しているカウンターが賑わっており自身の立つ場所には誰も居ないのでカウンター前の椅子に腰掛け冒険の書を読みながら待っていると奥からバタバタと若い男性が飛び出てきた。
「エッ!?…あっ、お待たせしました!ご依頼でしょうか?」
「いえ、冒険者登録を」
「と、登録!?」
「はい」
ギョッとした様子の男性に小首を傾げていると奥からもう1人男性が出てきた。左目にモノクルを掛け伸びた髪を乱雑に結び他のギルド職員とは違う服を着ているところから何だか胡散臭いような印象を受ける。が、先に出てきた男性よりも年上のようでモズさん…!と小さく声が聞こえたことから正式なギルド職員ではあるのだろう。
「あー、ここのギルドは新規登録以外受け付けていません。再発行は役場に行くようお願いします」
「?、はい。新規登録をお願いしたいのですが」
「…失礼ですが、こちらの水晶へ手を置いて頂けますか」
こちら、と言いながらぼんやり光る水晶を指すのに従って右手を置く。途端、カウンターの上にウィンドウが出現し自身のステータスが表示された。
「異邦人!?」
モズと呼ばれた男性が驚きの声をあげた若い男性の頭をスパンと叩き丁寧に頭を下げる。
「大変失礼致しました」
「ん?いえ。気にしてません。…この水晶がステータスを表示させているんですか?」
若い男性が素早く謝罪し席を立つとそこにモズが座り若い男性は奥へと下がった。
「はい。通常、街の門番のところに設置されているマジックアイテムです」
「マジックアイテム?」
「魔物を倒すことで得られる魔石を使って職人が作るアイテムのことです」
「へぇ、なるほど」
「各街へ初めて入る場合、犯罪歴や指名手配なども調べることが出来るため必ず触れる必要があります」
「…ん?犯罪を疑われたということですか?」
「いえ、…あー、獣人は旅をする種族のため、ギルドカードを持っていないことは殆ど有り得ません。このマジックアイテムは種族の偽装を看破するため…」
「ああ、見た目の偽装を疑ったというワケですね。…獣人に化けるメリットって何かあるんですか?」
気まずそうに言葉を紡ぐのを引き取って続け相手が頷くのを見つつ質問をする。
「メリットと言うにはおかしいですが、獣人が別種に化けることや人間が獣人のフリをして新たにギルドカードを作ろうとした事例は過去にあります」
「ギルドカードを複数持つのは犯罪なんですか?」
「勿論です。ギルドカードは身分証の他に口座や倉庫、委託といった個人資産の管理の役割も担うため1人ひとつと決まっています」
カウンター後ろの引き出しを開け資料を出し卓上に並べながらモズが説明をする。
「此方の不手際で時間を取ってしまい申し訳ございません。改めて、ギルドカードの新規発行をさせていただきます」
「ああ、はい。先程も言いましたが気にしてませんし、お気になさらず。よろしくお願いします」
「ありがとうございます。異邦人の獣人。冒険者希望で宜しかったでしょうか?」
モズが軽く頭を下げたあと手元の水晶からパネルを出し操作していく。
「はい、ナーリアと言います。見ての通りのラビィ族です」
頭上の片耳をぱたりと倒し微笑みながら名乗るとパネルから顔を上げたモズも姿勢を正した。
「ご丁寧にありがとうございます。遅くなりましたが、私はモズと申します。普段は鑑定士としての仕事をしております」
5つ並んだカウンターの方を指差しながら鑑定士を名乗ったモズが軽く頭を下げ礼をした。
「ギルドについての説明はご入用でしょうか?」
「ん、お願いします」
「はい。まず今居るこのカウンターはギルドカードの新規発行や依頼の打診、ギルドメンバーや近隣モンスターの報告といった雑多な相談窓口です。次に右手側、5つのカウンターは冒険者依頼の受諾、報告。アイテム鑑定依頼といった、冒険者用窓口です。2階は商品やアイテム販売の商人用窓口やどなたでも利用可能な資料室、ちょっとしたアイテムの販売所が揃っています。冒険の書や初級ポーション、レーションなどは一通り販売されていますよ」
ひとつずつ丁寧に指差しながら説明するモズに相槌を返し頷く。
「冒険者にはランクがあり、最低ランクがE、最高ランクはSとなっています。ナーリアさんは成りたての為Eランクにあたりますね。ランクは依頼の達成や討伐したモンスター数などによって上昇します」
「ランクが上がると何かありますか?」
「そうですね…、基本的にランクが高いほど依頼料が高くなります。後はS級、A級は所謂有名人にあたるので指名依頼が来たりします」
「指名?どこからですか?」
「商人だったり貴族だったりギルドだったりと様々ですね。勿論、受けるかどうかは当人の意思で決められますが」
「なるほど。ランクは目指す指標などはありますか?」
「一般的な冒険者は大体がBランクです。S級は世界的に見てもごく稀ですしA級でも少数です。あと、A級以上に上がるにはパーティ登録が必要となりますのでソロだと実質的な上限はB級になります」
「パーティ登録?」
「はい。A級になるとギルドからの依頼にパーティによる調査というものがあります。危険度が未知数であったり高いものであったりといった依頼であり、このパーティなら生きて帰ってこれるという信頼の下発行される依頼です。ギルドが把握しているパーティにしか頼まないのでA級以上となっていますが…まぁそういったパーティ単位の依頼を受けるためにもC級あたりからパーティを組むのが一般的です」
なるほど、と頷いたがよく遊ぶメンバーが大人数のためパーティ登録をすることはないだろう。
「他に何か質問はございますか?」
「んー、いえ。大丈夫です」
「かしこまりました。今回は面倒をお掛けしてしまい大変申し訳ございませんでした。お詫びと言っては何ですが、私のパトカをお渡しします。西門近くに店舗がございますのでギルドの鑑定所が混み合っているときなどはご利用下さい」
そういってモズが白いカードを渡してきたので自身も同じものを返した。
「ご丁寧にありがとうございます。また寄らせていただきますね」
パトカを受け取ったのを見てから笑顔で挨拶をしてから席を立つ。ぺこりと一礼するモズに会釈を返しギルドの入り口付近のテーブル席を見回す。運良く空いていた1人掛け席に座ってアイテムボックスからレーションを取り出して齧った。ハーブ系の味がするがあまり美味しいとは言えない。とはいえ、初心者ボーナスとして軽減されていても尚、戦闘や街の散策なども併せてそこそこ動き回ったためEPが底をつきそうだったので文句は言わず黙々と食べ進めた。
片手間にメニューを開きギルドに入ってすぐに現れたミッションの報酬を受け取る。初級ポーション2つ。初心者にはありがたいことだ。ついでにヘルプのサブジョブ一覧を開いてなろうと決めていたジョブがあるのを確認し、そのままサブジョブの申請をする。ギルド内でしかジョブに就くことが出来ないらしいのでさっさと終わらせておこうという魂胆だ。
[tips!サブジョブが申請されました!…承認完了。これより、ステータス一覧にてサブジョブが表示されます!]
tipsを見てステータスを開くと名前の下にサブジョブの枠が追加されており"料理人"の文字が刻まれている。
サブジョブは趣味としての選択のためあまり重要視していないので確認だけ終えてそのままウィンドウを全て閉じた。
さて、今日やると決めていたことは全て済んだしそろそろ終わるとするか。ギルドを出てまた裏路地を適当に進み人気のない場所でウィンドウからログアウトを押した。
おやすみ世界。
とんでもミスに気付いたので1話目にサイレント修正を入れています。大変申し訳ございません。