天狗
俺の名字は犬養と言う。27歳の男である。妖怪退治の専門家だ。今何をやっているかと言うと、パソコンで書類を作っている。霊能者は妖怪や幽霊を倒すだけが仕事ではないんだ。俺の所属している組織は待遇はそこらの会社とそう変わりはしないだろう。だが、武器を持つことが警察から許されていて、そこは特別待遇と言えるだろう。もちろん、給与も他の会社とは違って、ある方だ。ウハウハと言えるかもしれない。しかし、妖怪退治は命懸けだから、それに見合っているかどうかは分からない。
「犬養」
俺を呼ぶ声がする。呼ばれた方向に顔を向ければ、中年の男性が俺の横にいた。俺は手を止める。
「何でしょうか」
俺は聞く。この人は俺の上司に当たる人物で、浜口という。良くも悪くも普通の上司と言ったところか。
「ここから遠くない場所で妖怪が現れた」
彼の沈痛な表情と言葉に俺は真剣に耳を傾ける。妖怪が出ることはよくあることなので、驚かない。
「妖怪はあの有名な天狗だ」
「天狗ですか」
「そうだ。それをお前に退治してもらう」
「分かりました。書類が終わったらで良いですか」
「それでも良いが、一般人に被害が出ているから、できるだけ速くな」
「分かりました。武器はどんなのを支給してくれるのですか」
「弓矢だ」
「弓矢ですか」
当然妖怪を退治するための特殊な力のある弓矢なのだろう。しかし、相手は天狗。空を飛ぶ妖怪だから、弓矢より銃の方がより適切だろう。弓矢でもできないことはないが、確実性に欠ける。でも、上司の命令に嫌とは言えず。
「分かりました。なんとかしてみます」
「なんとかではない。絶対殺せ」
「はい」
「よし、じゃあ、現場までの案内をだすから、その人についていけ」
「はい」
そして、書類仕事が終わるとほぼ同時に弓矢が支給され、案内人を名乗る人物が俺のところに来る。
「それでは、案内します」
案内人がそう言いながら、バスに乗り込む。俺も後に続いた。
乗ったところから、二駅離れたところで降りて、俺は案内人とともに歩く。
「ここです」
案内人に案内されたのは誰もいない道だった。まるで、何者かが人間を寄せ付けない結界を張っているかのようだった。恐らく天狗の仕業だろう。
「では、私はこれで失礼します」
案内人が帰って行った。さあ、仕事だ。
道をしばらく歩いていると、前方から妖怪の気配がした。俺は持っていた弓矢を構えた。そして、妖怪の姿が現れた。赤い顔、長い鼻、そして、翼がついていた。まさしく天狗だった。おまけに、鋭い爪が左右の手にあった。あれを食らうと危険だな。
俺は構えた弓で天狗の心臓を撃ち抜こうとしたが、かわされた。なら、頭だ。しかしながら、それも避けられた。ならば、機動力を奪うまでだ。俺は翼を狙い撃った。だが、かわされる。
「クソ」
俺が悪態をついたと同時に、天狗が迫ってきた。くっ、避けられない。天狗が爪を振るうとともに、俺は首を切られてしまった。首に激痛と体温が冷たくなるのを感じながら、俺は意識を失った。
「浜口、犬養が死んだ」
私は上司に呼び出され、そう告げられた。あいつ、やられたのか。役立たずが。
「そうなんですか」
「そうだ。だから、今度はお前がやらなくてはならなくなった」
上司がそう命じる。私は42歳の男で妻子がいる身だ。この仕事は絶対にしくってはならない。
「使用可能な武器は何ですか」
「犬養の時は弓だったからな。今回は銃の許可が下りた」
ピストルか。これなら、確実に天狗を仕留められる。ぜいたくをいうなら、マシンガンかショットガンが良かったが、上司の命令には逆らえない。
案内人に天狗が現れる現場に案内してもらった。案内人が帰ると、私は先へ進んだ。
霊的結界の中に天狗が出現した。私はよく狙って、飛んでいる天狗の左胸を撃った。
「ぎゃあー」
天狗は叫びながら、地面に落下した。よし、命中。私はとどめをさそうと天狗の近くに行く。そして、私は天狗の頭にピストルを突きつけてから、撃った。天狗の死を確認した私は霊的結界がなくなったところから、去って行ったのだった。