贈り物
一ヶ月に一度、奴隷にも休みが与えられる日がある。
もちろん、自由に出歩けるわけじゃない。
信頼された数人の従業員と一緒に、指定された街の範囲内で必要な買い物をするだけだ。
それでも、“外の空気”を吸えるというのは、奴隷にとってほんの少しの自由だった。
「おい、あれじゃないのか?)
従業員の一人が指差す先には、小さな雑貨屋があった。
ガラス窓の中には、可愛らしいアクセサリーや手作りの小物がずらりと並んでいる。
(……リオン、こういうの好きそうだな)
ふと思い浮かんだのは、いつも明るくて、ちょっとおせっかいで――
だけど、俺の一番近くにいてくれる少女の姿だった。
「すみません、ちょっとだけここに寄ってもいいですか」
「……まぁ、時間内ならいいけど、長居すんなよ?」
了承を得て、俺は雑貨屋のドアをそっと押し開けた。
ちりん、と可愛らしい音が鳴る。小さな空間に、柔らかな日差しが差し込んでいた。
棚には小さな髪留めや、色とりどりの布で作られたブローチ、そしてささやかな宝石のついた指輪まで――
高価なものではないが、どれも可愛く綺麗に見えた
(何がいいかな……あいつ、ピンクより青が好きだったっけ)
迷いに迷って、俺は一つの髪飾りに目を留めた。
小さな銀の花があしらわれている
どこかリオンの金色の髪に似合いそうだった
「これ、ください」
俺は少ない自由時間の中で、唯一の自由を使って、それを手に入れた。
***
「ノアールー! おかえりー!」
夕暮れ時、買い物から戻ると、リオンが元気よく走ってきた。
それだけで、今日一日分の疲れが吹き飛ぶ。
「どうだった? 外の空気は!」
「まあ、変わらずにぎやかだったよ。人が多くて疲れたけどな」
「ふふん、でも少し顔が明るいじゃん。何かいいことあったでしょ?」
「……まあ、ちょっとな。はい、これ」
「え?」
俺はポケットから、小さな包みを差し出す。
簡単に紙で包んだだけの、小さな贈り物。
「お前に、買ってきた。……その、いつも世話になってるし」
「えっ……プレゼント?」
リオンは目を丸くして、ゆっくりと包みを開けた。
中から出てきた髪飾りを見て、彼女の目がぱぁっと輝く。
「これ、すっごく可愛い! ほんとに、私に?」
「ああ。似合うと思って、選んだ」
「……っ、ありがとう! ノアール、大好き!」
いきなり抱きついてきたリオンに、思わずぐらりと体勢を崩しそうになる。
でも、その笑顔を見てると、何も言えなかった。
「さっそくつけてみるねっ」
リオンは嬉しそうに、髪を整えて髪飾りをつけた。
「どう? 似合ってる?」
「……ああ。びっくりするくらい」
本当に、よく似合っていた。
あの時思い浮かべた“リオンに似合いそうなもの”そのままだった。
「でもまさかノアールがプレゼントくれるなんて、びっくりだなぁ」
「……たまには、こういうのもアリだろ」
「うん! ぜったい大切にするからね!」
こんな日常が、ずっと続けばいいのに。
そう思ってしまう自分が、少しだけ怖かった。
――だって、俺たちには“来月”がある。
あの、奴隷オークションという現実が、迫っている。
でも今日くらいは、未来の不安なんて忘れて――
ただ、大切な人が笑っていてくれる今を、胸に焼きつけたかった。
「……ノアール?」
「ん?」
「これつけて、次のお休みに一緒に外に行こうよ」
「……ああ。絶対、行こうな」
だから俺は、その笑顔を守るために。
やるべきとを、、、