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炎の選択、過去か未来か

 炎の門をくぐった途端、二人の周囲は灼熱の大地へと変わった。空は夕焼けのように赤く、地面には溶岩が流れている。熱気が肌を焼くようだ。

「暑い…」ベルナデッタは汗を拭う。「魔法で冷気を呼べればいいんだけど、ここは魔力が乱れているみたいで、うまくいかない。」

「耐えるしかないね。」リースは唇を噛む。「炎の試練は、情熱と決断が鍵だって言ってたけど、どうすればいいんだろう。」

 足元に細い道が続いている。それは溶岩流の合間を縫うように伸び、先には大きな炎の渦が見えた。

「行くしかないわね。」ベルナデッタは短く言って、歩き出す。リースも後に続く。

 道中、奇妙な声が聞こえてきた。「お前たちは何を求める?」と、低くくぐもった声が溶岩の中から響く。

「クロノスの鍵を求めています!」リースは答える。

「クロノスの鍵…それは時を操る力。お前たちは、その力を何に使う?」声は問いかける。

「平和を取り戻すためです!」リースは即答する。

「平和…甘いな。」声は嘲笑するかのようだ。「時を操れるなら、自分の過去をやり直そうとは思わないか?傷ついた思い出を消し、悲しみをなかったことにしようとは?」

 その言葉にリースは揺らぐ。自分は孤児として苦しい幼少期を過ごした。もし過去を変えられるなら、幸せな家族のもとに生まれ、何不自由なく暮らすこともできたかもしれない。

「リース!」ベルナデッタが彼を呼び止める。「考えちゃ駄目よ!過去を変えたら、あなたはあなたじゃなくなるかもしれない。」

「わかってる…僕は、過去を消すためじゃなく、未来を作るために鍵が欲しいんだ!」リースは決意を込めて叫んだ。

「面白い…」声は小さく笑う。「では、決断せよ。過去か未来か?炎の試練は、その決断を求める。」

 すると、道が二手に分かれた。片方は過去を示すかのように、幼い日のリースを映し出し、もう片方は見知らぬ未来の光景を揺らめかせている。

「どちらかを選ぶの?」ベルナデッタは息をのむ。

「僕は…未来を選ぶ!」リースは迷わず未来への道を指差す。「過去には戻らない。今があるから僕がいる。未来を変えるために、進むんだ!」

 その瞬間、過去を示す道は燃え尽き、未来を指した道が炎の渦へと続く一本の道となった。

「よくぞ決断した。」声は嬉しそうに響く。「さあ、最後の関門へ進め。」

 二人は炎の渦に近づく。そこには巨大な火竜が鎮座していた。鱗は赤く光り、翼を広げると熱風が渦巻く。

「火竜…!これを倒さなきゃならないの?」ベルナデッタは焦る。

「決断の証を示せ、と言ってた。つまり、この竜を倒すことが決断の象徴なのかもしれない。」リースは短剣を握るが、あまりに相手が大きい。

「まかせて、私が魔法で援護するわ!」ベルナデッタは渾身の力で魔法を唱える。「インフェルナ・グラッシア!」

 本来炎の中で炎魔法は無意味かもしれないが、ベルナデッタは巧みに炎と炎を相殺するような魔法を放った。竜の炎が弱まる隙に、リースが岩陰から駆け寄り、竜の足元に短剣を突き立てる。

「ぐおおおっ!」竜は怒り狂い、尾を振り回す。リースは危うく吹き飛ばされそうになりながらも踏ん張る。

「もっと有効な手段はないの?」リースは叫ぶ。

「炎は炎で制する…」ベルナデッタは呼吸を整える。「私、ある程度の火精霊との対話ができるかもしれない。」

 ベルナデッタは目を閉じ、両手を組み、炎の言語で囁くように呪文を唱える。すると、周囲の炎が渦巻き、火竜の体を包む。火竜は苦悶の声を上げる。

「今だ、リース!」ベルナデッタが叫ぶ。

 リースは竜の隙を突いて、首元に飛び上がり、短剣を深く突き立てた。竜は大きな咆哮を上げ、やがて光の粒となって消滅する。

「やった…」リースは膝をついて息を整える。

「ええ、やったわね。」ベルナデッタは額の汗を拭う。

 竜が消えた後、そこには小さな炎の宝珠が残されていた。それは炎の力を象徴するアイテムだろう。リースがそれを拾うと、周囲の炎の世界が徐々に消え、再び霧の中の都へ戻っていく。

「おかえり。」エオルスが待っていた。「炎の試練を乗り越え、決断の宝珠を得たようだな。」

「はい…」リースは宝珠を差し出す。「これであと二つですね。」

「そうだ。水と闇の試練が残っている。」エオルスは門を指し示す。「どちらへ行く?」

「水で浄化と許し、と言ってたわね。私はそっちに行きたい。」ベルナデッタは少し沈んだ表情で提案する。

「わかった、水の門へ行こう。」リースは同意する。

 こうして、二人は水の試練へと足を踏み入れる。炎の試練で示した決断、過去に囚われず未来を切り開く意思は、次の試練への大きな支えとなるだろう。

 試練が進むたびに、二人は少しずつ自らの内面を深く見つめることになる。そしてクロノスの鍵がもたらす運命が、さらに重くのしかかっていく。

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