キャラクタークリエイト
今日は早めに日常を切り上げ旧友たちに誘われ購入したFDVRゲーム機を初めて起動する。事前にある程度の情報収集とアカウント登録は終えており後はゲーム機本体と数時間前に配信開始されたStarSky社の新作VRMMOゲーム、『Fantasy of LIFE』の設定のみとなっている。
ゲーム機をセットしごろりとベッドに寝転がり目を閉じると機械的な女性の音声が聞こえ意識が浮上する感覚を感じた。
〈デルタオンラインへようこそ。あなたのお名前とパスワードを入力してください。〉
音声が話した言葉が白い枠内にログとして綴られていく。パッと青色のウィンドウが現れた為タイピングしようと手を持ち上げると艶消しされたグレーの機械のような腕が視界に見えた。視線を下げ自身の身体を見下ろすと人型の機体が見える。
「ロボット、か?」
呟く声が辺りに反響したことにハッとして促されていた名前とパスワードをタイピングしていく。
〈 月島那火 様〉
音声が名前を読み上げるとウィンドウが消え[Loading…]と表記された白い文字が濃くなったり薄くなったりしている。FDVRの機械は五感や脳に働きかける仕組みのため成人のみ購入可能で制約書も必要でありそのあたりを確認しているのだろう。3秒程文字を眺めていると[completion!]という文字に変わった。
[お名前とパスワードが一致しました。個人情報が表示されます。]
青い枠が現れてその中に白文字で言葉通り自身の情報が書かれている。ざっと確認しつつ一番下まで見ると[確認完了]のボタンがあったのでカチッと押すとウィンドウが消えた。
[情報確認完了。アカウント連携…完了。身体データ読み込み中…完了。アバターを表示します。]
事前に繋げておいたアカウントも無事読み込まれていた為サクサクと話が進む。パッと白い枠の大きな鏡が現れロボットの機体を映す。鏡の横にある[アバターを展開]のボタンを押すと鏡に映っていたロボットが消え代わりに自分が現れた。
「おお、そのまんま…」
白いTシャツにショートパンツを履いて裸足で立つ自分の顔をまじまじと見るが違和感などは見当たらない。事前にデジタル化検査をしてアカウントにロードさせておいた甲斐もあり口元や首のほくろから髪の長さ、瞳の色まで完全に再現されている。
ウィンドウを閉じアバター設定を終了すると突風と共に黒い空間が鮮やかな大空と何処までも続く草原に変わった。
「すっご…」
後ろを振り向くと大きな幌鰤が屋根代わりを果たしているキャンプ地となっておりその中央には焚火がある。そしてそれを囲むようにラグマットが敷かれ幾つかの椅子やクッションが置いてあった。暫く素足を撫でる柔らかな草を感じながら木の芽時の晴れ日のような優しい風と雄大な空を眺めていたが焚火の上に薄青い半透明の縦長な菱形が浮かんでいるのに気付き近づくことに決める。クリスタルのように柔らかな乱反射を見せるそれに触れると正面に左上にHOME、右上には今日の日付と現時刻の書かれた黒いウィンドウが現れた。
[改めまして、デルタオンラインへようこそ。ここはカスタムプラットホームです。お好きなゲームアプリを選びその世界へ飛び込むことはもちろん、ゲーム内の動画や写真を確認したり動画アプリやブラウザアプリを開き自由な時間を過ごすことも出来ます。]
スラスラと話す音声を聞きながら黒いウィンドウ内にあった設定アプリを開きプラットホームの欄を眺める。現在は[草原]というホームが選択されており時間帯に合わせて移り変わる空を楽しめるようだ。他にも[海][森][砂漠][空]「街][田舎][宇宙]など様々なプラットホームがありキャンプ地のカスタムや移動など自分の好みに合わせて弄れるようになっている。
[現在読み込まれているゲームアプリはStarSky社提供 『Fantasy of Life』です。展開しますか?]
遂に本体設定と説明が終わったようでゲームを提示してきた為設定アプリを閉じ、ゲームのアプリアイコンに触れると周囲が暗くなっていく。
[了解致しました。『Fantasy of Life』を展開します。]
音声と共にアプリアイコンが広がり空間を形成した。RPGチックなBGMが流れ始め石畳みの中世期のような街並みの中心に大木がありその前に白い光の球が浮いている。街並みを探索しようと道を覗き込んだが身体が動かず正面の光が弾けた。光の粒がドット文字とチャット枠を形成する。
[StarSky 『Fantasy of LIFE』へようこそ!早速ですがあなたのステータスを作成しましょう。ウィンドウはあなたの声や視線で操ることが出来ます。]
ぶわりとウィンドウが増え種族や身長、魔力値などの文字や数字が並ぶ。
「とりあえず、種族一覧を表示」
パッと種族ウィンドウが目の前に現れ展開された。公式情報とβ版情報により種族は大まかにだが進化とステータス影響が分かっている為何を選ぶか決めていた。
「種族はラビィ族を選択」
[ラビィ族を選択しました。ラビィ族は獣人族の一種であり獣人族の中でも特に速さと感知能力に優れています。]
「決定」
[種族を決定しました。」
種族ウィンドウを閉じるとウィンドウの後ろにあった人型の黒いマネキンから人の耳が消え代わりにふわふわとしたうさぎの耳が頭上に付いていた。視線で回転を選ぶとマネキン背面には尾骶骨辺りにまあるい柔らかそうな尻尾も付いており兎の要素が現れている。
「ステータスを表示」
右上にあったステータス欄が正面に表示されずらりと字が並ぶ。
[ボーナスポイントをお好きなステータスに振ってください。尚、ボーナスポイントをゲーム内へ持ち越すことは出来ません。]
ステータス
HP 5
MP 5
STR 5
DEX 15
ボーナスポイント:10
「確かステータスの初期数値は全部5のはずだから…DEXは種族ボーナスか。うーん…MPに5ポイント、DEXに5ポイント振り分ける」
[ボーナスポイントを振り分けました。]
「ウィンドウを閉じる」
レベルアップでボーナスポイントは貰えると知っているのでHPは当たらなければ良いしSTRが低くとも素早ければ手数で戦えるだろうという判断で深く考えずに決定した。
「スキルを表示」
[所持スキルを表示します。初期スキルを3つまで右の一覧内からお選び頂けます。尚、選ばれなかったスキルもゲーム内にて習得可能です。]
スキル
獣の本能
脱兎の心得
ボーナスポイント:15
「持ってるのは…獣人共通スキルとラビィ族特有のスキルか。えっと、鑑定と火魔法と光魔法を習得」
β版のプレイヤー情報から鑑定はゲーム内で覚えるのが手間だと知っている為鑑定は確実に初期スキルで選ぶことが推奨されていた。火魔法は火力用に。光魔法はスキルが育つと回復魔法を覚えられるらしいので。ボーナスポイントは種族系スキルと心得系スキルには振れないので初期スキルにそれぞれ5ポイントずつ振るとポイント数がレベルに直結していたようで初期スキルのレベルが5になった。
「あとはキャラクリ、と」
最後に残ったウィンドウを展開しマネキンアバターの横に視線で動かす。
「初期アバターを表示」
マネキンが本体設定時に作ったアバターに切り替わる。
「髪色は…リアルのままでいいか。青目もこのままで。兎耳を髪色に合わせて、尻尾も同じように」
マネキンに合わせて黒くなっていた耳と尻尾がノイズのような光と共に白銀へ変更されていく。
「髪型は人間の耳があったとこを隠せるやつのが違和感ないかな。ポニテは…ダメか。耳の位置が出る。でも下ろすと鬱陶しいし、三つ編み…お、隠れそう。これでいくか」
アバターを回転させ背面を確認すると顎の高さ辺りから大きめの三つ編みが腰まで一本できており横から確認しても結い始めがふんわりとした編み込みで纏められているため横髪と合わせて人耳の部分が完全に隠れている。
「ン…?メイクしてる?」
サブメニューからメイクアップを選ぶとチークやシャドウ、リップがプリセットで選ばれていた為ノーマルに変更する。ゲーム内でメイクや刺青なども出来ると書かれていたので後々の楽しみにしようと思っていたからだ。
「初期武器はナイフ」
腹出しタンクトップとホットパンツのインナーを着たアバターがナイフとベルトポーチを腰に付けた。
「服は…シンプルなシャツで」
半袖の麻のシャツのようなものを選択しズボンはスキニータイプを選びズボンの色を黒にする。
「手袋って要るか?……要らない時は外せばいいか。付けとこ」
上腕まである革の長手袋を選び靴は編み上げタイプのブーツを選択する。
「防具は…STRが必要な物もあると。…マァいっか。不便ならレベル上げてポイント振ればいいし」
STRを問わない革製の小手のみを選び一度ぐるりと見回してからキャラクリエイトを終える。
「ふぅ…。よし、これで終わりで」
[了解致しました。ステータス一覧を表示します。」
並んでいたウィンドウが全て消え目の前に作成したステータスとアバターが現れた。
ステータス
HP 5
MP 10
STR 5
DEX 20
スキル
火魔法 Lv.5
光魔法 Lv.5
鑑定 Lv.5
獣の本能
脱兎の心得
「ン、大丈夫そう」
[デルタアカウントの登録/ログインを推奨します。]
「ログイン」
[ログイン画面を表示します。…完了。お疲れ様でした。最後にゲーム内ユーザーネームを入力して下さい。]
「ナーリア」
ネームはいつもオンラインゲームなどで使う名前を言う。
[ユーザーネームの重複…無し。…読み込み完了。以上でユーザーデータの作成を終了します。データを展開します。これより『Fantasy of Life』での新たな生活をお楽しみください!]
分かりにくい用語等があれば教えていただけると嬉しいです。