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水面に映る許しの刻

 水の門をくぐると、今度は澄み切った湖が広がっていた。空は明るく、静かな水面が鏡のように周囲を映している。

「ここは穏やかね。」ベルナデッタは深呼吸する。「炎の世界とは大違い。」

「でも気をつけよう。ここは浄化と許しの試練だって言ってた。」リースは水際に足を踏み出す。

 水面を歩くことができるようで、二人が進むと、水の上に小さな島が点在している。その一つに、大きな水晶のような石碑が立っていた。

「ようこそ、水の試練へ。」柔らかな声が二人を包む。現れたのは水色の長髪を持つ女性のような精霊だった。彼女は透き通った肌と青い瞳をしている。

「あなたは…?」リースが尋ねる。

「私は湖の精霊、アクアリス。浄化と許しを司る存在。」彼女は微笑む。「汝らは何を許し、何を赦せぬか、己に問うがよい。」

「許し…」ベルナデッタは硬い表情になる。「私、許せないことがあるかもしれない。」

「ベルナデッタさん?」リースは心配そうな目で彼女を見る。

「私…昔、家族が私に研究を押し付けて、自分の自由を奪ったことがあった。彼らの期待が重くて、逃げ出して図書館に籠った。私は家族を恨んでいたわ。」ベルナデッタは唇を噛む。「でも、今思えば、彼らは私に可能性を見ていたのかもしれない。許すべきなのか、今でもわからない。」

 アクアリスは静かに頷く。「許しとは、過去に起きた痛みを水に流すこと。ただし、忘れることではない。痛みを受け入れ、その上で前に進む。汝らはそれができるか?」

「私…わからない。」ベルナデッタは水面に目を落とす。「でも、試してみる。私が憎んだ家族の姿がここに現れるの?」

「そうだろう。」アクアリスは手をかざすと、水面が揺れ、そこにベルナデッタの家族の幻影が映し出される。厳しい表情の父、無表情な母、期待に満ちた兄妹たち。

 ベルナデッタは身を震わせる。「あなたたちは、私を道具みたいに扱った!期待に縛り付けて、私を苦しめた!」

 すると幻影の父が口を開く。「ベルナデッタ、お前には偉大な学者になる素質があった。お前を高く飛ばすために、鞭を振るったのだ。」

「でも、それは私の意思を無視したでしょ!」ベルナデッタは涙を目に浮かべる。「私はただ、自由に生きたかっただけなのに…」

「お前が自由を求めるなら、それで構わない。だが、我々はお前を傷つけた。それは事実だ。」幻影の母が静かに言う。「許してくれとは言わない。ただ、お前が今こうして生き、旅をしていることが、我々には救いでもある。」

 ベルナデッタは言葉を失う。

「許せるわけない、と思ってた。けど、今の私はこうして旅をして、自分の選んだ道を歩いている。そのきっかけを作ったのは、皮肉にもあなたたち…」

 彼女は涙を拭う。「私はあなたたちを完全には許せない。でも、憎しみ続けることもやめる。あなたたちが私を形作った一部なら、私はそれを受け入れる。」

 すると幻影は消え、水晶の石碑が淡く光った。

「上出来だ。」アクアリスは微笑む。「許しとは、過去を水に流し、心を軽くすること。汝はそれを成し遂げた。」

 同時に、リースにも水面に映る映像が浮かぶ。そこには孤児院の仲間たちと、彼を見捨てた大人たちの姿があった。

「俺は、捨てられた過去がある。家族は俺を放棄し、孤児院で育った。でも、今こうして生きてるのは、あの孤児院の人たちの世話があったからだ。俺ももう、誰かを恨むのはやめよう。」リースは静かに宣言する。

 水晶がさらに輝きを増し、そこから透き通った水の宝珠が現れた。リースがそれを手に取ると、周囲の幻影は消え、再びヴィエント・シウダーの霧の中へ戻ってくる。

「おめでとう。」エオルスは満足げに言う。「水の試練を超えたな。これで二つの宝珠を得た。」

「あと一つ、闇の試練か…」ベルナデッタは長く息を吐く。「内面の影と向き合うなんて、さらに辛そうだわ。」

「でも行くしかない。これでやめたら、今までの苦労が無駄になっちゃう。」リースは拳を握る。「行こう、闇の門へ。」

 二人は最後の門、闇の門へと歩み寄る。その門は漆黒の霧に包まれ、不穏な気配が漂っている。

 蝶が暗闇の中で微かに光り、二人を励ますように舞う。

「ありがとう。」リースは蝶に微笑む。「君がいなければ、ここまで来れなかった。」

 こうして、二人は最後の試練へ。許しを学び、心を軽くした今、彼らは自分たちの内側に潜む闇と対峙する準備ができているはずだ。クロノスの鍵への最終章が近づいていた。

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