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下僕の予見  作者: nainai15
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日常

昨日、あんなに強く決意したくせに――

朝起きた俺は、もうすでにぐったりしていた。

いやいや、気合い入れろ、俺。これが“本気で生きる”ってやつだろ?


「ノアール、起きてる? 朝の仕事、始まるよ」


そう声をかけてきたのは、同じ部屋で暮らすリオン。

生活スキルも気配りも、正直、彼女には完全に負けてる気がする。


「あー、うん……もう起きてるよ」


返事をしながらベッドから起き上がると、リオンがパンッと手を叩いた。


「今日の朝ごはんも、ちょっとだけ温めておいたから! 食べたら仕事行こうね」


「マジ、女神……」


(女神ほど可愛くないよっ! 早く食べてね!)


照れて顔を背けるリオンが、ちょっとだけ可愛かった。

よし、明日もからかってやろう。


この“奴隷生活”では、冷めた飯が当たり前。

でもリオンの“生活の加護”のおかげで、俺はほぼ毎食あったかいご飯にありつけている。……本気で、感謝してる。


***


食事を済ませた俺たちは、薄暗い廊下を抜けて荷物置き場へ向かう。

今日の仕事も、昨日と同じ。ただ荷物を運ぶだけの単純労働――でも、俺たちにとっては命綱だ。

働けば銅貨がもらえる。それを貯めれば……いつか、自由が見えるかもしれない。


「リオン、昨日さ……“加護”の話してたじゃん。リオンは“生活の加護”をもらったって言ってたけど、他にはどんなのがあるか知ってる?」


「うーん、詳しくは知らないけど……“火の加護”とか“戦士の加護”、“癒しの加護”なんてのもあるって聞いたことあるよ」


「へぇ……。俺は何になるんだろうな」

「神になる加護とか、貰えないかな?」


「ふふっ、何よそれ」


「きっと、いいのもらえるよ。ノアール、頑張り屋さんだから。神様、ちゃんと見てるよ」


――“頑張り屋さん”。

生まれて初めて言われた。……なんか、泣きそう。


その時だった。

後ろから、怒鳴り声が飛んできた。


「おい! ガキども、何のんびりサボってやがる!」


反射的に背筋を伸ばす。

昨日もいた、あの商会の従業員のオッサン。見た目からして圧がすごい。

リオンがぺこりと頭を下げる。


「申し訳ありません。すぐに作業に戻ります」


「チッ……余計なことしてる暇があったら、さっさと働け」


俺もリオンに倣って頭を下げた。

逆らったらどうなるかは、この世界の空気が教えてくれる。

命があるだけマシ――そう思えてしまうのが、怖かった。


***


作業を終え、ようやく寝床に戻る頃には、もう日もすっかり暮れていた。

腕はパンパン、脚はガクガク。けど……リオンと一緒なら、なんとかやっていけそうな気がする。


「ほら、今日もご飯、温めるね」


ふわりと灯る、手元の優しい光。

その温もりに、ちょっとだけ心がほどけた。


「ありがとう、リオン。マジで、リオンがいなかったら……俺、もう終わってたかも」


「ふふっ、なにそれ。大げさすぎだよ」


(いや、大げさじゃないんだよ……

日本生まれの俺には、“あたたかい飯”が食えるだけで、もう泣きそうなんだよ)


心の中でそんなことを呟きながら、飯を食べ終える。

シャワーを浴び、布団に潜り込んだその時だった。


「ねぇ、ノアール……」


リオンが、布団の中からぽつりと声を出す。


「……もし、私が先に売られちゃったら、ノアールはどうする?」


……息が詰まった。

考えないようにしてたこと。でも、現実は残酷だ。

リオンもわかっている。俺が心配しないように、言わなかっただけで、いつかその時が来ることを。


「……絶対、探しに行くよ」


自信はない。でも、震えずにそう答えられた自分を、ほんの少しだけ誇らしく思った。

俺は、リオンに幸せになってほしい。だから俺にできることは、なんでもやる。


「そっか。うん、わかった。じゃあ、私もそうする」


そう言って微笑んだリオンが、そっと俺の手を握った。

(なんで握ったんだよ)

(え、なんでだろうね?)

――恥ずかしい。でも、仕方ない。


「おやすみ、ノアール」


「……おやすみ、リオン」


誰にも見えない布団の中で、俺は強く、思った。


――絶対に、生き延びる。

――そして、自由になる。

――たとえ自分を犠牲にしてでも、この子の人生を守り抜く。


ノアールの人生を奪って、ここにいる。

その意思を、引き継がなきゃいけない。やり直しは、もうきかないんだ。


再び、覚悟を胸に刻む。

そんな決意を抱いたまま――

11歳の体は、静かに眠りへと落ちていった。

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