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揺らめく幻の都

 風の指輪を手に入れた二人は、幻の都、ヴィエント・シウダーを探すべく北西へと向かった。道中、夜になったところで、指輪を月光に翳すという老女の言葉を思い出す。

「今夜は満月だ。試してみよう。」リースは小さな丘の上で立ち止まり、風の指輪を掲げる。

 月光が指輪に反射すると、指輪は淡い緑色の輝きを放ち、その光が宙に細い道筋のようなラインを描く。

「これが、風の都への道しるべ…?」ベルナデッタは驚く。「見て、光のラインがあっちの方向を指してるわ。」

「行ってみよう!」リースは胸を躍らせる。

 二人は光を頼りに荒野を進む。夜風が冷たく頬を打ち、遠くで狼の遠吠えが響く。不安と期待が入り混じる中、やがて光の先に、もやのようなものが見えてきた。

「霧が…」ベルナデッタは目を凝らす。「あれは普通の霧じゃないわね。魔力が混じってる気がする。」

 リースはゴクリと唾を飲む。「幻の都、だからでしょうか。」

 二人が霧の中へ足を踏み入れると、周囲の風景が歪み始めた。夜の荒野だったはずが、いつの間にか石畳の道が現れ、高い塔や古い風車の影が揺らめく。

「ここが…ヴィエント・シウダー?」リースは信じられない気持ちで辺りを見回す。

 街並みは昔のヨーロッパ風を思わせるが、どこか異国情緒が漂い、建物は半透明に揺らめいている。人影もあるが、皆どことなく幽霊じみて、声が届かない。

「どういうこと? まるで半分別の世界に足を突っ込んでいるみたい。」ベルナデッタは警戒を怠らない。

 蝶がひらりと街並みを舞う。蝶の導きに従い、二人は中心部へ向かう。そこには大きな広場があり、中央に風車のようなオブジェがそびえていた。

「誰かいませんか?」リースは呼びかけるが、返事はない。

 すると、低い声が響いた。「…来たか、時を求める者よ。」

 二人が振り向くと、そこには風に揺れる長衣を纏った男が立っていた。髪は銀色、瞳は淡い緑色で、不思議な神秘性を放っている。

「あなたは…?」ベルナデッタは身構える。

「我は風の都の守護者、エオルスと申す。」男は低く礼をする。「ここは時と風が交差する場所。クロノスの鍵を求める者が、必ず通る道だ。」

「やはり、ここが風の都なんですね。でも、なぜこんな半透明で…」リースは不思議そうに尋ねる。

「ヴィエント・シウダーは、かつて存在した都だ。だが、時の歪みにより、この世界と別世界の狭間に揺らめいている。幻影のような状態なのだ。」エオルスは寂しげな微笑を浮かべる。

「時の歪み…クロノスの鍵は時を操る力があると聞きました。それと関係が?」ベルナデッタは真剣な眼差しで問う。

「その通りだ。クロノスの鍵が失われたことで、この都は時空の狭間に閉じ込められた。我ら守護者は、その日を待っている。鍵が再びこの世界に戻る日を。」

「では、クロノスの鍵はここにはないんですか?」リースは落胆気味。

「鍵そのものはここにはない。しかし、鍵へ至るための『時の羅針盤』がある。」エオルスは広場の中央に目を向ける。「時の羅針盤を手に入れれば、君たちは鍵の所在を示す道しるべを得ることができるだろう。」

「時の羅針盤…それを手に入れるにはどうすれば?」ベルナデッタが詰め寄る。

「試練だ。」エオルスは風車のオブジェを見上げる。「時を紡ぐ者は、四つの試練を超えねばならない。すでに君たちは風の試練を超えた。あと三つ、炎、水、そして闇を紡ぐ試練がある。」

「四つ…風は終わったんですね。」リースは一度深呼吸する。

「そうだ。風は過去の記憶、炎は情熱と決断、水は浄化と許し、闇は自己の影を意味する。」エオルスは静かに続ける。「ヴィエント・シウダーには、これらを象徴する三つの門がある。門の先にはそれぞれの試練が待つ。君たちはそれを突破しなければならない。」

「わかりました。やってみます。」リースは強い意志を込める。

「気をつけて。これらの試練は、君たち自身の内面を映し出す。魔物との戦いよりも厄介だ。」エオルスは警告する。「迷いがあれば、試練に飲み込まれるかもしれない。」

 その言葉に、ベルナデッタは少し顔を曇らせる。「内面を映し出す…私たち自身が試されるのね。」

「怖い?」リースが小声で尋ねる。

「別に。」ベルナデッタは強がるが、声が少し震えている。

「大丈夫、僕たち二人で乗り越えよう。」リースは彼女の肩に手を置く。「あなたがいてくれるから、僕も心強いです。」

「…ありがと。」ベルナデッタはわずかに微笑んだ。

 エオルスは手をかざすと、三つの門が薄霧の中に浮かび上がった。一つは赤く揺らめく炎の門、一つは穏やかな水色の門、もう一つは漆黒の闇が揺れる門だ。

「好きな順に挑むがよい。ただし、一度踏み入れたら最後、試練を超えぬ限り戻れない。」エオルスは厳粛な表情だ。

「まずは…炎の門に行ってみようか。」リースは提案する。「情熱と決断が試されるなら、わかりやすい気がする。」

「そうね、やってみましょう。」ベルナデッタは意を決して頷く。

 二人は炎の門へと歩み寄る。熱気が門から感じられ、鼓動が高まる。蝶は門の上空で舞い、二人を鼓舞するように輝いた。

「行くぞ。」リースは決意を固め、ベルナデッタと共に門をくぐり抜ける。

 すると、周囲は赤く染まり、炎が揺らめく世界に包まれた。試練の始まりだ。

 こうして、リースとベルナデッタは、自らの内面と対峙する試練へと足を踏み入れる。クロノスの鍵への道は、ますます険しく、奥深くなっていく。その一歩一歩が、彼らの心を研ぎ澄まし、新たな力と覚悟を与えていくだろう。

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