チニスタの森
仁王立ちで威嚇してきたまま右手で大振りの薙ぎ払いを仕掛けてきたクマを避けつつ鑑定スキルを使う。
[ベアーズント Lv.5]
「レベ5だって」
「見たら分かる!」
「頭が弱点だぞ〜」
サポートに回るレベル5組と魔法メインの後衛が急いで下がるのを横目にザキが剣で切り掛かるのに合わせてナイフをベアーズントに振り切る。
「あれ?レベ1の前衛私とザキだけじゃん」
「がんばえ〜!」
「チャズ!」
気の抜けたウィルの応援と共にアリスから魔法が飛んでくる。ベアーズントに着弾した途端、二本の足で立ち上がり雄叫びをあげブンブンと太い腕を見境なく振り回し始めた。
「何事!?」
「ウェド!」
「シージ!!」
鈍い金属音をたてて弾かれたザキのカバーをするようにハカセとホルスが魔法を当てる。
「アリスなにした?」
「闇魔法使った。盲目!」
左手で火魔法を選択し展開しつつ巻き込まれないよう距離を取った。
「バーン!」
「クィード」
同じ事をしていたザキと同時に魔法が着弾する。ぐらりと巨体が傾くも再び4本足で地面を踏み締め此方を睨み付ける。
「ザキ!囮するからカバーと削り頼む!」
「おうよ!」
鋭い歯を見せ噛みつき、両腕でクロス攻撃、片手薙ぎ払い。距離を取りすぎると突進が来る為至近距離で立ち回り全て避けながら保険として火魔法を選択しておく。
「DEXたかぁい!」
「なんで避けれるの??」
「あんま、余裕ねぇけど、なっ!」
STRは確実に負けるだろうと予想できる為ナイフは受け流しのみで下手に手を出さず囮を全うする。
「シージ!」
「リィル」
「ウェド」
ホルス、アリス、ハカセの魔法が連続して頭に直撃しついにベアーズントが沈んだ。
「…やったか!?」
「それやれてないやつね」
「レベル上がったー!」
喜びをあらわにするホルス達にサポートという名の傍観をしていたレベル5組が近寄ってくる。
「おつ〜」
「回避盾やばくない?」
「魔法はウィンドウ触らなくても思考入力出来るぞ」
「レベル幾つになったー?」
「3!」
「お、2レベ飛ばしたか。さすが格上だなぁ」
「…レラッセ。ほんとだ思考入力便利だね」
「光レベ4?回復覚えたんだな。早え〜」
「途中から光魔法しか使ってなかったからね」
アリスの手からふわりと蛍のような光が舞いHPが回復していくのを見つつ左手に展開したままの火魔法を保持しながら解体ナイフを反対の手に取り出して倒れたベアーズントに突き刺すとホログラムを撒き散らして消えレイドパーティの共有ボックスにアイテムが収納された。
「その魔法どうするの?」
「もう展開しちまったらキャンセル出来ねぇから何処かに当てるしかねぇぞ」
解体ナイフを共有ボックスに戻しているとアリスが火魔法を指差して言ってきたのにディミーがポチポチとウィンドウを弄りながら返す横で10センチほどのカメラを持った人型の生き物が浮いている。
「ディミー、何連れてるんだ?」
「撮影フェアリー」
「なんだそれ」
はて、と首を傾けたザキを横目にステータス欄を確認するとレベルが3になっており火魔法も2へと上がり新たな魔法を覚えていた。
「街に連れてる奴居ただろ?写真とか動画とか撮ってるぞ〜って分かりやすくする要素だよ」
「ふぅん、今撮ってんの?」
「生放送してる」
「先に言え」
「んグッ!…悪い悪い。戦闘がいきなりだったもんでな」
ゴスッと鞘に納めた剣でザキにド突かれた脇腹を抑えながら笑うのに小さくため息を吐いて火魔法をロウの後ろの森へ投げる。
「じゃ、連戦だぞ」
「ベアーッ!!」
驚いて大声を出すホルスに負けない声量でベアーズントも威嚇する。その数3体。大剣を振り抜き初撃を受けに行ったロウと火魔法を当てヘイトをかったナーリアが左右に分かれベアーズントを分散させた。
「ベアーズントのズは複数形のズ!?」
「馬鹿言ってないで下がれ下がれ!」
「一体貰う。サポート無しで前後衛のみ分かれて」
「真ん中は盲目掛けてるからナーリアとロウの方優先して!」
ズゥン…と重い音を立てて3体目のベアーズントが沈み戦闘が終了した。
「解体完了っと」
「さんきゅ〜」
サクッと解体ナイフを突き刺したヘレンがナイフを片付ける横でアリスが魔法による回復を掛けて回る。
「6レベ〜」
「俺たちは8だな」
各々ウィンドウを開いて確認を終え武器もしまう。
「10レベルまではサクサクなんだっけ?」
「そうそう。魔法も5レベまでは簡単に上がる。そこから上級に派生したりしてって感じだな」
「なるほどな」
解体され共有ボックスに入ったアイテムを見ているとホルスがナーリアに話しかけてきた。
「…今迄の一緒にやってきたゲームのおかげで無理繰り連携してたけどさぁ」
「誰が何の魔法使うか分かってないのは大変だったな!」
ディミーが言葉を引き継ぎ快活に笑う。
「ああ…確かにな。一旦整理しとくか」
「はいはい!あとナーリアが索敵速いのもなんで?」
頷き同意すると片手を上げたウィルが疑問を飛ばしてきた。
「私からするとなんで気付かなかったのかって感じなんだが…」
「直感のスキルレベルか?」
「持ってない」
「ねぇの!?尚更なんで気付いた?」
「聞こえたから…ラヴィ族の特性かこれ?」
頭上の長耳を指して話しながらふと閃いた。
「ありそ〜」
「種族選んだとき何か言われなかったか?」
「あー、素早いのと感知能力高い、みたいな」
「それだろ」
解決、と頷いたハカセに笑って歩き始めると皆同じように歩きながら話し始めた。
「じゃあ魔法紹介、ロウ!」
「なんでだよ。一回も使ってなかっただろ」
「今回も魔法無し縛り?」
他のゲームでも前衛武器縛りなどをよくするロウが頷き話を流す。
「アリスはヒーラーだけじゃなかったよな?」
「うん、光魔法と闇魔法。ハカセも光使ってたよね」
「ああ。俺は光と水だな」
「水魔法使ってる奴多くなかったか?」
「あと風もね!」
「私はその水と風ですね」
「ミハイルがその2つなのちょっと意外だったな。ヒーラーやらねぇの?」
「迷いましたがアリスがやるのは分かってたので」
「それはそう。あと風使ってたの誰だっけ?」
「ザキとディミーとホルスだろ?」
「せいかーい」
「風のみだけどな」
「ホルスは土も?」
「そうそう。デバフになるかなって思って」
「あとは…ナーリアとヘレンって火魔法だけ?」
「そうだよ」
「風と迷ったけどねぇ」
役割共有も兼ねた雑談をしながら森を散策しているとパッと開けたところに出た。
「ん?広いな」
「何だここ」
辺りを見渡しつつ中央まで進むと金縛りに遭ったかのように身体が動かなくなり正面の森から鶏の体、蛇の尾を持ったモンスターが飛び出してきた。2つの頭が此方を睨みつけ威嚇の咆哮をあげたところで身体の制御が返ってきて戦闘が始まる。
「コカトリス!?」
「おいおいこれボスじゃねぇか!!」
「誰だよ採取メインって言ってたヤツ!」
好き勝手喋りつつ方々に散って簡単な陣形を整えて前衛が切り掛かりその後ろから魔法が飛んでくる。
「後衛も動き回れよ!」
「きっちぃ〜!」
正面の鶏の部分をロウが受け反対の蛇の部分をザキが捌く合間を縫って魔法とナイフを駆使しつつ後衛にヘイトがいかないようコカトリスの視線を遮り調節して回る。
「ぐあッ?!」
「毒蛇!!」
「ザキ大丈夫か!?」
ジュウッ!と焼ける音ともに悲鳴があがりアリスが即座に回復魔法を飛ばしディミーが剣でカバーに入る。
「シャレージ族は毒無効だがシンプルに目潰しとして厄介!」
「オッケー!ザキとディミーは蛇担当な!」
「無情!」
「蛇めちゃくちゃ硬いんですけど!?」
「魔法は鶏側集中!アリスはHP管理して!」
「おっけーい!」
「はいよ」
「分かってる。コカトリスHP6割切ったよ!」
ダカダカと暴れながら毒を撒き散らし始めたコカトリスから距離を取り体勢を整える。
「スッゲェ困る挙動!」
「…尻尾落とすぞ」
「出来んの?」
「やるんだよ!」
「ああ、はい根性ね!嫌いじゃないよ!」
毒を避け鶏と蛇の繋がる真ん中へ攻撃を集中させる。火魔法が特攻のようでナーリアとヘレンの攻撃が当たると目に見えてHPが減っていく。
「苦しそう!いける!」
「HP残り2割!」
「ロウ!チェンジ、叩き切れ!」
「任せろ。獣の本能!」
鶏の正面に立ち火魔法で牽制しつつナイフで挑発しロウと位置を交代した。ザキとディミーが毒を浴びつつ無理矢理蛇の頭を抑えつけ、獣人スキルを発動させたロウが叩きつけるように大剣を振り下ろし切断に成功する。コカトリスは戦慄き一際大きな声をあげたあとゆっくり地面に倒れ伏した。
「…は、やった?」
「た、倒したー!!!」
ワー!と歓声をあげその場に倒れるように寝転がって喜ぶ横にナーリアも座り込みアリスとハカセが順番に回復魔法を飛ばしていくのを横目にロウが解体ナイフをコカトリスに突き刺しアイテム化されたのを眺める。
「きつかったな…」
「あれ蛇切断が正式攻略か?」
「だろうな。今回は偶々切断のタイミングで倒せただけだろ」
「これが数の暴力ってワケ」
「本当にそう」
興奮のまま話しているとポーンと木琴のような音が聞こえワールドアナウンスが流れた。
[チニスタの森のボス、コカトリスが討伐されました。これにより以降、コカトリスが弱体化されます。]
「お、アナウンス来た」
「はー、もう無理。自分でポーション使って」
「初心者ボーナスのやつか。皆使ってないんだな」
「回復魔法使ってよ、役目でしょ」
「もうMPないの」
「んじゃ乾杯して放送も切るか」
「丁度良いじゃん」
「リーダー、音頭!」
「はいはい。んじゃみんなポーション持ったか?…よし。コカトリス討伐おつかれ、乾杯!」
「かんぱーい!」
「チアーズ!」
「イェーイ!!」
「チンチーン!」
「相変わらず揃える気ないなぁ」
「あははは!じゃあな観客の皆!」
がちゃん!とポーション瓶を合わせてから一気に呷る。薄い青リンゴ味を飲み干して瓶を片付け立ち上がった。
「うーん、あんまり美味しくない!」
「味薄いね」
「ハカセ改良まだー?」
「未だ。ポーションの前に蒸留水作らないといけないから」
「サブジョブ?ギルドで選べるんだっけ」
メインジョブが定まっていない代わりにサブで様々な要素をスキルとして持てるシステムがサブジョブであり未だ決めていないことを思い出して口を開く。
「えっ、ギルド行ってないのか?」
「行ってない。そのうち行くし後に回した」
「じゃあ死ぬ前に一旦帰ろうぜ。金も手に入ったんだし」
座り込んでいた輪から少し離れた日向に咲く花を摘みながら頷く。
「そうだな。目的も達成したし帰るか」