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短短編群  作者: 織上
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終末ホームビデオ

ひゅるるるるるるるるるー

 遠くで星の降る音が聞こえる。珍しくもない、あれはやや小さめの隕石だ。確かめるように空を見上げると、そこには輝きを競うように煌々と煌めく無数の星々。その間を縫うように堕ちてくる一筋の光の粒。

 今日も特に変化なし。記録を一時停止。おやすみなさい。


 からんからん、からんからん。

 今日の天気は雨。頭上注意。おうちの中で過ごしましょう。鉄くずの雨が鉄くずのがれきの山に降り注ぐ。からんからん、かちん。ぼっ。所により火事になるでしょう。外には出られなさそうだ。

 あきらめてごはんを供給する。各関節にも忘れずに。

 外に出られないので、今日の記録も特に変化なし。おやすみなさい。


 からんからん、からんからん。

 今日も雨だ。おうちの中で過ごす。

 ふと、視界の隅で青い何かが光った。お気に入りの椅子の下にいる。そっとかがみこんでみると、ちいさい虫が一匹。逃げることもなく、じっとしていた。きれいだった。なんとなく、星を連想した。それからしばらく観察していると、ついにどこかへ行ってしまった。気づいたら一日が終わっていた。

 今日の記録。今日は7年と600日ぶりに生物を発見した。青くて小さい、昆虫というやつだろう。ちいさくて、きらきらしていて、きれいだった。記録を一時停止。おやすみなさい。


 雨が止んだので記録を再開する。時間は夜。

 夜にも月が昇らなくなってから100年と少し。かつて地球を支配していた人間は、もう影も形もなくなった。人間以外の野生動物も、そのほとんどが足跡を絶った。

 見上げれば、黒い空。輝く星々。見下げれば、いびつな、それこそ月でも落ちてきたように大きく凹んだ大地。目線の高さを見渡しても、見えるのは真っ黒で凸凹な地平線だけ。いつもの赤と黒と灰色と銀色の山が恋しくなるほどに、夜の暗さがすべて飲み込んでしまう。見飽きた鉄の山も、夜だと見ていられないほどにつまらない。とてもつまらないので、空を見上げることにした。その時、


「「「「「ひゅるるるるるるるるるるるるるーーー」」」」」


 聞きなれた音が、聞いたこともない大きさで轟いた。

 そこには、

 あんなにまぶしかった星が、輝きを競うこともやめて、ただそれの明るさに沈黙していた。

 それを視界にとらえた瞬間、思わず走り出してしまった。

 絶対に視界から外さないことだけ考えながら、無我夢中で走った。落下予想位置を演算した。そして走った。走って、走り続けた。

 あ、

 しまった。落下予想地点に近づいたところで、ミスをしてしまった。

 しまった。きっと地面が黒かったからだ。石に躓いてしまった。昼だったらこんなミスはしない。

 しまった。こんなこと、考えてる場合じゃない。転んだ先はさらに下り坂だった。どんどん転がって、みるみるうちに底に落ちてしまった。

 そこで、一つ気づいたことがある。落下予想地点、ここだ。落下する範囲のど真ん中に、ちょうどいる。ちょうどいい。特等席だ。

 特等席に寝そべりながら、空を見上げた。

 ああ、なんて。

 なんて大きいんだ。なんてまぶしいんだ。なんてきれいなんだ。

 記録から、月を連想した。夜空の何より明るくて、大くて、きれいだったそうだ。でも、この星の方が何倍もきれいだった。

星は最初より何倍も大きくなって、こちらへ堕ちてくる。ごうごうと音がする。どんどん大きくなる。大地が揺れている。共鳴するように、音を立てている。めらめらと輝くその星は、ついに大地を照らし始めた。赤と黒と灰色と銀色の地面は、この星の前だと、やっぱり全然、恋しくなんてなかった。

もう星はすぐ目の前だ。身体が解け始めている。視界も砂嵐がひどい。まともに記録できていない。ああ、もしあのとき躓いていなければ、綺麗に記録できていただろうな。明るい場所で、十分に離れて、見られただろうな。

 でも、後悔はなかった。だって、今見えている景色は、今までのどんな記録よりも、綺麗だったから。記録は一時停止しなかった。見とれていたんだ。最期まで。

 そうして、夜空で一番明るい星が堕ちた。

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