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閑話 こっち側の話。蒼麻side02

 


 捻挫しているのに、すぐに立ちあがろうとする望月さんを押し留めて、キッチンを借りてカフェオレを作った。

 棚に並べてあった白黒で色違いのペアのマグカップを選んだら、まさかのキャラクターグッズだった…普通にペアのマグカップだと思ったのに…。

 カフェオレは望月さんに指示を貰いながら、言われた通りに作ったつもりだったけど、コーヒーの粉を多く入れすぎた気がする。出来上がりが正解なのか分からなかったけど、望月さんが美味しいと微笑んでくれたのが最高に可愛くて、嬉しかった。


 隣に座るように言われて、望月さんと並んで座るのは恥ずかしかったけど、目の前にいるよりはマシだったかも知れない。

 ずっと見られたら、逆に自分がずっと望月さんを見ているのがバレてしまう。

 メガネ姿なんて初めてだったし、いつもは化粧をしていたから大人っぽく見えていただけで、スッピンでメガネの望月さんは学校の女子と大して変わらなく見えた、むしろ同級生の女子の方がケバケバしい。丸みのあるフレームのメガネは、望月さんによく似合っていたので、ついチラチラと見てしまった。


 ニコニコ嬉しそうにしている望月さんに思い切って「ゆあ先生」を聞いた時、なぜあんなに動揺したように目を泳がせたのかは分からないが、勇気を出して聞いて良かった。


 ゲームに出てくる人で、僕に似てるとか、笑えるほどホッとした自分がいた。


 現実の好きな人とか、恋人とか(居ないとは言ってたけど)だったら、初めての恋心を自覚した途端失恋するなんて正直立ち直れる自信がない。


 見せてもらったゲーム画面はすごくリアルで、動きも滑らかだったので、よく知らないけど韓国とかのアイドルの動画かと思った。今時のゲームって凄いんだな、中学高校では勉強と部活ばかりでゲームはほとんどした事が無い、今度弟のやっているゲームを見せてもらおうと思う。


 望月さんに顔も性格もイケメンとか言われて、嬉しくて死ぬかと思った。

 好きな人に似てるって、それってとりあえず僕の顔は望月さんの好みって思って良いんだろうか?自惚れ好きだろうか…。

 こっちはすっごく喜んでいるのに、望月さんは急に卑屈になって、僕の担当をやめるとか言い出した。意味が分からなくてかなり焦った。


 俯いて黙ってしまった望月さんと、ちゃんと話したくて、こっちを見て欲しくて手を握ってしまった。

 よくもまぁヘタレな僕があんなことが出来たもんだと思うが、正直言って望月さんにはこっちからグイグイ行かないとダメな気がしたので、恥を投げ捨てていく事に決めた。


 何時間でもいたかったけど、深夜徘徊ダメと言われ、確かに自分も万一、補導でもされて一人暮らしを強制終了されるのは困るので、別に汚れてないので今洗濯しなくても良いのにと思っているジャージを、洗濯機を借りて洗う間だけ居させてもらう事にした。

 好きなだけというだけあり、洗剤がお店のように何種類もあって悩んだが、無難にうちで使っている洗剤の色違いを選んで使用した。蓋を開けただけで果物のような甘い香りがした。


 洗濯機のスイッチを押して急いで戻る、時間は有限だ、有効に使わなくてはいけない。


 戻るなり早速「ゆあ先生」について聞き出す、最初は躊躇いがちだったが、好きな人の話をするのは楽しいんだろう、聞けばなんでも教えてくれた。

 好きな人から、別の男の話を聞くのはかなり複雑な気持ちではあったが、楽しそうに話している姿は可愛くてしょうがなかった。

 流れと勢いで、どんなところが自分と似てるのか聞いた時も、スルッと答えかけたのに、急に恥ずかしがってしまった。


 残念だと頬杖をついたら、それがお気に召したらしい。

 いつかゲーム画面と似ていたようで、画像を見せてもらいながら、同じポーズをしてみたら目をキラキラさせて見つめられた。

 嬉しいけど、正直自分じゃない人を想っているのを理解しているので、モヤモヤとなんとも言えない気持ちではあった。それでも、彼女が僕を見ていたのは確かだ。


 ペラペラと似ている箇所を嬉しそうに話している姿は、とてもイキイキしていて可愛くて、自分じゃない人物を褒めているのに、僕が褒められているようで、無性に照れ臭くなって、笑って誤魔化してしまった。


 ちょうど洗濯が終わった音がしたので、飲み終わったカップを回収してその場から逃げるようにキッチンに向かう。


 あのまま隣にいたらヤバかった。


 理性吹っ飛びそうだし、変なことをして嫌われたくない。子供だと拒否されるのも絶対嫌だった。洗い物をしたついでに、バレないように濡れた手で熱くなった顔を冷やした。


 洗濯が終わったジャージは、しっかり乾燥まで終わっていた。まだ湿っていたら、乾燥させるのを言い訳にズルズルと長居してしまいそうなので、急いで退散しようとしていたら、望月さんに改めてお礼を言われ、その時にやっと家を出てきた最初の目的を思い出した。


 人形の話をしたら、望月さんが分かってくれたので、あの人形のこと覚えててくれたのかと思ってすっごく嬉しかったのに、ただ拾っただけって感じで、僕にくれた人形というのは覚えていなさそうだった。


 思い出して欲しい気持ちもあったが、ずっと大切に…を通り越して常に持ち歩いていたことがバレてしまう恥ずかしさが強くなってしまい、結局言い出せなかった。





 ピーピーとレンジが鳴る音にハッとして、扉を開けると、ふわりとデミグラスソースのいい香りが部屋中に広がった。



「やった、デミソースのハンバーグだ」



 思わず笑みが溢れた。自分の1番の好物がハンバーグで、中でもデミソースが1番好き。白いご飯に乗せて食べたい。

 ご飯茶碗として使っているどんぶりに炊き立てのご飯を装う。

 米だけは自分で炊くようにしている。いつも買うコンビニのお弁当だけでは足りないし、冷たいおにぎりより、炊き立てのご飯が食べたい。

 自炊に挑戦して、面白いなと思った時期もあったが、学校から帰ってきてから毎日料理をするのは思った以上に大変で面倒だったし、何がダメだったのか今でも分からないが、正直美味しく無かった。

 なので自炊は早々に諦め、タイパやコスパの面からも食事はコンビニか昼はもっぱら学食になってしまった。


 ワクワクしながら蓋を開けると、容器の中は色鮮やかだった。2つの小ぶりなハンバーグにかかった艶々のデミソース、容器の上半分はニンジン、ブロッコリー、パプリカ、ほうれん草、コーンにじゃがいもまで入っている。いや、野菜多いな…、それにこのサイズのハンバーグなら10個くらい食べられそうだ。


 望月さんはこの容器1個で足りるのだろうか?まぁ、小柄だしな…。


 ハンバーグは箸で切れるくらい柔らかい、半分に切ったハンバーグにデミソースをたっぷり絡め、どんぶりのご飯にワンバンしてから口に頬張る。噛めば口の中でじゅわ〜と溢れた肉汁がデミソースと混ざり合う、すかさず米を一口。

 はぁ〜…めっちゃ美味い、口いっぱいに幸せが詰まっている。

 付け合わせの野菜たちもデミソースに絡めて食べる。野菜多すぎるなと思ったが、全然そんな事無かった。むしろもっと食べたくなる。野菜分足りて無かったのかな…。


 特にニンジンが美味しかった、千切りにしたニンジンを炒めただけのように見えたが、何か味付けしてあり、正直何の味か全然分からなかったがめちゃくちゃ美味しかった。

 ニンジンはあまり好きな野菜では無いと思っていたが、この炒めたニンジンは1本分くらい平気で食べられそう。


 残ったソースをほうれん草で集め、おかわりしたご飯に乗せて食べる。行儀悪い??僕は一滴も残したくないので何が悪いのか分からないな。


 あっという間に食べ上げてしまった…空っぽになってしまった保存容器をしょんぼり眺めて、そういえばまだ筑前煮もあるじゃないか!と思いだし、まだ温める前の蓋を開けた。

 一口より小さめのサイズに切り揃えられた根菜類とこんにゃく、それより少し大きめの鶏肉が、しっかり味の染みた良い色に染まり、容器いっぱいに詰められていた。

 温める前に味見しようと思い、冷たいままの鶏肉をパクッと食べた。


「え、うっま」


 温め直す必要などなく、すごく美味しい。

 蓮根や筍は中までしっかり味が染みているのにシャクシャクとした歯応えがしっかり残っているし、ニンジンや里芋は箸で切れるほど柔らかいのに煮崩れしていない。鶏肉も然り、中まで味がしっかり染みていてほろほろ柔らかい、実は筑前煮ではこんにゃくが一番好きだったりする、味が染み込んだコンニャクのクニュクニュした食感はたまらない。


 ついついそのままパクパクと食べ進めてしまった。半分ほどになってハッとする、コメも食べよう。


 3杯目のご飯をどんぶりに半分ほど装うと、炊飯器は空になった。明日の朝ごはんの分まで炊いておいたつもりだったがしょうがない。

 容器の下の方は筑前煮の汁が溜まっていたのがよく絡んで味が濃くなっていた、甘辛い醤油がご飯によく合う。今日は食べ過ぎだなと思いながらも箸が止まらない。


 筑前煮もあっという間に食べ終わってしまった。


「やば、美味しすぎて止まらなかった…」


 冷蔵庫からペットボトル入りのお茶を取り出して一気に半分ほど飲んだ。お腹も心もいっぱいだ。


 空になった保存容器と使った食器類をサッと洗い、ついでに明日の朝用に1合だけ米を炊く。朝に炊き上がるようにタイマーをセットして、風呂場に向かう。


 望月さんの家で洗濯したジャージは帰ってきてからすぐにハンガーにかけたので、そのほかの服を脱いでそのまま洗濯機へ放り込む。


 髪や体を洗い、熱めのシャワーで洗い流しながら、ふと気になった。


 望月さんは足首の捻挫と擦り剥いた怪我以上の被害はなかったのか?服が破かれて、突き飛ばされただけ?僕がくる前に何か、もっと人に言えないような事が起きていたのではないか?頑なに救急車を拒んだのはそのせい?

 望月さんが卑屈になっていたのは何かそんなふうに思わせることを言われたのではないか?そもそもどうして僕は最初に警察を呼ぼうと考えられなかったのか…!


 浮かれて帰ってきて、呑気にご飯を食べていて大丈夫だったのだろうか?今からでも警察に通報するべきだろうか?犯人の顔はハッキリとまでは言わないが覚えている、大体の身長や服装も分かる…、だが被害者でもない自分が勝手に通報しても良いのか?性被害はデリケートな案件のはずだし…。


 居ても立ってもいられなくなり、急いで風呂場を出る。


「もしもし?蒼麻だけど…今いい?」


 髪を拭きながらある場所に電話をした。

 電話口の相手は突然の電話に驚きつつも、僕の話を真剣に聞いてくれた。


 今すぐにでも望月さんの部屋に戻って確認したい衝動をどうにか抑え、電話相手の助言を静かに聞く。

 だんだん冷静になってきたことで、思った以上に自分が望月さんに好意、いやもう依存のような執着心を持っていることを自覚する。


 僕だったら絶対に彼女を傷付けたりしない、笑顔を絶やさない努力をして、甘やかして、本当なら閉じ込めて誰にも渡したくない。


 9つという年齢差に歯噛みしそうになるが、そんなどうにもならない事を嘆いてもしょうがないと諦める。


 どうしたら僕を見てくれるだろうか?もっとユア先生とやらに寄せれば良いのだろうか?寄せて僕を好きになってくれるのなら喜んでユア先生になりきる覚悟はあるが、なんとなく望月さんのユア先生への感情が恋愛とは違うような気がしている。


 直接彼女の好みのタイプを聞く?親しくも無い男にそんな事聞かれたら引かれるだろうか…?


 強気に行きたい自分と、拒絶された時を考える弱い自分がせめぎ合う。


 こんなことで悩む事になるとは昨日まで想像もしなかった、友人が彼女に告白した時や、振られたと言った時、もっと真剣に話を聞いておけばよかった。

 今更ながら、友人には真面目に話を聞かずに、申し訳ないことをしたと思う…来週学校で会ったら謝ろう。


 スマホを開き、幾つか検索をしてメモを取る。

 しかし検索をすればするほど分からなくなってしまう、どうしよう…僕はこんなにダメ男だったのかと絶望するほどに。


 しばらく迷った末、僕は友人にメッセを送る、送った瞬間に既読がついたので、スマホをいじって居たのかも知れないな、と思った瞬間には、コールが鳴った…相変わらず文字を打つのはめんどくさいのかも知れない。


 通話ボタンを押してスピーカーにする


『ソーマ!どした〜?俺に聞きたい事とか珍しぃな〜?』


 静かな部屋が一気に騒がしく感じる元気な声がスピーカーから聞こえ、そっと音量を下げる。


「いや、大した事じゃ無いんだけど…」


 しかしコイツに相談したのは間違いだったかも知れないと思い知るのは、まだ先のことだった…。

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