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少女は夜会に毒を盛る-1

「ティピカ・アンセル!この売女が!私という婚約者がいながらその行い……恥を知れ!」


 私に対してそう罵声を浴びせるのは今、この瞬間までは私の婚約者だった男だ。

 それなりに大きな商会を若くして任された男はまだ駆け出しだったデザイナーの私の才能に目をつけた。

 そして当時の私の実家の商家はかなり経営が傾いており、一人娘を差し出すような形になった婚約だった。

 青田買いという奴だ。

 それ自体は問題が無い。

 どこにでもある政略結婚の一つ。

 しかし、私は男の言いなりになるような可愛げのある性格ではなく、男は私の才能に嫉妬するような程度の低い人間だった。

 あと、あまり身体が成長せずに幼児体型だった。

 それも問題の一つなのだろう。


「なっ!何を言っているのです?」

「昨日も一昨日も、いや!この数日は家にも帰らず男と密会をしておったな!バレないとでも思っていたか!」


 男は糾弾する。

 やってもいない罪をでっちあげ、あからさまな嘘を並べ立てる。

 周囲にいる人達はヒソヒソと話すばかりで誰も私を助けてはくれない。


「それだけではないぞ!貴様が行ってきた悪行は既に把握している!そのような(なり)で誤魔化そうとしても醜悪な本性は隠しきれないのだ!」

「そんな事はしていません!」


 冷たい視線が刺さる。

 取り巻き達がせせら笑う。

 男も女も陰険な悪人面。


「黙れ!貴様の弁明など聞く必要はない!お前との婚約も続けることはできそうにないな!」


 私の精一杯の抵抗を男は切り捨てる。

 下品な笑みを隠せていない婚約者だった男。

 そして男の隣でニヤつく女は私の商売敵。

 わかりやすい構図だ。

 私を排除してこの女を重用する。

 誰にでも作れるような凡人の作品であっても有力なライバルが居なければそれなりに存在感が出るだろう。

 その考えが透けて見える。


 あまりにも有名になってしまい近い未来に制御ができなくなるであろう私の事が目障りになったんだろう。

 私はもうこの男に頼る必要は無いほどにデザイナーとしての地位を確立していたからだ。

 自分よりも立場が上な女は必要が無い。

 それが遥かに歳下の生意気な女ならばなおさら気に入らないと言ったところか。

 なんとも器の小さい男だ。


 だけど、私は黙る事しかできない。

 どれだけ反論をしても周囲にはみっともなく足掻いているようにしか見えないのだろう事がわかる。

 俯き震え、拳を強く握るしかできない。

 

 男が主催したパーティー。

 名目は何だっただろうか?

 確か季節ごとに行われる定期的な夜会だったはず。

 参加自体は初めてではなく何度か来たことがあった。

 だが、今回は違う。

 ここはパーティー会場などではない。

 私を貶め、傷つけ、踏みにじるための場所。

 ここは私の処刑場だ。

 

 そんな事はわかっていた。

 だから、私は毒を仕込んだ。

 この男を破滅させる毒を仕込んでおいたのだ。


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