林間学校2日目・・午後前段2
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飯盒のフタがカタカタと音を鳴らし上下に揺れ中から白濁色の熱い汁が溢れ始めてきた・・それをジッと横で見ている一条が足元にあるオモリに使う石をフタの上に置く気は無く動かない。
こっちから話しかけるのが面倒な俺は、1個だけ石を取りフタの上に置くとやっと気がついて残りの2つの飯盒のフタに彼女は石を置いてくれたため火バサミで火加減を調整する。
「「 ・・・・ 」」
この距離感で互いに顔を合わせず無言の時間が流れる中で、煮込み当番の俺は市販ルーの固形を溶かし混ぜる。
「美味しそうな香りになってきたわね? 上坂くん」
「不味いカレーを作る方が難しいよ?」
「・・そ、そうね。箱の裏に書かれた通りで十分だものね」
「高橋さん、まさか?」
過去の何か苦い経験を思い出したような表情を浮かべ鍋を見る高橋さんに問い掛けるも否定されるも、その反応から直感でカレー作りに失敗したなと理解する。
「・・そんなことより、お米は上手く炊けたのかな?」
「どうかな? 火加減が難しいから底の方は焦げてるかも・・もうそろそろ時間だし、蒸らし時間で火のないところに移動させていいかもなー」
遠回しに言うと一条は指先が黒くなった軍手をつけて飯盒の釣り手を握り持ち上げ、近くのテーブルの上に置いていた。
出遅れた俺達の班の完成は他より遅く、もう先に飯盒のフタを開けて米の状態に歓声を上げる班や悲鳴をあげる班があり盛り上がっているのを耳にしながら仕上げの煮込みを終わらせる。
出来上がったカレーの鍋をテーブルへと運ぶと、俺のタイミングを見ていたのか高橋さんの手際の良さで既に配膳準備は整っていた。
1班6人編成だけど食器は5人分しか用意されていないことに、改めて武藤くんの存在は班から消されている。
「田所くんと一条さん、2人で配食をお願いしてくれる?」
「おう、任せて高橋さん」
「うん」
高橋さんからの指示に喜ぶ秀平と返事だけする一条の2人が、なかなか開かない飯盒のフタに苦戦しているのを見ていると、高橋さんが俺に手招きする。
「なに?」
「ちょっと来て」
自分達で作ったカレーライスを楽しそうに評価したり調理中のミスを笑い話にする班を横目に少し離れた場所に移動する。
「今朝から一条さんの様子は変だったけど、今は朝よりもっと変だけど何かあったの?」
「んーわかんない」
「はぁ? あなた達、幼馴染でしょ?」
「あぁ、幼馴染だからこそ原因かな?」
「どうゆことよ?」
「詳しくは言えない・・一条さんは、彼氏とうまくいってないんじゃない?」
「彼氏と? 彼氏って、上坂くんがあの子の彼氏じゃ・・」
「彼氏じゃないよ。偽彼だった・・」
「え? どういう・・」
「もう行くよ、高橋さん」
林間学校の班決めの後で話していた彼女の印象はクール系女子かと思っていたけど、キャラが全然違うように見える高橋さんを置き去りにして秀平達の所へ戻った。
「悠人、米がめっちゃ綺麗に炊けたぞ!」
「マジ? 立花さんの水加減が良かったんだよ」
「そそ、そんなことないよ上坂くん・・・・」
恥ずかしがる立花さんの反応が予想外に初心で自然と笑ってしまう自分に気付いていなかった。席は適当で少し遅れて戻って来た高橋さんが座った後に他の皆は近くの椅子に座る。
「うめー! やっぱり立花さんの水加減が良かったから、米の硬さが丁度いいよ!」
「あ、ありがと・・田所くん。そんな褒めないで・・」
「・・家で食べるカレーより美味しいわ・・上坂くんの煮込みが良かったのね」
「そうかな? 箱裏の工程通りに作っただけだよ」
一口食べようとしたところで高橋さんの問いかけに応えたため、遅れて口に含み咀嚼し飲み込んでからポツリと感想が口から溢れる。
「・・味しないな」
食堂で食べた朝食と同じで絶対に味がするカレーライスはハッキリとしない無味で、さっきまであった食欲はゼロになりスプーンを皿に置いてコップの水を一気に飲み干す。
「・・・・あら、上坂くん? みんなで作ったカレー食べないの?」
「・・ちょっとね」
「悠人、お前まだ・・」
「みんなはゆっくり食べてて。俺は時間がかかる飯盒を先に洗ってるから」
「待ちなさい。今は班のみんなで一緒に食べる時間なのよ? 上坂くん」
「高橋さん、これには訳が・・」
「田所くんには聞いてないの」
「あぅ・・」
秀平は高橋さんからの圧で何も言えなくなり俺を見て、高橋さんは少し不機嫌そうな顔をして俺を見て口を開いた。
「上坂くん、どうして美味しいカレーを食べないの?」
「・・高橋さん、今の俺には味がしないんだ・・全部ね」
「味がしない? 普通に味するわよ?」
「それは理解してる。良い香りがするからね? でも、俺には何も味がしないんだよ・・今日の朝飯からね」
突然の味覚障害宣言に、秀平以外の3人が驚く反応を見せ静かになる。
「たぶん、精神的なモノだと思うよ高橋さん。それだけ今の俺の心は終わってる・・ただ、それだけ」
「何があったのよ? あなたに・・」
「それは言えない・・ゴメン、こんな空気にしちゃって」
軽くなった飯盒を手にして洗い場へと行く途中に、背後で高橋さんが突然泣く葉月に慌てふためいている声が聞こえた。
もう今からでも家に帰りたい俺は夢中で飯盒に付いた煤と米のヌメリを洗い落とすことで自分の世界ヘと没入していくことで逃げて時間を稼ぐ。
野外炊飯で遅めの昼飯を食べ終えた後は秀平が1番楽しみにしている交流会の時間まで自由時間となり、今は秀平と部屋でゴロゴロするだけだった・・・・。
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