戻って来た街で再会
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「父さん、もう一回言って?」
「夏の定期異動で、前住んでいた街に戻ることになった」
「・・・・父さん、それマジなやつ?」
「すまん、悠人。会社の人事で決まったことなんだ。父さんは、それなりの役職だから組織の要求に応えるしかないんだ」
「・・高校はどうしたら? あの街から電車で通うのはキツイよ・・」
「編入してもらうことになる。この街に引っ越さなかったら通うはずだった高校に」
「あいつら、幼馴染達がいる高校に?」
「そうなる・・嫌か?」
「・・・・わかんない。けど、もう決定なんだよね?」
「すまん、悠人」
「わかったよ。父さん」
生まれ育ったあの街に戻れることは正直言って嬉しいけど、中学3年の冬に見たあの光景が今でも忘れられない俺は、結衣と一哉と再会した時に普通に接することができるか自信が無い。
大人社会でいう夏の異動で俺達家族は再びこの街に戻って来たけど、以前住んでいた場所から少し離れた地区のマンションで生活を再開することになる。
7月半ばの中途半端な時期で転校先の前崎高校の編入試験で基準以上の結果を残せた俺は、編入を認められ通学は制服とか揃える時間との兼ね合いで夏休みが終わった9月から通うことになる。
前の高校と前崎高校の偏差値は前の方が高かったことと、授業内容の進展が違っていたため課題も無く自由な夏休みを過ごしていたある日の街中で、行き交う人々の向こう側から手を振る夏制服少女がポニテを揺らし走って来た。
「悠人先輩!!」
「お〜咲希ちゃん。久しぶりだね?」
「はい、お久しぶりです先輩」
「夏休みなのに制服?」
「夏期講習の帰りなんです」
ニコッと笑う咲希ちゃんは夏なのに色白で見上げ向ける無垢な笑顔で妹的な存在で可愛いなと思いながら、つい右手を伸ばして頭を撫でてしまった。
「んぅ・・センパイ?」
「あっ・・ゴメン、つい」
「別にいいですよ〜悠人センパイなら。でも、結衣先輩に怒られちゃいますね?」
「あはは・・かもな?」
「センパイ、どうしてこの街に?」
「戻って来たんだよ」
「?? どういうことですか?」
「実はね、7月に引っ越して来たんだ。また父さんの都合なんだけどさ・・それで、夏休み終わったら前崎高校に通うんだよ」
「えっ!! センパイ、前崎高校に通うんですか!?」
「そうだよ・・もしかしたら来年は咲希ちゃんが後輩でいるかもね?」
「います! 絶対にいます! 第1志望が前崎高校なんで! もう帰って勉強しなきゃです!」
急にクリッと大きな黒い瞳を輝かせグイッと顔を近付ける咲希ちゃんは、両手を胸の前にギュッと握りしめる。
「うん、頑張って!」
「はい!」
手を振り笑顔の咲希ちゃんは軽い足取りで帰って行き遠ざかる後ろ姿を見送った後に、懐かしい街並みを歩くも知り合いに会うこともなく家に帰り着きリビングで母さんが大きなカバンに荷物を入れていた。
「ただいま、母さん」
「悠人、行くわよ」
「行く? どこに?」
「荷物はお母さんが準備したから車に乗って・・」
半ば強引に母さんに連れられ県外にある母さん側の祖父母の家へで残りの夏休みを過ごし家の自分の部屋に戻って来れたのは最終日だった・・。
「明日から学校が始まるんだよな・・」
ベッドの上に寝転びながら前崎高校の入学案内とパンフレットを眺めながら呟き、投げ込まれるクラスに幼馴染の誰かがいたらどうしようかと悩むも答えは見つからない。
「結衣と一哉は、もう付き合っているよな〜ぜったいにさ・・・・」
幼馴染達のことを考え目を閉じると必ず浮かび上がる光景は、結衣と一哉がキスをして顔を離し互いに見つめた時の結衣の表情を見たところで逃げるようにパッと目を開け現実に戻り、ため息をつきながらパンフレットを机に置き明日の準備を済ませ無理矢理眠りについた・・・・。
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