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Raccoon はじまりは乙女ゲームで  作者: 加藤爽子
四章 マリー、学園生活の始まり
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学園案内 2

 先程語学の優秀者として名前が上がっていたエルンストに、わたしも慌ててカロリーナの後ろでカーテシーをした。

 長めの赤髪をハーフアップにしている彼は、茉莉衣(まりい)が一番最初に入学試験のサポートに消去法で選んだ攻略対象だった。


「こんにちは、ピュハマーの姫様。はじめまして、セルベル嬢」


 エルンストは左右異なる緑と黄色の瞳を輝かせると片足を後ろに引いて右手を胸にあてて芝居がかった動作でお辞儀をした。

 ボウ&スクレープと呼ばれるそのお辞儀は、学園というこの場では過分な挨拶だと言うのに、芝居めいた所作がより一層大袈裟に見せていた。

 しかし、役者のように整った顔立ちで人目を引く彼にはとてもよく似合っている。

 そんな彼をカロリーナは片眉を上げて訝しげに見ていた。


「この時期に学園にいらっしゃるのは珍しいですわね」

「学園の案内を頼まれまして……紹介します。妹のシュティーナとその友人のカーリン・ノルデンシェルド伯爵令嬢です」


 エルンストの後ろには、まるで数年前のエルンストだと言ってもいいくらいよく似た面持ちの人が立っていた。

 目は両目とも黄色でオッドアイではないけれど、その赤髪はそっくりだった。

 ハーフアップのエルンストとは違って、髪は頭の後ろで一つにまとめて結わえられていて、尻尾みたいに垂れ下がっている。


「妹?」


 思わず声に出してしまったのは、妹と紹介されたのに明らかに男物の服を着ており少年のように見えたからだ。


「シュティーナ・ベンディクスです。同期入学のよしみで仲良くして欲しい」


 兄であるエルンストとは違ってキリッと引き締まった表情で、低く抑えられた声も話し方も所作も全部少年のようだった。

 でも、シュティーナは女性名だし妹と紹介されたし、見た目とチグハグでわたしは大いに混乱した。


「カーリン・ノルディンシェルドです。よろしくお願いします。どうぞカーリンとお呼び下さい」


 続いてシュティーナの隣に立つ茶髪の少女がふわりと穏やかに微笑んで挨拶をしてくれた。


(二人ともゲームでは見たことがない……)


 わたしは二人に挨拶を返しながら考えていたけれど、茉莉衣の中には何の情報もなかった。

 ゲームでは女性キャラといえば、ヒロインのマリーかカロリーナか名前も出て来ないモブかしか登場していなかった。

 まだ幼いながらも落ち着いた所作で挨拶をしてくる二人はどうみても心当たりがない。

 今年入学ということは二人ともおそらくまだ十歳の筈だけど、既にわたしより身長の高いシュティーナは、このまま成長すれば男装の麗人として名を馳せそうだ。

 カーリンもわたしより僅かに低そうに見えるけど、自然と目が合う高さなのでわたしと大差ない身長だ。

 日本でなら小学生と中学生の間に随分と差がある様に感じただろうけど、二人の洗練された挨拶に加えてこの身長で、四歳も年齢差がある筈なのにわたしと同い年と言われても違和感はなかった。

 分かるのは、シュティーナもカーリンもエルンストもわたしが平民育ちというのは特に気にした様子もなく、気安く挨拶してくれたこと。

 エルンストはゲームでも最初っから気安く接してくれて友好的なキャラクターだからそれも当然かもしれないけれど、彼の妹達も和やかに接してくれるのは純粋に嬉しい。

 この学園に入ってゲームに関係無い初めての知り合いだ。

 自然と顔が綻んでしまう。家庭教師に知られたら貴族らしからぬ振る舞いだと怒られただろう。


 ゲームでのエルンストは愛想が良く好感度がすぐに上りそうに見えて実は身持ちが固い、という印象で最初から友好的だけど好き状態になる迄に結構時間がかかってしまう。

 そのくせ一歳年上なので二年で好感度を上げなければ、彼の卒業後にデートへ誘えなくなってしまう。

 学生時代にそれなりに関係を進めていなければ、三年目に彼が学園に居なくなってから、慌てて商会でバイトを始めたり、ひたすらお客として商会に通ったりしても、地味に好感度が上がるくらいで告白してもらえるまでには至らない。

 だから彼のこの初対面の気安さは、なるほどゲームの通りだな、という印象だ。

 それよりもシュティーナとカーリンは未知数で、設定に縛られていない彼女達が、貴族の嗜みとはいえ笑みを向けてくれている方が重要だ。


(想像よりもわたしの印象は悪く無いのね)


 入学資格を得る時の苦労を知っていると、もっと誰からも距離を取られる可能性があると思っていた。

 だからこそ、まずは仲良くなれる可能性の高い攻略対象者達から仲良くなっていこうと考えていたのだけど、この様子なら普通に友達を作ることも難しくなさそうだ。


(攻略対象者って、なんというか街中で芸能人に会ったみたいな感覚なのよね)


 こちらは一方的に相手のことを知っているけど、向こうはわたしを知らないし、なんていうかオーラというのか存在感があるからつい見てしまうし、勝手に心が浮かれてしまう。

 偶然会って会話している今のシチュエーションなら尚更、フワフワと浮ついてしまう。

 最初はみんな難点ありだと思っていても、繰り返しプレイしてそれぞれの事情などを知る度に、みんな幸せになって欲しいという気持ちが膨れ上がった。

 ゲームの登場人物に関してはそれだけ情が生まれてしまっているし、少し傲慢だけど好意を持ってもらえるという確証が持てる。

 だからこそ、恋愛は忘れて攻略対象者から仲良くなっていこうなんて考えていたのだけど、仲良くしてくれるなら誰だって歓迎だ。


「筆記用具やノートはもう用意している?偶数月にルーパス商会がここに販売しにくるよ。街にある店の方に直接買いに来てくれてもいいけど」

「はい。ありがとうございます」


 購買は常時あるわけではなく、隔月で販売に来る。それもゲーム通りだった。

 ただ普通に会話してくれるのが嬉しくてついお礼を口にしたら、ククッとエルンストが小さな笑いを漏らした。


「……?」

「宣伝に御礼を言われるのは珍しい」


 そういえばルーパス商会は、ベンディクス家が経営していた。


「あの、これは、販売日を教えて頂いてありがとうございますって意味で……可笑しいですか?」


 しどろもどろに伺うわたしの様子がどこを刺激したのか分からないけれど、エルンストはなんだかとても愉快そうだ。笑顔の質が変わったように感じる。

 そんなエルンストから、これから学園の中を見学するなら一緒に行って構わないかと提案されて、わたしは思わずカロリーナの顔を見た。

 カロリーナは相変わらず眉を顰めて、何か考える様子を見せたが、すぐに肯定の返事をくれた。

 こうして五人に増えてゾロゾロと学園内を歩き回ることになった。


 ハルティア学園の全校生徒は合計で七百人弱程。

 茉莉衣の通う高校は千人を超えているけれど、悲しいかな日本という限られた面積の前ではセレブ校と言えども公立の高校よりちょっと広いくらいなのだ。

 何が言いたいのかと言うと、ハルティア学園の敷地は広大で、やたらと歩く必要があった。


(入学の条件に“健脚”も書いておいて欲しいわ)


 下町で見掛ける貴族は馬車の中でふんぞり返っていて自分の足で歩かなそうに見えていたけれど、学園にしろ王城にしろ馬車で移動出来ない場所ではやはり自分の足を動かすしかない。

 しかも、男女共にヒールのある靴を履いている。

 特に女性は高く細いヒールが好まれていることもあって、長く歩くには適していない。

 シュティーナに関しては令嬢でありながら男装しているので低くて幅広のブーツだからかもしれないが、カロリーナもカーリンもケロリと歩いていて凄い。

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