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下僕の予見  作者: nainai15
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分岐点(リオン視点)

あれから、半年が経った。


ノアールが12歳になった。つまり……今日は、成人の儀式の日。


(ほんとに早いなぁ……もうそんな時期なんだ)


朝、目を覚ますと、となりのベッドにはノアールの寝ぼけた顔。

やっぱり、相変わらず朝に弱い。……っていうか、むしろどんどん弱くなってる気がする。


私は“生活の加護”のおかげで、毎朝シャキッと目覚められる。だから、今朝もちょっと早起きして、ご飯を温めておいた。


「ノアール、ごはん温めたよ! 今日はちょっと温めすぎたかも……!」


焦げてたらどうしよう……って内心ハラハラしてたけど、彼はちょっと笑ってこう言った。


「焦げてても、あったかけりゃ神飯だよ」


……ほんと、そういうとこだけは上手いんだから。


ちょっとだけ背が伸びて、口調も少し大人びてきた気がする。

でも、本当は不安でいっぱいなんだよね。今日の儀式のことも、これからのことも。


……だから、私はちゃんと見ていたい。ノアールのこと。


作業場に向かう途中、いつも通り荷物を運んでるフリをしながら、そっと声をかける。


「ノアール、今日って……わかってるよね?」


「……ああ。“成人の儀式”だろ?」


ノアールの声は静かだった。でも、その目にはちゃんと覚悟が見えた。……少しだけ、安心した。


奴隷だって、12歳になれば“加護”を授かる。それがこの世界の決まり。


それで解放されるわけじゃない。けど、自分だけの“何か”が与えられることは、たとえ小さくても希望になる。


(じゃあ、行ってらっしゃい)


(うん、行ってくる)


短いやりとり。でも、心はちゃんと通じたと思う。


私は、彼の背中を見送った。


***


時間が、すごくゆっくりに感じた。

手元の作業なんて全然集中できないし、何度も外を気にしては、まだかなって思ってばかり。


そして――ようやく、ノアールが帰ってきた。


彼の姿を見た瞬間、私は思わず駆け寄っていた。


「ノアール! どうだった? 大丈夫だった?」


……声、ちょっと裏返っちゃった。恥ずかしい。


「落ち着けって。ちゃんと授かってきたよ」


ノアールのその一言に、胸の奥がふっと軽くなった。


「どんな加護だったの?」


「……魔法の加護と、予見の加護」


……え? 今、なんて?


「えっ……!? 二つももらったの!? すごいよ、それ!」


加護を“二つ”も持つなんて、聞いたことない。

それって、つまり――ノアールは特別ってことだ。


本人は照れくさそうにしてたけど、私はちゃんと見てたよ。その瞳の奥に、ほんの少しだけ誇らしさがあったこと。


ああ……よかった。ノアール自身が、自分の価値を少しでも信じられるなら、それだけで私は嬉しい。


「ちょっと疲れたから、今日はもう寝るわ」


「ダメ。ご飯とシャワー、先に済ませてから」


疲れてるのはわかってる。わかってるけど、ちゃんと食べて、ちゃんと身体をきれいにしてほしい。


私が言うと、ノアールはちょっとだけ文句を言いながらも、ちゃんと言うことを聞いてくれた。


シャワーを終えて戻ってきた頃には、私はもう布団の中。


でも……目を閉じても、眠れなかった。


ノアールの未来のこと。

私と、これからも一緒にいられるのかってこと。

不安なことばかりが、頭の中をぐるぐるしてた。


だから、せめて、伝えておきたかった。


「……成人、おめでとう。ノアール」


小さな声。だけど、心の底からの祝福。


その瞬間――


「……ありがとう」


ノアールの、優しい声が返ってきた。


(これからも、一緒に……生きていこうね)


そう願いながら、私は彼の隣で、そっとまぶたを閉じた。


大丈夫。ノアールなら、きっと大丈夫。

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