来世の自分へ
「くそっ、待ちやがれ! 家賃も借金も払ってねぇって、どういうことだコラァ!」
怒声が背後から響き渡る。金属バットを握りしめた男たちの足音が、俺の鼓動とシンクロするかのように迫ってくる。
「はぁ、はぁ……逃げないと……金なんて、もうないんだよ……」
息を切らしながら、俺は駅の改札を飛び越え、階段を駆け上がる。人混みに紛れ、ただただ前へと走る。
(あそこの道を渡ったら、地下鉄に無理やり乗って逃げよう)
「じゃあな! 借金取りどもめ!」
勝利の笑みを浮かべながら、俺は横断歩道へと飛び出した。
「やべっ、赤信号だった――」
その瞬間、視界が白く染まる。突っ込んでくるトラックのライトが、俺の全身を包み込む。
衝撃。全身の骨が折れるような痛み。そして、暗闇。
(あぁ……やっと、楽になれる)
⸻
「ノアール! ノアール! 起きて、しっかりして!」
誰かの声が、遠くから聞こえてくる。
瞼を開けると、見知らぬ少年が俺を揺すっていた。
身体が重い。いや……違う、小さい?
「……え?」
手を見れば、細く小さな子どもの手。何もかもが変わっていた。
周囲を見渡すと、レンガ造りの建物が並び、日本とはまるで異なる雰囲気が広がっている。目の前の少年は金髪で、染めているようには見えない。
(外国か? どこだここは……さっきまで車に轢かれて――)
「うっ……頭が割れる……!」
突如として激しい痛みが脳内を駆け巡る。その瞬間、さまざまな光景がフラッシュバックのように押し寄せてきた。
金髪の少年が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「大丈夫!? ノアール!」
その声に反応するように、俺の中で何かが弾けた。混乱の中で、俺は気づいた。自分が“別の人間”として、転生してしまったことに。