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下僕の予見  作者: nainai15
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分岐点

あれから、約半年が経った。


俺は12歳になったらしい。

生年月日は「精霊歴193年6刻4日」。ちなみにリオンは1つ下で「194年12刻20日」生まれだ。


――とはいえ、奴隷生活は相変わらず。


毎朝の重労働、冷たい視線、そして、いつ終わるかもわからないこの運命。


「ノアール、ごはん温めたよ! 今日はちょっと温めすぎたかも……!」


明るい声に、ぼんやりしていた意識が引き戻される。

最近ちょっと“お姉さんぶってる”リオンは、今日も笑顔だ。


「あったかけりゃ、神飯だよ」


「ほんと、そういうとこばっかり上手いよね、ノアールって」


ふふっと笑いながら、ご飯を手渡してくれるリオン。

“生活の加護”の力で、今日もホカホカ。……ありがたい。マジで。


俺たちはいつものように、薄暗い作業場へ向かう。

昨日も、今日も、きっと明日も――荷物を運ぶだけの、同じ労働。


……でも、今日だけは少しだけ違っていた。


***


作業の合間。中腰で荷物を運んでいた俺に、リオンが真剣な顔で話しかけてきた。


「ノアール、今日って……わかってるよね?」


「……ああ。“成人の儀式”だろ?」


12歳になると、誰でも受ける“加護”の儀式。

奴隷でも例外じゃない。


もちろん、それで自由になれるわけじゃないけど――

それでも、一歩前に進むような気がするんだ。小さな、小さな希望でも。


正午きっかり。儀式の時間。


リオンは教会へ向かう俺を、入口まで見送りに来てくれた。


「じゃあ……行ってらっしゃい」


「うん。行ってくる」


短く言葉を交わし、俺は奴隷商の従業員とともに教会へ向かう。


到着してみると、参加者の中に奴隷はほとんどいなかった。

やっぱり、12歳まで生き延びる奴隷なんて珍しいんだろう。


そして俺たちは、順番を待たされる。

貴族、平民、最後に――奴隷。


……もう、悲しいとか悔しいとか、そんな感情は擦り切れてる。


やがて俺の名前が呼ばれた。


通されたのは、冷たく静かな石の部屋。

中央には青白い炎が揺れる祭壇。そして、杖を持った司教の老人がひとり。


「ノアール。目を閉じ、心を空にせよ。お前の中にある“加護”に、触れるであろう」


俺の額に杖が触れた。


……深く目を閉じる。


意識が、沈んでいく。

胸の奥が熱く、震えるような感覚――


(……これが、“俺の加護”?)


感覚も、時間の流れも消えていくような――そんな、深い深い静けさ。


***


「……おい、ノアール!」


怒鳴り声とともに、意識が現実に引き戻される。


気づけば体が淡く光っていて、皮膚がぽかぽかと温かい。


「加護、出たか?」


「……うん。出たよ」


加護は自分以外には見えない。司教にも、従業員にも。

それに、加護の内容を口にするのは禁止されてる。

「商品」の価値が下がる可能性があるから、だとさ。


(他の奴もさっさとやらせろ! ぐずぐずすんな!)


従業員の声を背に、近くの椅子に座ってため息を吐く。


……いや、嬉しいんだよ? 嬉しいんだけどさ!


チート能力なんて出なかったし、ちょっとくらいご褒美くれてもよくないか、神様!


その後、俺たちは「加護申告書」に記入させられた。

もちろん、嘘はつけない。“真実のペン”って魔道具があるから。


俺が授かった加護は――


「魔法の加護」

「予見の加護」


……まさかの、二つ。


その場では驚きすぎて何もリアクションできなかったけど、内心ではガッツポーズ。

「予見の加護」ってのは、たぶん新しいタイプだ。まだよくわからない。


「お前……ダブルホルダーか? まあいい、次、来い!」


従業員の驚いた顔を背に、少しだけ得意げな顔をしながら、俺は部屋を出た。


***


寝床に戻ると、リオンが心配そうに待っていた。


「ノアール! どうだった? 大丈夫だった?」


「落ち着けって。ちゃんと授かってきたよ」


「どんな加護だったの?」


「……魔法の加護と、予見の加護」


「えっ!? 二つも!? すごいよ、それ!」


リオンは目をまんまるにして、本気で驚いていた。


……たぶん、この魂が元々この世界のものじゃないからかもしれない。

正直、手放しで喜ぶ気にはなれないけど――


でも、リオンが嬉しそうに笑ってくれるなら、それだけでよかった。


「ちょっと疲れたから、今日はもう寝――」


「ダメ。ご飯とシャワー、先に済ませてから」


「えぇ……めんどくさ……いや、わかりました!」


リオンはめったに怒らないけど、怒ると本気で怖い。

俺はしぶしぶシャワーを浴びて戻った。


戻ってくる頃には、リオンはもう寝息を立てていた。


俺も布団に潜り込む。まぶたが落ちそうになる、その時――


「……成人、おめでとう。ノアール」


リオンの優しい声が、ふわりと耳に届いた。


(……ありがとう)


小さく呟いて、俺は静かに眠りについた。


こうして、俺の“成人の日”は終わった。

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