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Raccoon はじまりは乙女ゲームで  作者: 加藤爽子
四章 マリー、学園生活の始まり
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学園案内 1

 両開きの大きな扉から中へ足を踏み入れれば、とても広いエントランスになっている。

 昨日、新節式のために初めて入った時には、エントランスだけで下町で住んでいた家なんてすっぽり納まってしまいそうだ、なんて思ったけれど、改めてここに立ってみてもその印象は変わらない。

 昨日はすぐに大ホールへ移動したから、今日はじっくりと見渡した。

 左右二ヶ所に二階へと続く階段があり、階段と階段の間を抜けた奥には小ホールへと繋がる扉が見えた。まるで劇場のようにも見える。

 エントランスでさえこんなに広いのだから、今は閉ざされている小ホールの広さも推して知るべしだ。

 新節式を(おこな)った大ホールはエントランスから向かって右側の廊下を進んだ先になる。

 あちらは圧倒的な広さもさるなことながら、彫刻が施された柱やフカフカの絨毯も凄くて、板張りの体育館を想像していたわたしには驚きだった。でも、よくよく思い出してみればゲームでも見ていた光景で、式というだけで学校の体育館を思い浮かべてしまった貧弱な想像力につい笑ってしまう。

 入学試験のあの時はわたしと茉莉衣(まりい)の思考はバラバラだったけど、今ではすっかり馴染んで境が曖昧になっていた。

 昨日はエントランスから大ホールを往復するしか出来なかったので、それ以外の場所はすべて初めて行く場所になる。

 カロリーナから案内してくれると言ってもらえて本当に助かった。


(ゲームでも一枚絵だけだから、学園のどこに何があるとかは知らないからね)


 誰に対しての言い訳なのかそんな事を考えながらカロリーナの後に着いていった。

 カロリーナは相変わらず難しい顔をしていて、茉莉衣の記憶がなければ嫌われていると勘違いして距離を置いてしまうところだっただろう。

 大ホールとは反対の左側へと進んだ先には、フードコートのようにテーブルと椅子が並んでいる場所に出た。更に奥にはいくつかの大小様々な個室に繋がる扉がある。


「個室の使用にはあらかじめ申請が必要になりますけれど、空いていれば直前の申請でも大丈夫ですわ」


 カロリーナの説明によると、学生達が休憩したり交流したりする為のいわゆるサロンと呼ばれる場所らしい。

 あと壁には大きな掲示板が設置されており、何曜日のどの時間帯に何の講義を行っているかや追加講義、休講の連絡などが掲示されていた。

 王立ハルティア学園では九月に前期試験、三月に後期試験があり、つい先日までは後期試験の結果も貼り出されていたそうだ。

 試験を受けた人は全員、入学年度に関わらずひとまとめにして基本五教科とその合計での順位が晒される。

 全校生徒がひとまとめにされるので、上位には三回生以上の名前が連なることが多い。

 他にも剣術や刺繍などの選択教科では優秀者のみの発表になるそうだ。

 カロリーナによると一回生から名前が上がる人もいるけれど、そんな人は極少数で選択教科でもやはり三回生以上の名前が上位に連なることが多い。

 極少数の例として、体術や乗馬ではアルトゥール・ラベリ、皇国語や帝国語などの外国語ではエルンスト・ベンディクスが入学当初からずっと優秀者として名前が掲示されていると教えてくれた。

 アルトゥールはまだ見習いとはいえ、既にルートヴィヒの護衛騎士として目されているのだから幼い頃から相当に鍛錬を積んできたのだろうし、エルンストも大陸との貿易が家業なので外国語の実践の機会が多いのだろう。

 とはいえ、十歳で入学している二人はすでに三回生を超えている。


 セルベル家の家庭教師に貴族の名前と家門の特徴を覚えるように言われているが、与えられた資料で分かるのは貴族になった人……既に貴族紋のある人のみで略歴しか分からない。

 まだ資料には名前が上がっていないアルトゥールやエルンストについて多少なりとも知識があるのは、ひとえに茉莉衣の記憶があるからだった。

 そのおかげで、学園のサロンへ来るのは初めてでも一枚絵の背景で見覚えがあったりして懐かしいとさえ思ってしまっている。


 最初この場所に入って来た時にはフードコートのようだと感じたけれど、別に飲食店が並んでいる訳ではない。

 そもそもハルティア学園には学食というものは存在しない。

 四月から高校三年生になる茉莉衣もすでにいくつかのオープンキャンパスに参加していたが、セルフで食事を受け取る学食に淡い憧れもあったから、ちょっと残念とも思ってしまう。

 カロリーナによると昼食を持ってきてここで食べることも出来るけど、大抵の生徒はタウンハウスに帰るか、街にあるカフェやレストランへ足を運んでいるそうだ。

 ちなみに隣接して厨房もあるらしいが、お弁当なんて文化はなくここに料理人や給仕係を連れてくることになるし、学園内に入る許可を取る必要もあるのでここで誰かが食事をするのは滅多にないらしい。

 下町時代だったら昼食がある事の方が珍しく一日一食、運が良ければ二食……それもほとんど味の付いていない薄いスープや日が経って固くなったパンのカビを削り落としながら食べる事が多かった。

 男爵家に引き取られてから三食出されるようになったけれど、濃い味は美味しいというよりも先にとても贅沢だと感じられて今だに体は慣れず二食で済ませてしまう事も多い為、特に昼食の必要性も感じていない。

 それに殆どの学生は午前か午後のどちらかの講義しか受けないようだ。

 たった三年で卒業資格を得なければならないわたしとは違って、通常なら十歳で入学して七年間かけて学ぶ内容だからそれで十分(じゅうぶん)なのだろう。

 上位貴族になるほど優秀な家庭教師から教わっているので講義へ出る必要もあまりない。

 前期・後期の試験に合格さえすれば、わざわざ学園に来なくてもいいのだ。

 ゲームでも孤児院へ訪問とか冒険へ行ったりとか学園以外の活動も選択肢にあった。

 すっかり馴染んでしまった茉莉衣の記憶では、パラメーターを上げさえすれば試験で良い成績を取れたので割と学校以外の選択肢を選んでいても卒業出来ていた。


「卒業の為の最低限なら五教科に絞られますがマリーには是非多くの教科に挑戦して頂きたいです」


 学舎内を案内してくれているカロリーナは目を細めながらそんな事を言った。

 昨日は随分と柔らかい表情だったのに、今日はずっと厳しい顔だ。

 今思えば彼女はイヴィとラヴィが一緒の時の方が笑っていた様に思うから、もしかしたら妖精が好きなのかもしれない。

 カロリーナの険しい顔に、二人を連れて来れば良かったとつい思わずにはいられなかった。

 ピュハマー家は神に愛されている分、妖精との契約はかなり難しいと聞く。実際、ピュハマー家でなくとも高位の神聖魔法が使える人に契約妖精がいた例はどの書物にも書かれていなかった。

 だけど契約していなくても妖精魔法は問題なく使える。そもそも葉紋は妖精樹が優先的に力を貸すと認めた者への証だからだ。有事の時こそ威力を発揮する。

 魔力が豊富なカロリーナであれば一時的に力を貸してくれる妖精も沢山いる筈だ。

 イヴィとラヴィには妖精魔法の実技の時以外は家でお留守番をするか新節式の時のように姿を隠してもらうことにしていた。

 授業のない今日はお留守番をお願いした。でも、カロリーナが二人に会うのを楽しみにしていたのだとしたら申し訳ないことをしてしまった。


「おや?こんな所で姫君達に会えるなんて僕はとても幸運だね」


 掲示板の前でカロリーナから説明を受けていたら背後からそんな声が聞こえてきた。


「エルンスト様、ごきげんよう」


 すぐにカロリーナが反応して挨拶をする。


お待たせしました。

ようやく連載再開です。

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