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下僕の予見  作者: nainai15
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混乱

まず俺は――異世界転生ってやつをしてしまったらしい。


いや、まさか本当にあるとは思わなかった。

元の世界では、無職でダラダラしてラノベ読んだりゲームしてたり暇を潰してた俺が……いまや11歳の少年ノアールとして、奴隷生活してるって、どういうこと?


なんでも、10歳くらいの頃に遊びに行ってたタイミングで街が襲撃されて、親も知り合いも行方不明。で、さらには盗賊に捕まって、そのまま奴隷商人に売られたってわけ。いや、人生ハードモードすぎて笑えるんだけど……


「いや!! 笑えねーよ!!」


「うわっ、どうしたの!? 急に声あげて!」


驚いて声をかけてきたのは、俺の幼馴染らしい少女――リオン。最初、少年かと思ってたけど、女の子だった。すいませんでした。


なんで幼馴染が一緒にいるかって? それは、街が襲われたとき、俺と一緒に遊びに出てたかららしい。


「大丈夫? さっき急に倒れたからびっくりしたよ。まだ体調悪いなら、休んでも――」


「いや、大丈夫だよ。ちょっと混乱してただけだから。それに、休んだら奴隷商人の人に怒られるし……」


「それはそうだけど……私が、クドリフトさんに頼んでみようか?」


リオンは俺より1歳年上の12歳。どうやら“私が守らなきゃ”って思ってくれてるらしいけど、中身が27歳のおっさんとしては、それが逆にツラい。12歳に守られる27歳……情けなくて泣けてくる。


「そんなことしたら、リオンが怒られるだろ。ダメだよ。それに、俺も11歳だし、大丈夫大丈夫」



ちなみに、“クドリフト”って名前が出たけど、これは俺たちが売られた「クドリフト奴隷商会」の会長の名前。この商会は、ヴァルハルト帝国って国にある大きな奴隷商会らしくて、わりと設備はマシな方。まあ、奴隷生活に“マシ”とかある時点で終わってるが。


この世界では、奴隷は割と普通らしい。自力で働いて金貨1枚を貯めれば解放されるか、もしくはオークションで誰かに買われるか。そのどちらか。ただし……金貨が貯まる前に売られる奴がほとんどらしい。理不尽すぎる。


「ノアールはまだ成人してないんだから、甘えてもいいんだよ?」


この世界の成人は“12歳”らしい。成人の儀式で“加護”と呼ばれる力が与えられ、自分の素質や適性が分かるそうだ。

リオンも成人の儀で“生活の加護”ってのをもらった。ちょっとだけ物を温めたり、生活が快適になる系の力。本人は不満そうだったけど、めっちゃ便利じゃん。


しかも、魔法も努力次第で誰でも使えるって話だし……ちょっとワクワクしてる俺がいる。


「冗談言ってないで、早く仕事終わらせよ?」


「いや、冗談じゃないんだけど……」


今やってる仕事は、商会の荷物運び。これをこなせば銅貨がもらえる。リオンは「お金を貯めて、2人で解放されよう」って言ってくれてるけど……何年もオークションが来ない保証なんて、ない。


「おい、ガキども。そこの荷物はここに置いて、さっさと牢屋で飯食って寝てろ!」


これが商会の従業員。つまり俺たちの監視役ってわけ。


「わかりました」


「行こう、ノアール」


俺たちは急ぎ足で寝床へ向かう。余計なことしてるとすぐ怒られる。

途中、同じように囚われている奴隷たちとすれ違ったけど……みんな目が死んでる。喋る気力もないって感じ。


部屋は2人1組で、最低限の設備――トイレ、シャワー、ベッド、食事が揃ってる。この商会は“商品を大切にする”って方針らしくて、他の場所に比べればまだマシ、らしい。いや、それでも奴隷だけど


寝床に戻ると、冷めた飯が用意されていた。


「ほら、食べよ。今、あったかくしてあげるね」


リオンの手元がほのかに光って、飯がじんわり温かくなる。

これが“生活の加護”か……すげぇなマジで。


「やっぱ、リオンの加護すごいわ。羨ましい」


「今はこれくらいしかできないけどね。……ほら、冷める前に食べよ」


「イシュタリア様に感謝を」


「イシュタリア様に感謝を」


この世界では、食事や儀式の前に“創造神イシュタリア”に感謝の言葉を捧げるのが習わしらしい。正直、神様が本当にいるのかは怪しいけど……形だけでもやっとかないと、な。


飯は不味い。けど、食わなきゃ死ぬ。仕方なく口に押し込んで、シャワーを浴びて、ようやく横になる。


え?

女の子と一緒の部屋で寝て平気なのかって?


平気なわけないだろバカヤロウ。しかも、リオン引っ付いてくるんだよ!

童貞の俺には刺激が強すぎる……頼む、やめてくれ……いや、やめないで……いや、やっぱりやめてくださいお願いします。


そんなこんなで、初めての奴隷生活が終わる。


“俺、これからどうなるんだろう”なんて、ぼんやり考えてたら、自然と眠くなってきた。11歳の体って、意外とエネルギー使うのな。


でも今日1日で、ひとつだけ決めたことがある。


――本気で生きてみようって。


前の人生は、何もかも投げ出してた。

だけどこの異世界では、ちゃんと前を向いて、ちゃんと努力して、ちゃんと生きてみたい。


(……じゃあ寝よう。おやすみ〜)

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