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知識の灯と古き地図

アルメリアの図書館は、街の北端にある大きな敷地を有していた。豪華な外観と、美しい彫刻が施された扉。それらを押し開くと、薄暗いランプの灯りの中に無数の本が積み重なる静寂の世界があった。

「ここがセラフィーノさんがいる場所か…」リースは少し緊張しながら、館内を歩き回る。蝶は頭上を飛び回り、本棚の間をすり抜ける。

 すると、奥のテーブルで古い書物に目を落とす老人がいた。白く長い髭と、丸い金縁眼鏡が特徴的だ。

「失礼します、あなたがセラフィーノさんですか?」リースは恐る恐る声をかける。

老人は眼鏡を少しずらし、リースを見上げた。「ほう、君は? こんな若い子が私に何の用だね?」

「僕はリースといいます。エステヴァンさんに会いに行けと言われて来ました。」

「エステヴァン…あの鐘楼の管理人かね。なるほどね、君が…」セラフィーノはにやりと微笑む。「青い蝶が導いた少年、ということか。」

「はい、そのようです。クロノスの鍵を探す旅に出るよう言われました。でも、どうすればいいのか。」

「クロノスの鍵…なるほど、長らくその名を聞いていなかった。君は本当に選ばれたのかもしれないね。」

「選ばれたかどうかは、僕にはわかりません。でも、僕にできることがあるならやりたいんです。街や国を覆う不穏な気配を、どうにかしたい。」

セラフィーノは頷き、背後の大きな本棚から分厚い書物を取り出した。「この本には、クロノスの鍵にまつわる古い伝承が記されている。だが解読には少々骨が折れるだろう。」

「読ませてもらっていいですか?」

「もちろん。だが、注意することがある。クロノスの鍵は、一筋縄ではいかない。時を操る力を秘めているらしいが、それに触れる者は必ずしも幸福になるとは限らない。」

「…わかっています。でも、僕は後戻りできない。」リースは強い眼差しで答える。

 しばらく本を読んでいると、そこには断片的な情報が散りばめられていた。

「『北の塔に眠る青銀の鏡を探せ』…『真紅の月の晩に、鍵は開く』…『四つの試練を越えし先に、時の扉あり』…」リースは何度も繰り返して呟く。

「つまり、最初の手がかりは、北の塔にある青銀の鏡かもしれないね。」セラフィーノが呟く。「しかし、北の塔はもうずっと前に廃墟と化している。そこには魔物が出るという噂もある。」

「魔物…そんな、僕、戦えないですよ。」リースは青くなる。

「大丈夫だ、君には導き手がいる。」セラフィーノはリースの肩に手を置く。「さらに、旅には仲間が必要だ。例えば、この図書館には研究員のベルナデッタがいる。彼女は魔術について詳しく、少し気難しいが心強い助力者になり得る。声をかけてみるがいい。」

「ベルナデッタさん…」リースは辺りを見回す。すると、少し離れたテーブルで巻物を広げている女性がいる。長い茶髪を後ろで縛り、落ち着いた青い瞳が印象的だ。

「失礼します。ベルナデッタさんですか?」

「はい、そうだけど…あなたは?」ベルナデッタは冷ややかな視線を送る。「子供がこんな所に何の用?」

「僕はリースといいます。クロノスの鍵を探しに行かなきゃならなくて…」

「クロノスの鍵…面白い冗談ね。」彼女は鼻で笑う。「あれは伝説で、実在すると信じている人はほとんどいないわ。」

「セラフィーノさんに相談したら、あなたが助けてくれるかもしれないと言われたんです。」

「セラフィーノが…?」ベルナデッタは渋い顔をする。「あの博識な老賢者が君に時間を割くということは、何かあるのかもしれないわね。」

 リースは必死にベルナデッタを説得する。「僕一人じゃ魔物なんて相手にできないし、鏡を見つけることもできない。お願いします、一緒に来てくれませんか?」

「はぁ…しょうがないわね。退屈な毎日だったし、ちょっとした冒険も悪くない。いいわ、一度きりよ。」ベルナデッタは不承不承といった表情で立ち上がる。「ただし、足手まといにならないでよ。」

「ありがとうございます!頑張ります!」リースは満面の笑みを浮かべる。

 その様子を見て、セラフィーノは微笑みながら言った。「北の塔へ行くなら、準備が必要だ。ここから北へ2日の道のりだ。武器や食料を整え、明朝出発するといい。」

「わかりました!」リースは元気に答え、ベルナデッタも肩をすくめるようにして頷く。

 こうして、リースは仲間を得た。蝶は再び彼の頭上を舞い、街の窓辺を彩る夕暮れの光の中で、運命の風が緩やかに回り始めていた。


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