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Raccoon はじまりは乙女ゲームで  作者: 加藤爽子
一章 茉莉衣、飛び出す
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王立ハルティア学園

 王立ハルティア学園というのが、マリーが通うことになった学校だ。

 生徒達は特に制服らしいものは着ていないけど、マントだったり手袋だったりスカーフだったり必ず何処かに深緑色を身に着けている。

 マリーもそんな生徒達のうちの一人として群衆の中にいた。

 ホールの一段高いところでは、遠目だからなのかモブだからなのか分からないが、顔が見えない学園長が祝辞を述べている。

 卒業式と入学式を兼ねているため、新生活を恐れないで研鑽を積んでいって欲しいというような両方を激励している内容だった。

 渋い声で述べられていく祝辞に、パッケージに載っていないキャラクターにもちゃんと声優さんがいるんだな、とか思いながら聞いていた。


「ここって高校だよね?」


 なんとなくマリーの周辺に居る生徒達に少し幼い子が何人も混ざっているように見えたから、華凛梛(かりな)にそう質問した。


「ハルティア学園は十歳になったら入学出来るのよ。入学年齢はバラバラで、成人する十八歳になるまでに卒業すればいいって公式に書いていたわ」


 新節式は必ず四月一日に行われ、卒業の条件は必要な試験に全て合格していることと成人前であることの二つになる。一つでも合格出来ないまま成人になってしまうと退学になるのだ。

 大体、小学生高学年から高校生までが同じ学校に所属していることになる。


「なんか複雑だね」

「そのうちに慣れるわ」


 華凛梛は簡単にそういうけど、わたしの頭の中は早くも混乱気味だった。

 妖精や妖精樹に加えて、耳慣れない『新節式』という言葉。建物や部屋の様子は中世ヨーロッパを意識したようなデザイン。

 ファンタジー要素満載のツイアイの世界観に、ついていけるのかの不安と、同じくらいのワクワクを感じている。

 テレビの中では先程祝辞を贈っていた男の人とはまた別の男声で、卒業生はこの後に刻紋の儀式を受けるよう案内があって式は終わった。

 更に見知らぬ単語が追加されてしまったがそのまま進めてみようと思った。

 マリーは新節式の後、何人かにつられるように学園の西にある森の方へと足を進めていく。


『森に入るには許可が必要ですわ』


 今にも森の中に入ってしまいそうなマリーを誰かが引き留めた。

 振り返ったマリーの前には、顰めっ面をした女の子がいる。

 銀色から毛先にいくほど金色へとグラデーションしている長い髪をサイドで編み込み後頭部でまとめ上げ、この学園の生徒の証である深緑色のリボンを結んでいた。


『カロリーナ様……』

『入学おめでとう、マリー』

『ありがとうございます』


 硬い声でお祝いを告げるカロリーナにマリーはお礼を返した。


『今、妖精樹の元へ向かっているのは卒業生の皆様ですわ』

『卒業生?』

『ええ。刻紋の儀式の為に』

『あっ。そうでした』


(刻紋の儀式……さっき話していたやつだ)


 よくよく見ていれば確かに高校生っぽい子しか森の方に来ていない。

 刻紋の儀式というのもヘルプをみれば載っているらしいけど、ちょっとだけ悩んでやっぱりストーリーを進める方を選んだ。

 そもそもカロリーナ様と呼ばれたこの仏頂面の少女が誰なのかの方が気になったからだ。

 すぐに説明があるのじゃないかと思っていたけど、再び短いローディング画面が表示されて、背景が森から室内に変わった。


『私はエリック・モッテンセンと言います。入学試験の案内をさせて頂きます』


 目の前には緑の髪の眼鏡を掛けている男性がおり、ボソボソと自己紹介をしている。その自己紹介によると、ハルティア学園の先生の一人らしい。

 前髪は長く顔の上半分を隠しており、眼鏡までしているので表情はよくわからないが、どこか自信無さげに見える。

 実は彼もパッケージ裏に載っているので攻略対象だったりする。

 細い顎のラインと薄い唇しか見えていないが、眼鏡を外して髪を切れば美形っていうやつなのだろう。

 あと左側の髪を耳に掛けているのだが、露わになった耳には、小さな花と長い房が付いたピアスをしていた。

 顔を隠して目立たないようにしているのに、いくつもの小花が付いたデザインの金のピアスは目立っていてチグハグな印象だ。


「また過去回想なのね」


 いつになったら本編がスタートするのかと華凛梛が溜息をついているが、わたしは話に置いていかれないように、説明をじっくり読み込んでいく。

 要約すると新節式までに学園の西にある森へ入り妖精樹の葉を一枚持って帰るというのが試験の内容だった。

 森の中では野生の獣やイタズラ妖精が邪魔をしてくることもあり、何かあった時のために出入りを管理しているそうだ。

 そのため森に入る時にはその都度申請する必要がある。

 幼き日に妖精樹まで迷い込んだことがあるマリーは無許可で森に入ったことを知られたら怒られてしまうかもしれないと内心ヒヤリとした。


『……君にはここの学生に知り合いが居ないということなので、道案内はこちらで用意しました』


 どうやら在校生に知り合いがいればその生徒に森への付き添いを頼むらしい。

 特に初めて森へ入る場合の単独行動はよくないということだ。

 付き添いとしてマリーに紹介されたのがカロリーナだった。


『マリー・セルベルです。よろしくお願いします』

『カロリーナ・ピュハマーです』


 お互い名乗りあって挨拶をすると、マリーの心の声でカロリーナは公爵家のご令嬢であることが分かった。

 セルベル家は男爵でかなり身分差はあるが、お互い十四歳で同い年だった為、カロリーナの提案で名前を呼び合うように決まった。

 マリーは流石に『カロリーナ様』と様付けで呼んでいる。


「十歳から入学出来るのに十四って随分遅いね」

「マリーが元平民だったからよ」

「卒業まで七、八年もかかったら中弛みするしな」


 華凛梛の言う通り確かに新節式に来る前の部屋は平民っぽく無かった。どういう経緯で男爵家に引き取られたのか分からないけど、今のマリーは平民ではなく男爵令嬢になっている。

 ストーリーに沿った解釈をする華凛梛とは反対にゲームの都合だと潔く言い切るミカさんに華凛梛は相変わらず眉を顰めてる。


『後一人くらいご一緒した方がいいですわ。わたくしがお声がけ出来ますのは…………』


 カロリーナはそういうと思案顔になった。

 森へ入るには通常二〜四名くらいでパーティを組むのが普通らしい。あまり大人数だと妖精樹が姿を現しにくいそうだ。

 たくさんの人の前でも姿を現すのは一年に一日だけ……刻紋の儀式を行う時だけだという。


『どうしてももう一人と言うならば、僕が行……』

『……そうですね。レオナルド、エルンスト、アルトゥール、ルートヴィヒ、ミカルですわ』


 長考するカロリーナにエリック先生が控え目に提案しかけたが、あまりよく聞こえなかったのかカロリーナが名前を挙げていく。

 カロリーナが挙げた候補とエリック先生を合わせれば、パッケージ裏に載っている攻略対象六名になった。

 選択肢にその六名の名前が並び、カーソルを動かすとそれぞれの立ち絵と簡単な説明を見ることが出来る。

 金髪の第三王子ルートヴィヒと藍髪の第二王子ミカルはマリーが迷子になったエピソードで既に登場しているし、水色の髪のアルトゥールは華凛梛が気になっているキャラでルートヴィヒの護衛騎士だと知っている。

 それに、目の前の緑髪眼鏡のエリック先生を除けば全く知らないのは、レオナルドとエルンストの二人だ。

 わたしはとりあえずその二人の説明を確認した。

 レオナルドはカロリーナの弟で銀色の長髪だ。

 ニコニコと穏やかな笑みを浮かべている彼はどうやら神官で神聖魔法に長けているらしい。

 エルンストは、光沢のある赤毛で右目が緑色、左目が黄色と派手な見た目をしていた。

 家は貿易で儲けているらしく、商人気質のようだ。


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